数日が経ったある日。何時ものように場外の巻藁前で修練を行っていた時だった。長谷川から声を掛けられる。

「高橋さん、ちょっといいですか?」

ファイルケースから二枚の絵図を取り出す。

「いいものを作ったんで、これあげますよ。この絵図を参考にして、場立ちの稽古をしたらいいと思います」

それは、射法八節の各動作の中から、大前で進む場合の足の運びと二人目、三人目以降(全体では五人立ち)を示した図と注釈、さらに別紙で道場への入場から六コマの絵図と注釈、そして射後の退場までのポイントを記した二枚物である。

得意げに、「これを解読しながら修練を行うといいし、参考にしてください。良かったらあげますよ」と言われ、記された二枚を手渡された。その二枚物を見ながら、高橋が声をあげる。

「ええっ、いいんですか。いただいて宜しんですか?」驚きの表情に長谷川が頷く。

「どうぞ、活用してください」

「いやいや、長谷川さんはすごいですね。各動作のポイントがきちっと、簡潔明瞭に記されていて、さすが有段者です。こうじゃなければ、二段にはなれませんよね」と、自分との違いを告げ受け取る。

「それじゃ、遠慮なくいただきます。しかし簡潔ですし、よくもまあこんなに上手に書けましたよね。長谷川さんは絵の才能も有るんですね。俺なんか、こんな風に書けませんよ。大したもんだ」高橋が感嘆の声を発し、さらに内心で思う。「この絵の通り動作が出来るのかな。まずもって理解できるかが問題だし、この絵図のようにスムースにこれらの動きが出来るかだ」さらに見つつ、「うむ、一筋縄ではいかん。まずは全体像と各動きをマッチングさせて理解し、身体に染み込ませなければならんぞ。折角もらった絵図も、己のものにしなければ宝の持ち腐れになってしまう。その意味でも、この仲間の友情には感謝せねば」と胸の内で頭を下げた。

さらに高橋が、「長谷川さん、これからこの絵図を活用させてもらいますが、もし分からない部分が有ったらお尋ねしますので、宜しくお願い致します」

すると長谷川が応じる。「勿論ですよ。何でも結構ですから、遠慮なく尋ねてください。私なりに解釈し実行していることを教えますから」

「それは有り難い。同期のよしみで、宜しくたのみます」と高橋が返した。



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