二
「しかし、なんだ。道着が着られるようになれば。まずは弓道人としての身だしなみが整う。さすれば、心身ともにその道にまい進出来る気がします」と言いつつ、姿勢を正し白下先生に礼を述べる。
「今後とも、ご指導の程宜しくお願い致します」と深々と頭を下げた。すると「そうそう、その姿勢が宜しい。弓道とは謙虚さが必要だし、礼儀正しさが求められるものだからな」と返してくれた。
道着が届くまでの間、ジャージ姿での稽古に励む日々が続いた。勿論、長谷川や市川は昔着ていた道着を身に付けて参加した。その容姿は経験者としての風格さえ漂よう。そんな姿を垣間見て、「やはり、長谷川さんや市川さんはさすがですね。有段者としての風格が容姿に滲み出ているもんな。俺なんか、いまだジャージ姿での稽古だもん。各動作に重みもないし、未成熟のなにものでもない。それも仕方ないか、経験の差がまともに出ているし、巻藁前とはいえ行射姿は迫力ゼロだよ。なあ、長谷川さん。俺の動きを見て、如何思うか率直な意見を言ってくれないか」窺うと、長谷川が応える。
「うん、まあね。これから一生懸命努力すれば、それなりに形が出来るから。頑張るしかないですよ。でも若い人とは違い、勢いで上手くなろうなどと考えない方がいいと思うよ。それに無理をすると、身体の至るところで軋みが生じ悲鳴を上げてきますから気を付けてください」と注意し、さらに続ける。
「とはいえ、高橋さんを見ていると。自己コントロールのたがが外れて、暴走しそうだな。従ってこれからは、その辺のコントロールをきちっと守ることが大切だと思うな」得意げに言う。
すると高橋が、「はたから見ると、俺、そんな風に見えますか?心配していただくのは大変有り難いことです。大いに感謝するとともに、忠告を忘れないよう頭に叩き込んでおきますよ」と言い、さらにのたまう。「確かに、俺は。直ぐに熱が入りやすいタイプだし、より上手になろうとブレーキが甘くなると言うか、効かなくなる性格だ。暴走しないよう精々自己抑制して稽古することにしよう」能書きを言い、「うむうむ、皆さんの言う通りだ。ブレーキ、ブレーキ」と謙虚な気持ちを現してか、真顔で復唱するのだった。
そんな様子を見て、「大丈夫かな、自己コントロールするって。熱が入りやすいって言うけれど、頭に血が上るタイプだし、コントロールを失って暴走するんじゃねえか」
長谷川が嘆いた。
すると市川が「だから、誰かがブレーキ役をしてあげないと脱線しかねない。仕方ない、俺がその役を引き受けましょうか?」
「それがいい、同期のよしみでお願いしますよ」長谷川が了解した。
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