揃え買うとなったら何時届けられるか、また合計金額がいくらになるのか気になるところだ。

それに応えるように店員から「お届けは、二週間後になります。ええと、高橋さんの合計のお値段は、全部で九万三千五百円になります。」と告げられ、さらに「なお、弓の方に付きましては、本日現金にて清算していただきます」と言われ、弓代金をその場で支払った。

さらに「他の矢や黒袴それに弽などについては、納品日が後日になりますので、振込用紙兼請求書を弓具一式揃え次第お持ち致しますので、取引銀行か郵便局の方からお振込みいただきたいのですが」

すると高橋が、「ところで後日納品とのことですが、何時頃になりますか?」と尋ねると、店員が返す。「そうですね、十日か二週間後にお持ち致します」

すかさず、高橋が「こちらの道場に持って来てくれるんですか?」尋ねると、「はい、そのようにさせていただきます」と返事をよこした。

「それじゃ仕方ない、それまで弓道場の用具を使って練習しようかな」と告げ、中断していた稽古を始めようとした時、教育担当の村越が選んでくれた弓と矢を使って、巻藁前で基礎である射法八節の弓構えから残心までの動作を、丁寧にゆっくりと繰り返していた。

この練習は、場立ちでの行射を想定したものであり、的に向かい射たことのない俺にとって、大変重要な鍛錬である。きちっと一つ一つの動作を、この巻藁行射で身体に染み込ませるための、言わば特訓となるものである。

射位からの行射を念頭にして、足踏みから残心までの一連の動作を、弓に矢を番え巻藁に向かい射ってみる。その衝撃が両腕を通じて身体全体に伝わってきた。

「うむ、実際に弓で矢を射るとは、この感触なのか」と、思わず口から洩れた。続けて弓に矢を番え巻藁に向かい射る。この巻藁行射を何度も繰り返えした。

「なるほど、弓で矢を射るとはこのことか。何という新鮮な感触なんだ。しかし、この感覚が、的に向かって射る場立ちでの行射と、どこに違いがあるのだろうか?」

「やはり、どこか違うのだろうな…」頭の中でその違いを考えるが、はっきりと想像出来なかった。

「そりゃ、そうだ。巻藁前練習は、場立ちでの本格行射とは根本的に違う気がするよ。ああ、早く。的に向かって、射てみたいもんだぜ」高橋が漏らしながら練習に励む姿があった。あいまに、つと思う。

「長谷川さんや市川さんにとっては、巻藁行射は本番前の準備運動となるんだろう。なんせ、何度も経験している有段者だからな。俺のように始めたばかりとは根本的に異なる」

「彼らの前ではつい突っ張るようなことを言うけど、それは早く彼らに追い着きたいと思うがゆえだ。でも、まだまだだ。今の進捗状況から言えば、俺なんぞ四周半遅れくらいの位置じゃねえか」

「四周半か、しかし遠いな…」目を細め漏らした。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る