第五章弓道用具一


そんな中で、川越市弓道連盟に正式入会した当時の頃を思い出す。

「そう言えば、弓道教室の頃は弓も矢も、そして弽など一式借りて使っていたんだっけな」と、高橋が懐かしんでいると、白下先生より「今度、五月二十三日に小山弓具が道場に出張販売に来るので、一式揃えて購入したらどうか」の勧めがあった。

「そりゃ、そうだ。何時までも借り物でやっているわけには行かない。一応俺も川弓連の会員だし、やはり一式揃えるとするか」高橋が応じ、さらに「ええと、まず袴や道着と弓、それに矢と弦に弽が必要になる。揃えるとなると、結構いろいろなものが必要になるんだな」

「まあ、柔道や剣道とて道着や道具が必要になる。多少出費が重なっても仕方がないか。何時までも、ジャージや借り物とはいかんからな」

どれくらいの金額になるか見当もつかず、教育担当の村越さんに聞き、おおよその現金を用意することにした。

出張販売の当日が来た。小山弓具が弓や矢そして弽。それに道着、さらに細かい用具を持って弓道場に来た。勿論、買うのは未経験者が中心であるが、経験者の中には新しく買う人もいた。

当然、俺などは弓から矢(一セット)、それに道着(袴や上着一式)、さらには弽、内弽を、店員が身体つきや手の大きさを見て揃えてくれた。道着はサイズがいろいろあり、身体に合わせたものを選択してくれるので、言われるがままに決める。

また弓一つとっても、竹で出来たものからグラスファイバー製のもの。さらには弓の強弱があり、これも店員が購入者の体格などを考慮したうえで決めて貰った。ここでも白下先生の適切なアドバイスがあり、店員が数ある中から選んでくれた。ちなみに俺の場合は、弓の強さが十三㎏のものとなった。また矢はどちらかと言うと、購入者が羽根の模様など気に入るものを選択した。

弓にしても矢にしても、値段はピンからキリまであり、価格は随分異なる。竹弓は十万円以上でとても手が届かない。それに比べ、グラスファイバー製の弓は俺らにとって手頃となるが、それでも数万円単位である。矢のセット(六本)は、羽根によってはこれまた高いので、それなりのものとした。

「俺の場合は」と、高橋が自分の予算に合わせた道具一式を揃えた。

「まあ、取り合えず。弓はこの弓でいいか」と、予算を考慮に入れて決めたし、矢にしても六本セットの比較的安いものに

した。道着に至っては、店員が俺の身体を見て、袴と上着の数ある中のサイズから選んでくれた。勿論、袴は黒で上着は白である。

日常着るものではないため、店員の見立てによるものとなった。足元は白の足袋で統一され、サイズは二十四、五㎝のものを購入する。従って、靴下の使用はご法度となる。足袋などは、道場での稽古や審査時以外に履く機会がない。勿論、道着なども普段の生活では使わないし着もしない。

これは柔道や剣道、野球とて同じような気がするが、如何であろうか。道着やユニホームを着て街中を歩く奴はほぼ皆無であると思いつつ、高橋は「やっぱり、本格的に弓道を始めるには必要不可欠なものばかりだよな」と、つくづく感じていた。

一方、長谷川や市川は事情が異なる。「どうも聞くところによれば、両者とも弓も矢も昔揃えたものがあるし、弽も当時使っていたもので手に馴染んでいて、それを押し入れから引っ張り出して使えばいいか」となったらしい。

「弦などの小物類については、この機会に買い揃えることにしよう」彼らには、わざわざ店に行かず買えるので有難いことである。

「まあ、俺の場合は初心者ゆえそうもいかないよ。何時までも道場の借り物じゃいけないし、道着もジャージと言うわけにはいかんので、とにかく一式買い揃えるよ」

「年金暮らしでの臨時出費は堪えるが、致し方ない…」とぼやきながら、弓、矢、弽や道着などを買い求めていた。



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