第三章弓道受講一
弓道教室も、初日からの練習が中盤に指しかかっていた。
この頃になると、長谷川との距離も随分近くなる。さらに仲間として、親しくなったのが市川である。結局この三人が、練習の合間に冗談を言い合ったり、弓道技術の話をするようになった。
むしろ俺は今回から始めたので、迷った時はこの二人に如何すればよいか尋ねることが多かった。と言うのも、長谷川は学生時代から弓道歴があり、市川も社会人になってから始めて、いったん弓道から離れていたとのことである。従って、両者とも今回が初めての挑戦ではない。れっきとした経験者で、それも其々二段の有段者である。
それに比べ、俺ときたら初心者だ。彼らとは、まったくスタートラインが違うため、いろいろ単純なことばかり質問して、二人にしてみれば煙たくなるのではと余計なことを考える。が、両者とも仲間として丁寧に教えてくれた。
「如何して、弓はこんな風に変形をしているんだろうか?」とか、「何で弓の強さをキログラムで言うのか」など。彼らにしてみれば、至極当たり前のことだが、俺にとっては不思議なことなのである。
初心者とは得てしてこのようなものだ。単純なことから高度な技まで、いろいろやり取りしていたことから、ここへ来て長谷川や市川との距離も近くなったし、随分と親しくなっていた。
そんなことで仲間が出来て、弓道教室を回避する理由がなくなる。「うむ、これなら最終回まで続けられそうだ」と感謝しつつ、弓道場へ通っていた。
「それも一回も休まずにだ。どうせ練習するんだったら、続けなきゃな。大枚三千円の参加費を支払っているんだ。まあ、焦らず。弓道とは如何なるものか、そしてどの様なものかの一端でも解かれば、こりゃ収穫というもんだぜ」
「そう思えば、続ける価値があるし、弓道と言うものに触れるだけでも、弓道教室に通う値打ちがあると言うもんだ。それにこの弓道教室を通じて、長谷川、市川と言う新しい友達も出来たことだしな」
そんな単純な考えで続けるのだが、やはり生易しいものでないことに出会う。
「ひえっ、安易な考えが仇となるんかい」
未熟さを忘れ、放たれた矢が的を大きく外す。
「危なく隣の的に中るところだぜ」
「自分の意志とはまったく違った軌道を描いて、飛んで行くとはな。信じられんし予測不能だ」周りを気にしてか、肩をつぼめる仕草をした。
「参ったな…」
「それにしても、二人の弓道熱には恐れ入る。それに、よく的に中るしな」己が初心者であることをついと忘れ、自分の不甲斐なさに頭の中が混乱するばかりだった。
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