教室開催当日は講義が中心で、その後二日ほど続けた後、実際に弓道連盟の弓具を借り実際に持ってみる。これとて弓が沢山あり、どの弓を使えばよいか解らず迷っていると、教育担当の村越が「これにしたら、如何ですか」と、数本見せてくれた。その中から、私を見て「この弓を使ったらいいと思いますよ」と、弦を張った弓を渡してくれた。

弓道で使う弓の種類は男性用と女性用があり、男性用では十一、十一,五、十二、十二,五~十五,五㎏の弓があり、女性用では九、九,五、十、十,五㎏のものと揃っていた。

「如何だろうか、俺に合う弓はあるのかな…」と思案していると、「これなんか如何だろうか」と、村越が十三,五㎏の弓を勧めてくれた。

「おお、これが俺の身体にあった弓か」と実際に手にしてみるも、ずっしりと言うかそれなりの重さが手のひらに伝わってきた。

「それにしても、こんな弓を弾けるのかな。あんな遠くにある的に当たるのか。いや、届かないかも知れんぞ」不安になるも、村越が払しょくするように「大丈夫だよ。数回やれば慣れるから。それでもきつい様なら、少しランクを落とせばいいんだ」と平然と言った。

「いやいや、未経験の俺にはあっているかどうか分からないし、弓の強さを変えるなんて百年早い。まず、与えられた弓でやってみるか」と内心開き直る。

「それにしても、弓道用の弓ってこんな形をしてるのか。テレビ放送の時代劇で観みる弓とちょっと違うんじゃないか…」てなことを思慮しつつ周りを見る。

「しかし、他の奴はどんなんだか。あの身体のでかい奴。何と言う名前だか知らんが。がっしりしているから多分強い弓を使うんだろうな」と外観を見て推測していると、その恰幅の言い奴が、名札の俺の名前を見て声をかけてきた。

「高橋さんは、何㎏の弓を使うんですか?私は十五㎏の弓を使っています。昔、高校時代に弓道クラブがあって、そこに三年間在籍し稽古していたんですよ。ただ卒業後五十年程のブランクがあり、広報誌の弓道教室募集を見て、再開してみようと参加したんです」と馴れ馴れしく接してくれ、俺は緊張の糸が緩む。

「ええと、私は。兎に角弓道は初めてで、右も左も分かりません。ご指導の程宜しくお願いします」言うと、付ける名札をかざし見せ、「長谷川と申します。これからも宜しくお願いいたします」と返してくる。

「いや、こちらこそ。高橋と言います。何せ初めてなもんで…」口ごもる。そんな様子に、長谷川が「大丈夫ですよ。そんなに難しいことではありませんから」と言いつつ、「弓なんて慣れですから、誰でも射れるようになりますよ」と、緊張する気持ちを和らげてくれた。

その言葉に「そうか、慣れればいいんだ。慣れれば何とか続けられるかも知れんな…」高橋は自分に言い聞かせていた。

弓道教室は、午前九時から始まった。兎に角、やることなすこと知らぬことばかり。興味が湧くどころではない。新鮮と感じる余裕などなかった。言われるがままに、弓を持ち身体を動かしているうち、あっという間に時間が過ぎて行った。緊張する中、昼近くになり初日が終了した。

すると隣にいる長谷川が高橋の様子を窺い、「如何でしたか。慣れましたか?」と声をかけてくれた。

「いやいや、慣れるどころではありませんでした。今までやったことがないんで、右往左往するばかりですよ。一体これから如何なることやら…」戸惑っていると長谷川が「初めは誰でもそんなものですよ。他の参加者を見てください。初めての方は皆同じです。私なんぞ久しぶりだから、勘を取り戻すのに苦労してます」と慰められた。

「これから一緒に頑張りましょう!」

「ええ…、宜しくお願いします」

励ましを受け返すが、心内で「いや、疲れたな。偉れえものを始めたもんだ。あまり深く考えず合格通知を貰い、ほいほいと参加し一日が終わったが、これからまだ先が長いし、最終日まで持つかな…」期待と不安の渦巻く中で的場を整頓し、終わりの挨拶を全員揃って行い弓道場を出る。車を運転し帰路に付くが、車中でぶつぶつとこぼす。

「しかし、これから一週間に一回として九日間もあるんだ。大丈夫かな、続けられるのかな。いいや、そうではなく。『あなたの様子を見たところ、能力もないし高齢だから、これから続けるのは大変だよ。初日とは言え、どんなものか経験したから、これで卒業したら如何ですか』と、烙印を押されんじゃねえかな」

「いや、待てよ。『ちょっと見た感じでは、君には素質がありそうだ。この弓道教室の間、努力すればそれなりに上手くなるかもしれません』と、励まされることもあるかもしれねえ…」

あれやこれやと勘繰りながら、気もそぞろに運転していた。


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