三
「そうだった、会社勤めの頃はと言えば。学生時代から続けていた山歩きしか興味なかったし、体力のいることばかりだった。ここら辺で体力勝負の運動を卒業し、運動量の少ない弓道でも始めてみようか」と考えたことである。しかも七十歳になってから。
その決めた経緯には、さほど頭を悩ませたことではない。何時ものごとく、あっさりと決めてチャレンジするのだが。女房には一応相談することにした。と言うのも、今回の挑戦と言っても大袈裟だが、九月初旬から十二月中旬の週一回の期間限定と言うこともあり、どの様なものなのか興味本位に試してみるものである。
それでも女房に尋ねる。何故なら、弓道場に通うには車を使用するからだ。若干不便な場所にあり、車以外の交通機関を使う方法もあるが、その場合駅まで自転車で行き、電車とバスを乗り継いで、さらに市役所前で下車しバス停から道場迄十五分ほど歩かなければならない。
女房はパートタイムで、週二回車を使用していることから、それとかち合っては夫婦喧嘩のもとになる。それを回避する意味でも告げておこうと決意し、六カ月間の弓道教室通い(週一回木曜日)を打ち明けたところ、難なく了解を得た。
「あら、良いんじゃない。あなたを見ていると最近運動不足だから、その解消に持って来いじゃないかしら。私も弓道教室ってどんなものか知らないけれど、動きの激しい柔道や剣道教室に比べ、無理なく身体を動かすことが出来る気がするものね。あなたの年齢じゃ、丁度いいと思うわ」と、背中を押す言葉で勧めてくれた。
こう言われれば、「やっぱり止めるは」とは行かない。元々通う心算でいたことだが、念のためと思い妻に話したまでのことである。早速コンビニで往復はがきを買い求め、必要事項を記入し送付した。
「これで取りあえず、申し込みが済んだぞ。後は合否の返事を待つだけだ。抽選で二十名となっていたので、受かるかどうかだな」そんな気持ちで、締切日の九月二十日以降の返事を待った。十日程待つが合否の返信ハガキは戻らない。
「如何、なんだろうか…」
「しかし応募が多ければ、抽選だから不合格と言うこともあるし、俺の場合は未経験者で且つ高齢者だからハードルが高いかもしれんな。やっぱり弓道経験有りの方が有利のような気がする」邪推するが、「まあ、駄目もとで返事を待つか」
そんなことを考えては、毎日朝食後一休みしウクレレ練習を二時間ほどこなしていた。
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