〇第九話 君の名は
「ここに《最後の妖火》があった」
青年はクロを祭壇の
「この国の
祭壇の前に横たわるクロは先ほどより呼吸が安定してきたように見える。
青年はそのクロの背に右手をそっと
「妖は
「そんな大事なものなのに、どうしていとも簡単に、しかもあたしなんかに乗り移るんですか。どうして闇灯籠も、簡単に奪われちゃったんですか」
思い切り
瞬間、青年は雛子に鋭い視線を向ける。
「それは俺が知りたいところだ。この
その冷ややかな視線に、雛子は気が付いた。
「まさか、あたしのこと
「君からは呪力を感じない。しかし結界は内側からしか
「だからって」
「外側からあの結界を破れる者は……
「それは、そう、ですけど」
「結界が破れたときに内側にいた
「だからってあたしが犯人?!
「《最後の妖火》は、その存在を知るものにとっては
青年は
「確かにあたしはクロについてきたけど……あたし、何もしてません!」
「あたしは、ただ」
進路希望調査票を返してもらいたかっただけだ。
「大事なものを、取り返したかっただけです。なのにこんな目に
鼻の奥がつんとする。が、目をしばたいてこらえる。
泣いたら負けだと思った。自分がやったから泣き落としでごまかそうとしていると思われるのも嫌だし、疑われたのが悲しくて
(ぜったいに泣くもんか)
雛子は、ぎり、と
「あたし、本当に何もしていません。闇灯籠を取り返して妖火をそこに戻して、あたしは何もしてないってことを証明してみせます!」
青年は無表情で雛子を見あげていたが、
「いい心がけだ」
そう言って、ゆっくりと立ち上がった。
そして今度は、祭壇に置かれた金色の卵のような
「妖火は、永遠に失われてはならないものだからな」
「……永遠に失われないものなんて、あるわけない」
吐き捨てるように言った雛子を、青年が鋭い目で振り返る。雛子は負けずに青年を真っすぐ見返した。
「
「その
「ふーん、よくわかりました」
「わかればいい」
「あなたが、とっても
青年は鋭く目を
「この不条理にあふれた世界で、何かにこだわって追及できる人は、恵まれていると思いませんか?」
「…………」
「神様なんていない。ちっぽけな自分にできることといったら、何があっても前を向けるように、強くなること。不条理なこの世界で生きていくには、それしかできることなんてないんです」
雛子は腕を組み、青年を睨んだ。
「で? どうすれば闇灯籠を取り戻せるんですか?」
青年は何か言いたげに視線を泳がせたが、
「闇灯籠を持ち去ったのは、
「……は?」
五術師教というのは、有名な宗教団体だ。
雛子もメディアでその名を聞いたことがある。なんでも、
なぜそんな胡散臭い宗教団体の名が出てくるのか、雛子は首を傾げる。
「どうして五術師教の人たちってわかるんですか」
「闇灯籠を欲しているのは、五術師教の教祖だ。奴のいる所に闇灯籠もある」
またどうしてそんなことが言えるのか、と雛子は問おうとして、やめた。青年の言い方は
とにかく、闇灯籠を取り戻しさえすればいい、と割り切ることにする。
「……わかりました。で? その教祖はどこにいるんですか?」
「それを探すのが君だ」
「は?!」
(なんでそうなるの?!)と叫びそうになるのを、雛子はかろうじてこらえた。
「俺は、さっき
青年は、額に触れる。痛むのか、わずかに顔をしかめた。そこには
「よって呪術による
雛子は困惑した。
(えらそうなこと言っておいてノープラン?!)
「そんなこと言われても困ります!あたし、特殊な能力もありませんし、左手は光ってますけど特に何も感じないし!」
「問題ない。闇灯籠に近付けば、そのときにわかる。
青年は左手の白い手袋を取った。
「この手袋には呪術が掛けられている。妖火を
「え? は、はあ……」
(こんな大きい手袋、しても意味ないんじゃ?)
しかし青年は
「うそっ、手袋が!」
雛子は思わず声を上げた。まるで生き物のように手袋は伸縮し、雛子の手にはかなり大きかった手袋が左手にぴったり
(呪術師っていうのは、本当なんだ)
信じられなかった。しかし、目の前で起きたことだ。
雛子は五芒星の印が入った手袋をしげしげと眺める。しかし青年が
「急ぐぞ。時間がない」
青年は行きかけて、ふと振り返った。
「俺は、
「……
お互いどうでもいいけれど一応名乗っておく、という極めて
***
五芒星の手袋は、呪術師の印。
それは、
この
一方で、
その結果、呪術が発展した。
明治維新以降、近代化のうねりの中、
しかし、
その五つの家は明治以降、陸軍
《
闇に生きる
ガス
***
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