〇第七話 呪術師は状況を分析する
しかし、不思議なことに雛子の身にはパニックが起きなかった。呼吸も心拍数も変わらない。いつも通りだ。
(手が、光っているからか)
暗い
しかしこれは異常事態だ。
でも、いくら目をこすって見ても現実だった。
だからこそ、雛子は青年についてきた。
なんでもいいから、この異常事態の説明がほしかった。
「もっと近付いてくれないか」
低い声に、雛子はハッとする。
「……暗くて手元が見えない。これでは手当ができない」
「は、はい」
雛子は急いで青年の隣に座り、その手元に左手をかざした。
クロはぐったりしたままだが、胸元が浅く上下している。息があることに雛子は少しホッとした。
「これは
「妖……」
その単語はあまりにも現実離れしていたが、その単語のおかげで雛子はさきほどまでの出来事がすべてすとん、と
「君はどこでこいつに会った?」
「どこで、って……」
雛子は
「最初、道で会って」
「道?」
「お使いの途中で。あ、でもそのときは普通の猫の姿で」
青年は
「
青年の口調は
「俺が様子を見にいっている間、
青年は一瞬考えこんだが、すぐに腰に下げた小さな袋を
「――なぜ君がここにいるのか、なぜ君に妖火が宿ったのか、それはわからないが」
軟膏を袋に戻しつつ、青年が言った。
「君の左手にあるのは、間違いなく
「妖火?」
「その数珠は《最後の妖火》が形を変えたもの」
「さいごの、ようか……」
「妖の世界を照らす灯。妖火は、妖の
「……よくわかりません」
雛子の
青年は軽く息を吐いた。
「簡単に言えば、君の左手に宿ったものは、
「ともしび……」
「真っ暗な場所で遠くにぽつりと灯りが見えたとき、君ならどう思う」
「それはすごく安心します!」
暗所恐怖症の雛子は即答だ。青年は
「妖にとって、
「すみません。やっぱりよくわかりません、けど」
雛子は懐中電灯のように光る左手を見る。これがどういうものであっても、左手がこのままでは困る。普段の生活ができなくなってしまう。
「それで結局、この数珠、どうすれば外れるんですか?」
「
「闇灯籠って……さっきの男の人が持ってっちゃったやつ?!」
雛子は身を乘りだした。
「あの灯籠、ここに予備とかないんですか? もしくは買うとか……あたし、全財産出します。足りなかったら後で必ずお返しします。お願いです。あたし、このままじゃ困るんです!」
青年は
「
「な、なんですかその昔話みたいな理屈」
「事実だ。数珠を君の手から外すには、持ち去られた闇灯籠を取り戻すしかない」
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