〇第二話 やさぐれシンデレラは黄昏時に黒猫に出会う
シンデレラだってもうちょっとソフトにこき使われてたんじゃないだろうか。
いつも
べつに自分の
例えば、たった今LINEに送信された買い物リスト。
十センチ近くあるそれには、今日の夕飯の材料の
(あたしの分は、
雛子が食べることを許されるのは、叔母たち家族の
中学生までは残飯をもらう食事スタイルで、残飯がなければ
高校に入ってすぐアルバイトを始めた。それ
今日も、店内改装のため
それなのに、なぜ自分の口には入らない夕飯の買い物に行かなくてはならないのか――胸の奥で
「――しょうがないじゃん?」
この世はいつも、不条理にあふれている。
都立高校へ進学して二年、部活も入らず友だちも
アルバイト代から高校の授業料、光熱費として、叔母に一定額を毎月納め、残ったお金で日々の食費や
それもこれもすべて「しょうがない」。
そして、不条理に
雛子のような小さな存在にできることは、不条理に抗うことでも、
不条理なことがあっても、前を向いて歩いていけるように強くなることだ。
叔母の家で暮らしたこの十年で、雛子が心に
そして強くなるために、雛子が心の支えにしている目標があった。
――いつか必ず、猫を
それは、
猫を飼うには、自分の部屋が必要だ。自分の部屋を持つには、叔母の家を出なくてはならない。
そして母との約束をかなえるためのその一歩は、もうすぐ実現する。
――はずだったのに。
「まさか出ていくなって言われるとはね……」
叔母があの「闇呪文」を唱える限り、雛子にとって叔母の命令は絶対服従だ。
あれは雛子を
(――これからも、あれに耐えなくちゃいけないんだ……)
いつかこの
そして実際、終わりは見えていた。
進路希望調査票に記入をしているときは
(だけど、やっぱり神様なんかいなかった)
もう一度大きな
見下ろすと、いつの間にか黒い猫がいた。雛子に寄り添うように一緒に歩いている。
「うわあ、かわいい!」
雛子は思わずしゃがんで、黒猫にそっと
黒猫はうれしそうに、にゃあ、と鳴く。
「あたし暗闇は嫌いだけど、あなたは好きよ、クロちゃん」
両手で顔をきゅっと
「お母さんと、よくこうやって野良猫を
保育園の帰りに。日曜日の午後に。母も雛子も猫が大好きで、近所で
『お母さん、お家で猫ちゃん、飼っちゃダメ?』
『そうねえ。まず、生き物をお
『ふうん。そっか。じゃあ、お母さんと雛子で準備したら、猫ちゃん飼える?』
『そうね。準備をして、雛子がもう少し大きくなったら、お家で飼おうか』
『うん! 家族だもん、雛子、お世話ちゃんとするよ! 約束ね!』
母とのやりとりが、昨日のことのように思い出される。
「クロはどこかの家の子じゃないの?」
にゃあ、と黒猫は鳴いた。まん丸のハチミツ色の目が、じっと雛子を見上げる。雛子はその首筋を優しく
「ごめんね。ずっと一緒にいたいけど……
――出ていくことは許さない。
叔母の闇呪文が
にゃあ、とクロが鳴いた。
「……あっ」
一瞬だった。手に持っていた進路希望調査票を、クロが口にくわえた。
そして雛子の手からするりと抜けて、走り出した!
「クロ!」
雛子は慌てて後を追う。
「クロ! 待って!」
しかしクロは止まらない。雛子は
――こうして、クロと雛子は
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