迷宮クソたわけの主
(機人様、生命反応はあの家からしますね)
「ぜぇ……ぜぇ……この迷宮クソたわけの主とご対面と行くか」
(どっと疲れましたね。まさか機動住宅のみならず、装甲戦闘住宅や、空中住宅艦隊まで存在するとは。論理破綻だけでここまで……驚かされるばかりです)
「まさかこの呼び鈴も、護衛ロボットの呼び出し機能を兼任してたりしないよな?」
(あり得ないわけではない。なんとも気が狂いそうですね)
<ピンポーン><ピンポーン><ピピピンポーン>
俺は呼び鈴をリズミカルに連打する。
これくらいの嫌がらせは、被害者である俺の正当な権利だ。
そう主張させてもらわねば、腹の虫が収まらんのだ。腹ないけど。
「「クロちゃん!お客さんよ、出なさい!」」
「ふぁい~」
ガチャ、と扉を開けて中から出てきたのは、工事現場用の白ヘルメットを被った、クロさんだった。
「あっ機人しゃまー!」
「……おほん、どうにも異常事態が発生しているようだから、見に来たぞ。一体これはどういうことなのか聞かせてもらおうと思ってな」
「ふぁい!カクカクシカジカなのです!」
「……マルマルウマウマということか」
クロさんが言うには、ラメリカからきたというクソ長名称の組織、面倒くさいので「ニューマンライツ」としておくが、そこからきたという議員があれこれとウルサイ注文を付けて来たそうだ。
ああじゃないこうじゃない、そんで修正すると、そんなことは言わなかった。
じゃあ上の人に決めてもらいます。
そうすると、じゃあ私の上役の意志を伝えるね。
でも絶対に書面は見せないときたもんだ。
……ほんとーに上役からのナントカなんてあるのぉ?
修正の内容も本当に必要なのか?といったものがほとんどだそうだ。
そのストレスがチーム全体に伝播して、こういった状況になったらしい。
「そもそも国際会議のスケジュールが決まっていただろう?プロジェクトがケツカッチンなのに、そんな事をしている余裕は無いって蹴ればよかったじゃないか」
「でも、それをすると~機人様が国際的に孤立するって言われたです~」
「はーん、脅かされたわけだな?」
こんなキツネさんを脅かすなんてふてぇ野郎だ。
(ナビさん、このプロジェクト全体の修正費用を……概算でいいので、今すぐ書面で出してくれ。国際的な規格に則った形でな?)
(Cis. 既に用意してあります。プリントアウトしましょう)
さっすがナビさんだぜ。おお、出るわ出るわ……。
――出過ぎじゃない?!ちょっとした百科事典みたいな分厚さになったぞ?!
見る見るうちに書類が正方形になってきた。うーんこの。
(おおよそ90億ポンダですね、ラメリカの貨幣価値が不明ですが……)
(まぁいいよ、鈍器にもなるし)
「よしっクロさん無罪!全ての責任はそいつにあるものと見なす!話が終わったら、そのまま帰って良し!」
「「やった~!30連勤からようやく解放されりゅです~」」
へにゃりと地面に座り込むキツネさんたち。
なんてかわい……極悪非道なことを!
(よし、ナビさん余罪追加で)
(Cis.)
俺は前衛芸術のようなアートな家に上がり込んで、リビングへ向かった。
向かったその先にはピンク色の人をダメにするタイプのソファーがあり、その上に金髪のオバハンがふんぞり返っていた。
「クロちゃ~ん?まだかかるのぉ?冷えたワインを……あらやだ何アナタ」
「……ポトポトの機人だ。この議員会館の施工責任者でもある。ラメリカ合衆国の議員で間違いないか?氏名と役職を述べてくれ」
「ポトポト、ね……例の非常に性差別的な、とても原始的で野蛮なレ○プ国家ね」
????何言ってんのこいつ????
????一つも質問に答えてないけど????
「私の名前をあなたに語ることが汚らわしいので、この絵本で学んで頂戴。野蛮人でも絵本くらいは読めるでしょう?あ、2000ポンダね」
ディスっておきながら金とんのかよ?!
しょーがねえなぁ。
一応普段の買い物用にもっているお財布から2000ポンダを払う。
クソッ!なんて屈辱だ!!!!
絵本は……、地味に絵が上手で、本の出来が良いのがイラつくな。
表紙の女の子は、あのオバハンか?
絵本の表紙には、クソデカイ本を抱えた利発そうな女の子の絵が描いてある。
あのソファーでふんぞり返って飯食ってるアレを描いたとは思えんな。
まあ議員とか政治家なんてそんなもんか。
あれとくらべたら、デイツ王が名君に見えてくる。
いや、あのオッサンはガチ目にそうなりかけてたか。
(……ナビさん、俺ラメリカ語が読めねえわ)
(Cis. 形態素解析と頻度分析で翻訳します。ひとまず読めるようにはします)
(助かるわ。)
ナビさんのサポートで、絵本の文字に、視覚的にルビがふられた。
わーぉ、流石の未来技術。
現実とヴァーチャルが融合する、
で、題名は……「みんな大好きヤマリー・カキントン」?
自己顕示欲あり過ぎだろ。ブルーシート何枚分か解らんな?
★★★
1ページ目をめくる。「私はブラックハウスに行きますよ」という文字が書かれていて、黒塗りのホラーみたいな建物がでんと書かれている。ナニコレ?
(きっと政治の中枢、議事堂ではないでしょうか?建築様式はそんな感じですし)
ま、まあ、大した内容がないから次のページをめくろう。なになに……?「ヤマリーが生まれた時代は男社会、すべては男が支配していた暗黒の時代でした」
うん……????早速怪しいぞ????
「ヤマリーは学校でも優秀、友達もたくさんいました。でもクソオスの脳みそチ○ポ野郎どもがヤマリーの邪魔をします」
「ある日ヤマリーは被差別階級でクソ可哀想な社会の底辺生まれにもかかわらず、ひたむきな努力で私たちアン○ロサクソンのハナクソくらいの能力は身につけた、最低限、野菜クズは地面で食う資格のある、クイーン牧師のお話を聞いて社会の問題に気が付きました」
「ヤマリーはいろんな社会問題に気が付いて、この問題に気が付こうともしない、無知で無学で無生産で、ウンコするしか能がない人々を導いて、社会正義のために戦う事を誓いました」
ねえ?さっきから悪口のボリュームがおかしくない?
もうお腹いっぱいなんだけど。
「いろいろ考えたヤマリーは優秀なので、ラメリカ合衆国の弁論大会で、クソオス共を打ち負かしました」
いろいろってなんだよ!ふんわりしすぎだろ!!!!
悪口の量に対しておかしいだろ!そこ肝心なとこ!
「なのでみんなはヤマリーの話を聞きたがり、ラメリカのリーダーになるのは貴方しか居ないと言いました」
自分の持ち上げ方が雑すぎぃ!!
何を主張してるかの部分がスッカスカじゃねえか!!!!
「でもクソオスどもは未だに権力の座にしがみつき、ヤマリーの話は聞こうとしません。ヤマリーは性的搾取をされている女の人たちを福祉とつなげる事を約束すると、クソオス共の個人情報を吐き出させるのでした」
「あのオス政治家はピーをピーするのが趣味。あのオス政治家は――」
「そう言った具合で、悪い人を許さない社会正義がラメリカにあったことも幸いして、クソオス共は叩き出され、あっというまにキレイになりました」
「ようやく世界は女が支配する時代になりました。ヤマリーは大統領になり、世界を変えるのです」
最初の方にあったページの内容がひっくりかえってるだけじゃねぇか!!
支配は支配だろ!!!支配者シフトしただけじゃねぇか!!!
こんな猿の惑星の女版みたいなのを読まされて、なんてコメントすりゃいいんだ。
★★★
「どうかしら。ポトポトがどれだけ野蛮な国かお判りかしら?」
「……全く理解できんな。機人である私には、そもそも『性別』がない」
「なんですって?!女をクソオスが虐げ、搾取してきた歴史を変えたこの私の偉業、それが理解できないと?フン……所詮は野蛮人ですか」
「……奇妙なことを言う、お前はどうやって生まれたんだ」
「話をそらさないでください。クソオス問題は世界の女性の生存に関わる問題です。クソオス共は奴隷化して生存する資格のあるオスを残し、管理せねばなりません」
はい???????
(そう言えばナビさん、ポトポトで性別で職業の割り振り変えたことあったっけ?)
(絶無ですね。女性でも普通に危険な任務にぶち込んでますよね)
(逆にヒデーな)
「つまり、我々は出産という手段をもって、人類を管理する手段を与えられた支配者なのです。その支配権をオスは暴力で奪った。私たちは正当な権利を奪い返したにすぎません。メスが優位なのが世界の真理なのです。」
いや、それはそれで差別的意識のカタマリじゃねえか?!
もうやだ!この人と話してると頭おかしくなる!
「……ご高説はわかった。では現状の改築にかかった費用とその賠償の請求書になるので、こちらの支払いをお願いする」
「話のすり替えですか?
「……いや、さっき支配者とか……??それって強者だよね?????」
「あの子たちは指示ひとつでアレコレ作り出せるのに、それに対して価格設定とはなんとも片腹痛いですね?その領収証もどこまで本当なのか?」
いや、無から有は生み出してないよ??????
「それも搾取に違いないでしょう!全くあなたは恥を知ったらどうなのです!!!」
お前がな???????
「……払う意思が無いのは解った。ではこの請求はラメリカに直接行くぞ」
「議論から逃げてばっかりですね?ならば、もっとわかりやすく言います」
「あなたは女性から搾取を行っている、『はい』か『いいえ』でお答えください」
言葉は通じてるのに、意味が通じねええええええ!!!!!!
クソッなんだこれクソッ!!!!!
「ふう、しゃべり続けたら喉が渇きました。クロちゃん、飲み物はまだなの?!」
ヤマリーは、俺の後ろに隠れていたクロちゃんに怒鳴る。
びくっとしたクロちゃんはこう答えた。
「えーっと、それが急に材料がなくなったです~?」
「ある物ならそこらにあるもの何でもいいから使いなさい!!!」
「何でも使って良いです?」
「そうよ、早くしなさい!!!!」
・
・
・
そして部屋からうるさいオバハンが居なくなった。
テーブルには一杯のワインと、それになった残りが床に散らばっている。
やべえ……どうしよ?ナビさん?
(もうしらない♪)
良い空気すってんなああああああ?!!!
んもおおおお問題しかないよおおおお!!!!
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