最終章 ラメリカ合衆国編

違法建築

 オーマが予想外の展開を見せた後、ポトポトにもどった俺に、ロイから「イギニスで問題発生」との報告が舞い込んできた。


 まったく、彼方が安定すればこちらがといった具合だな。


 しかし、イギニスからきたロイの報告が、全く要領を得ない。


 議事堂の改築が終わった後、各国の議員が居住する「議員会館」の建築をクロさんたちに依頼した。ここまではいい。


 しかしどっかの議員がクロさんたちにクレームを付けた後、なんか議員会館が大変なことになったらしい。


 どう大変なのか?それの説明がどうにもできないらしい。


 とにかく何が起きているのか、報告した当人たちも状況がよくわかっていないらしいので、ビッグバードに増援のキツネさんを乗せ、俺はイギニスに発った。


 あまりにも芸術的すぎる建物が出来てしまったのなら、キツネさんたちに上手いことなおしてもらわないといけないからな。


 そしてイギニスの街を眼下に見れるまでになった時。

 「それ」は否が応でも目に入った。


「……なんだあれは?」


 ビッグバードの窓からイギニスを覗いた俺の視覚センサーに映ったもの。


 すべてがチグハグな、だまし絵みたいな建物がそこに合った。

 世界中のトリックアートをぐちゃっとまとめて、現実に置いたみたいな、なんだか頭の痛くなる光景だ。一体、何がどうなればこうなるんだ?


 飛行場に降り立った俺は、早速キツネさんを連れて現場に向かう。


 すると、建物の前の人だかりに混じるロイを見つけたので、俺はさっそく話しかけ、何が起きているのか事情を聴いてみることにした。


「ロイ、これは一体どういう事だ?」


「ッス!ウチらにもよくわかってないっすけど……」


「とにかく中が滅茶苦茶で、扉を開けたらいきなり空だったり、登り階段がいつの間にか下り階段になってたり……普通じゃないっす!」


(……ナビさん、バグとかの可能性は?)


(あり得なくは無いですが、自動的に論理回路が修正するはずです。ここまで奇妙な建物を建てるとなると、そもそもの入力がおかしい可能性が高いです。)


「議員会館を作るときに、どっかの議員さんがクロさんたちにねちっこく絡んでるのを目撃した人がいるっす。きっとそれが原因かもしれないッス」


(あー。ズバリっぽい)


「……なるほどな。作業は中断したか?クロたちは全員そろっているか?」


「点呼してみましたけど、何人かのクロさんが中に取り残されてるっぽいッス!……あとは、件の議員さんもッスね!」


「……つまりは、中に入って調べるしかないようだな」


(機人様、中に入る場合は十分な注意を。内部には、多数の高熱源体が確認できます。おそらくはクロさんが作成したドローンが暴走しているものと)


(……どうしてこうなった。)


「……私が内部に突入して、救出する。お前たちはこの建物の中に、興味本位で入るバカモノが出ないよう、軍と協力して警戒を強めてくれ」


「了解ッス!!」


 さて、中は一体どうなってるのやら……。


 俺は議員会館の左右の大きさの違う扉を開く。片方の扉の先には早速壁があるし。

 なんだよこれ……?


 中に入るとさらに異常性が極まっている。

 まるでエッシャーのだまし絵だ。


 天国を目指すように空に伸びる階段の先を目で追うと、登っているはずなのに、いつのまにか元の場所に戻っている。


 気が狂いそうだな。


「……早速だがもう帰りたい。」


(Cis. 激しく同意します。道に迷ったら、最悪、壁をぶち抜いて外に出ましょう。空間も多少歪んでいますが)


(クロの反応を発見、マーカーに従って進んでください)


 俺はナビさんの置いたマーカーに従って進む。

 こんな感じのクエストを受けると目的地まで線を引いてくれるMMOあったなあ。

 白い砂漠だっけ?まあいいや、とりあえず先へ進むとしよう。


 マーカーに従って、上下あべこべの扉をくぐったり、屋根を走って先へ進む俺。

 目的地ではクロさんたちが怯えて団子になっていた。

 あらかわいい。


「……助けに来たぞ。もう大丈夫だ」


「機人しゃまー!!」ひっし ぎゅむ。


 あぁん、この体が機械なのが悔やまれる。彼らのふわふわ感を堪能できん。


 まあそれはともかく、ヌイグルミみたいにして引っ付くクロさんたちをなだめて、ここで何があったのか聞いてみることにした。


「……一体ここで何があったのだ?」


「仕様変更ですー!!」「案件の要件定義が聞くたびに変わるんですー!!」

「スケジュールがぁー!」「そもそも言葉の解釈がちがいます!」


 はい?????


「……ちょっと待て、話が飲み込み切れん、ええとつまり」


(仕事の発注、そしてクレームをつけた者が、その場の気分で仕様変更を突き付けまくると。ついでに内容は聞くたびに変わり、言葉の意味も滅茶苦茶と。)


(ただのプロジェクト炎上野郎じゃねえか!!!!!!)

(そのクソ野郎の放火魔を出せ!!ぶん殴ってやる!!!!!!!)


「せっかく直しても、本部がダメとかなんとかで変更が通らないですー!」


「しかもその本部と話せるのはそのひとだけで、ぼくらには伝聞しか伝わってこないですー!だからさっぱりわからないですー!!」


(ああ、典型的な※メテオフォール開発ですねこれは)


※メテオフォール開発:IT業界用語。プロジェクトが中程まで進むと、なぜかすごい偉い人が出てきて、神がソドムとゴモラに神の火を振らせて滅ぼしたように、仕様変更などの余計な事をしてプロジェクトを破壊する開発方法(いや、それ方法か?)。


(もう許さん。なんかファーザーより腹が立ってきた)


「ちなみに、その者は何処の議員なんだ……?」


「ラメリカ合衆国の、えーっとなんだっけ?」

「ニューマンライツ最強女性人権人種平等捕鯨禁止森林爆殺保護協会会長です!」

「ちがうよ!ニューマンライツ動物爆殺女性人権最強捕鯨人種……」


「……ええい!わかったわかった、とにかく、そいつをつまみ出す!これでいいな?!クロさん!!!!!」


「「やったー!」」


 文字面だけでクッソめんどくさそうな奴なのは解った。

 有無を言わさず蹴り出して、仕様変更にかかった費用をすべて請求してやる!!

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