オーマ再び

 さて、オーマの首都ペルリンまで、久しぶりにやってきたは良いんだが……。


 なんか雰囲気違うね?

 街路にはイギニスでみた街灯が立ってるし、屋台には目本の食い物が並んでる。

 ん……なんかすげー豊かになってねぇ?


 中世から近世風の街並みを、ウ○チとか汚いとこまでリアルにした、小汚い街並みだったはずだが……。ちょっとオサレなテーマパークみたいになってんじゃん。


 街路には自動車まで走っているじゃん。

 イギニス式の蒸気じゃなくて、目本の内燃機関の奴。

 いつのまにかこんなことになってるとは……。


 オーマのデイツ王なにしてくれてんの?!


(ナビさん、デイツ王を見つけて、何をしているのか問い詰めるぞ!!)


(はぁ、別に問題は無いように思いますが……)


(俺は多少は倫理観のある民主的国家を作ろうとしてたんだ。このままだと見た目は文明的だが、中身は蛮族のままってのがあり得るだろ!!)


(なるほど、そういった懸念ですか。――まあ後にしますか)


 俺は道行く人にデイツ王がどこにいるのか聞くと、最近は屋敷におらず、機人学校の近くの役所で執務を取っていると言っていたのでそこへ向かう。


 そこに行って<バァン!>と荒々しく戸を開けると、目を点にした受付のお姉ちゃんが居たので、デイツ王に面会の時間を用立ててもらう。

「機人殿、久しいですな。イギニス、そして目本での活躍、聞き及んでおりますぞ」


 動物の毛皮のマントをしていたデイツ王はそこには居なかった。

 イギニスや目本の新聞記者なんかが着ているごく普通のシャツとサスペンダーで吊るされたズボンを着ている。


 あっれー?なんかふっつーのオッサンになったな?


「……それでオーマから長い事、目を離していたのが気になってな。デイツ王、随分と街の様子が変わったようだな?」


「それはこちらの台詞にございます。火縄銃の訓練がようやく満足いくものになったと思ったら、すぐに全く扱いの違うパンパン銃が現れ、次は装甲車、そのうえ戦車ときました」


「軍事はもっとも極端な物でしたが、生活に関わる物の変化もすさまじいものがあります。印刷、無線、テレビ。外の世界にこれほどのものがあったとは」


「そこで……私は機人様のやらんとすることが何か、ようやくわかったのです。」


(……んん?)


「もはや教会の広めた迷妄、偏見にいつまでもこだわっている場合ではないと。常識も因習も何もあった物ではありません。」


「そう、つまり我々が信じるに値するのは理性!文明の光であると!」


「……本当に今やっていることは正しいのか?そういった疑いを常に持ち、新しきものを受け入れる。機人様から我々は多くの者を学びました」


「……そ、そうか。ヨカッタナー?」すまん、オッサンはそこまで考えてなかった。


「目下、我々が取り組んでいるのは教育です。数学、物理学をはじめとして、法学や哲学。理解するにもまず勉強が必要です。まったくもって刺激的な毎日ですな!」


「……そうか、民衆の様子はどうだ……?」


「ええ、畑を耕すにも、勉強が役に立つと知れ渡ると、機人学校の門を叩くものがますますに増えましてな」


 なんでもイギニスから伝わった農法なんかを機人学校で広めることで、大幅に食料生産が向上し、農民でも本を読む時間が取れるようになったそうだ。


 そんで本の需要が爆発的に上がったが、イギニスの印刷技術や目本の通信技術のおかげで何とかなったとのことだ。


 しかし機人学校はかなり手狭になってきた。

 デイツ王はさらに機人学校を拡張して、大きな学校、大学にしようとたくらんでいるらしい。……うん?


「とくにポルシュ殿ですな。田舎貴族に過ぎなかった彼が、その知識で大いに活躍することが知れ渡ると、貴族の子弟たちも、我も我もと言った次第でして」


「学問で身が立つことは外の世界が証明しております。そこで国としても、教育に力を入れ、ゆくゆくは民草からも有能なものを取り入れてゆこうかと」


あれ?ねね?……それってもう貴族制度がブチ壊れてない?


「そこに貴族や農民もありはしません。必要なのは何をすべきか、どうすればよくできるのか、そこに気が付き、成し遂げられる力があるかにございます」


「……デイツ王、その口ぶりだと、まるで自分より有能なものが農民から現れたとしても、お主が席を譲るように聞こえるぞ」


「不肖の息子がその生まれだけで玉座に座るよりかは良いでしょう。なによりも重要なのは、何かを成し遂げる意志があるかです。座るだけが目的なら犬でもできます」


 アカーン!このままだと王政が死ぬ!

 ……いや、死んでいいんだ、うん。


「……今後のオーマが恐ろしくもあり、楽しみでもあるな」


「はっ、御意のままに」


 むしろデイツ王の首が槍の先に立つように動いてきたつもりだったんだが、普通にいい王様やってんじゃねえか!クソッ!どういうことだ!


(クソッ!民主革命を起こして倫理感の整った国にしようとしたのに!なんか予想外の方向に進みはじめてやがる!)

(なるほど……典型的※誤謬ですね)


※誤謬:知識や思考の誤り


(……なにそれナビさん?)


(外部のテクノロジーに接したことでショックを受け、伝統的な常識や因習を打破し、人間の理性によって統治する、オーマには啓蒙主義が生まれました)


(というと?)


(説明しましょう。機人様は「教育」という概念を機人学校で示されました。そして外国からの優れた成果物を大量に投下、それまでの権威を破壊しつくしました)


(うんうんそれで?)


(要はお勉強すると強くなれるよ、棍棒を振るうための筋トレとかバカらしいよね?という価値観に気付かせて、一気に知的ブーストをかけたのです)


(おお、なるほど!すごいじゃん俺!)


(ええ、すごいのです。オーマは武力よりも知が物を言う世界になりつつあります)

(革命で大量の血を流さずに、時間をかけて民主的な国家に変化していくかと。よくできました、花丸あげてもいいですよ、機人様)


※機人は気付いてませんが、農法の改善で食料生産の余剰が生まれ、教会権威による収奪が無くなったおかげで、クソみたいな宗教倫理で保護されていた人食い文化は絶滅しました。

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