ファーザーへの道

「機人さん、セカヘイへの献金のほうはいかがでしょうか……」


 俺は自由市場を歩いていると、セイに話しかけられた。

 そういや忘れるところだった。


 スリスリと手をこすって、腰痛を起こしそうな勢いでペコペコして俺にそう語りかけているのは、セカヘイの聖陽太子こと、セイちゃんだ。


「……ふむ、目本のすべてが物珍しくて、ついつい遅れがちになっていたな」


 我ながらよく言うが、献金を遅らせていた理由は、全てはセカヘイの力をそぐための破壊活動に熱を上げていたからだ。


 近頃はリューも参加にするようになって、破壊はさらに加速しているからな。

 彼女は古代竜の姿になって、食料品を高値で売りつけている屋台をさらったり、テンバイヤーの駆るトラックをひっくり返したりしている。


 目本のニューペーパーはそれを「政府による自然破壊が古代竜を呼び込んだ」みたいな、森林破壊による生態系の破壊が~という話でもって、面白おかしく政府批判を書き立てている。


 目本では、山から下りてきたイノシシと、古代竜が同列の扱いなのだろうか?

 もうちょっと真剣に考えた方が良いと思うぞ?


 まあそれはどうでもいい。


 イナリによると、もうテンバイヤー組織はガッタガタで、ヤクザマンもぜぇぜぇ息を切らせながら活動しているような状況らしい。


 店にも商品は5割から6割ほど戻ってきていて、普通に買い物もできるようになってきているとのことだ。


 まあ、そろそろ頃合いだろうな。


「では、そろそろファーザーに対し、ポトポトから誠意を送るとするか」


「えぇ!えぇ!それが良いかと!そうなれば私のランクも挑戦人チャレンジャーに……いえいえ何でもありません」


「……ずいぶん落ち着きがないな、本部から突き上げが来ているのか?」


「いえ……機人様がお気に掛けるほどの事では」


「……ふむ、ひとつ話してみたらどうだ?我の鉄の体に、同じく冷たい鉄の心が宿っていると思っているのか?」


「いえいえそんなことは!……であればお話します」


(機人様もなかなかに、会話術というものを覚えてきましたね)


(ホッホッホ、ナビさんや、俺も適当に話しているわけでは無いのだよ。8割くらいは脊髄反射だけど。)


「実は、昨今立て続けに起きているニンジャストライクによって、人々の心は荒み、経済は崩壊しかけています……」


「信じられますか?!お店に直接買いに行かないと、商品が手に入らないのです!」


 なあ、こいつ殴っていいか?


「ファーザーは酷く心を痛めています。なのですぐさま金が必要なのです。セカヘイは人々の心を癒すために、何よりも金を必要としているのです」


「テンバイヤーが再び力を取り戻し、人々に笑顔を取り戻すには、機人様のお力、いや!金が、何よりも金が必要なのです!」


 聞いてるだけで頭が痛くなってくるな。


「……そのような崇高な理念があったとはな。ぜひとも我らの用意したポンダを役立ってもらいたい。箱一杯のポンダを全てセカヘイに預けよう」


 まあ、純度100%のニセ札だけどな。


「おぉ!エクセレント!」


「献金の際には、ぜひともファーザーと対面したい。そのような崇高な面を拝まないと、ポンダは箱から出ていく気がないと言っている」


「なんと!でしたらこのセイ、コネというコネを駆使しまくり、ファーザーとの面会をセッティングいたしましょう!」


「……ほう、ツボは買わなくていいのか?」


「あんなものカスですよ、カス。経典とかツボは、セカヘイにいる本部の連中が絡むので、私にはあんまり旨味が無いのです。現金なら抜きほうだ……いえいえ何でも」


「……そうか、では委細よろしく頼む。端数は数えていないので


「かしこまりました」


 うーむ、こいつも割りとクズだな。

 すべてが終わったらまとめてゴミ箱に放り込む、上手い方法を考えないとな。


(ナビさん、宗教の効率的な殲滅せんめつ方法って、なんかないの?)


(Cis. 一番効率的なのは、自滅させることですね。適当な終末思想を吹き込んで、集団自決に追い込む。これは歴史的みても、成功例が多いですよ)


 ふと、そう言えばカルト教団の集団自殺のニュースなんかがあったなあ。

 確かに連中に自発的にすべてをやらせる。効率的っちゃ効率的かもしれんが……。


(そりゃ駄目だ、論外だよナビさん。子供や関係ない家族まで巻き添えになる)


(ではファーザーと幹部のみ焼き払いますか。後継組織が残ると思いますよ?)


(後継の求心力が弱くて、そのうち自然消滅するパターンだってあるんだろ?)


(ええ、半々という所ですが――機人様は妙なところでブレーキを踏みますね?)


(ナビさんはイヤか?)


(好悪判断で言えば、好寄りです。私の倫理回路の評価でなく、私の評価ですが)

(そうかい)

(Cis.)


「機人様……私セイは何か粗相そそうをしましたでしょうか?」


 あ、ずっと考え込んでるように見えたか。


「……いや、ファーザーがどのような世界を思い浮かべているのか、それを考えていたのだ」


「左様でしたか、ファーザー様が思い浮かべる世界、それは私たち下々には想像も及ばない事でしょうな、セカヘイの本部には大量の物資が運び込まれています」


「セカヘイは旧世界の破壊、それがまた起きることに備えて、物資を備蓄している。幹部たちはそう噂しておりますな」


「……初耳だな」


「これは私たち挑戦人チャレンジャーになり得る家族や幹部だけが、知りうる情報でございますから」


「……そうか」


 ファーザーはノアの箱舟でも作ろうとしてんのかね?

 その計画、まさかイギニスの水爆と関係あったりしないだろな?

 後日、俺たちはセイの紹介で、セカヘイの本部へ入ることを許された。


 ポトポトの妖怪たちは、大量のニセ札コンテナが乗った台車を押して、クソ長カーペットの廊下を前へと進み続ける。

 

 ――さて、ご対面と行くか。

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