ポルシュとチハタン
上級テンバイヤーを壊滅させた俺たち。
その次にはニンジャたちと一緒になって、地道な破壊活動を始めた。
通常の三倍の値段で売りつける悪辣な屋台にミサイルを撃ち込み、テンバイヤーの動脈ともいえるカイシメ網に地雷を敷き詰め、輸送コンボイを爆破する。
連中の作り出したテンバイ経済は破壊されつつあった。
テンバイヤーの数がゴリゴリと減れば、必然とカイシメは難しくなる。
それに「街道上の怪物」に襲われる命の危険があるとなれば、生活苦であっても、テンバイ=ギルドの門を叩くものは減っていった。
テンバイヤーからミカジメを得られなくなった今、ヤクザマンの資金はショート寸前になった。政治家たちへの献金は、相当に薄まっているだろう。
「……で、自由市場を出入りしているポルシュ達はあれは、何をしているんだ?」
「ッス!テンバイヤーの戦車を修理して、リバースエンジニアリング中ッス!」
「……なるほど、すでに出来上がっているものから学ぶのが、手っ取り早いか」
「ッス!でもポルシュさんに言わせると、あのチハタンは設計の限界にあるッス」
「……ほう、というと?」
「エンジン出力と、トランスミッションよる動力のロスッス」
(ああ、変速機の問題ですね、過渡期の戦車によく見られた問題です。コンパクトで軽量な変速機というのは、製作に高度な工業力が必要ですから)
(ふーむ、どういうこと?)
(戦車のキャタピラというのは、普通の車よりもひんぱんに速度や回転の向きを変更をしないといけません)
(機人様は、左右のタイヤが逆向きに動いたり、速度が変わる車って見たことあります?戦車はそれをしないと曲がる事すらできません。)
(あぁ、なるほど。そりゃ大変なことになるわけだ)
(Cis. すっごい大変なのです)
(ちなみにあの時代の変速機というのは、歯車を組み合わせて油を差しているだけなのでよく壊れますし、歯車があっという間に鉄粉になります)
(ポルシュの胃が心配だな。ちょっと見に行ってやるか)
「機人さん……ッス?」
「……ああいや、ポルシュの様子を見に行ってやろうと思ってな」
「ッス!ポルシュさんも喜ぶと思うっす!」
俺はポルシュが作業している場所に歩み寄ってみる。ははぁ、なるほど。
丸コゲにならなかったチハタンを回収して、無事なパーツを組み合わせて新車を作っているのか。
これはニコイチ修理どころじゃないな。ゴコイチくらいしてそうだ。
「クソッ!!!!ギアの組み合わせをいくらしてもよぉ~~!!パワーが減ることはあっても増えることは無ぇンだよなぁ~~~~?」
「……あの?ポルシュさん?」
「ムカつくぜぇ~~~~?!変速機が必要ってのは、すげー解るッ!キャタピラーの駆動輪ってのはそういうもんだからなぁ~?でもこれじゃあ、エンジンをいくら強くしても、砲も装甲も、変速機のスペースに食われるじゃねえかッ!!」
ガンガンガンガンガン!とレンチで残骸を叩いている。
何こいつ、あの好青年なポルシュって、こんなヤバかったの?
「あー、ポルシュさんって、煮詰まるとあんな感じッスよ」
「……なにそれこわい」
そのとき、ポルシュの作業場に、ある物が入り込んできた。
シャーっと走るソレは、障害物を前にするとそのまますっと後ろに下がり、くるっと回って走っていった。
あれは……ラジコンカーだ。
目本で流行っている、電気モーターと無線で動くオモチャだな。
ナントカとかいう、とあるオモチャ工場が作っているものだ。
従業員の手にによって、こっそりとこの自由市場に流されている。
遊び方は簡単。電池をいれて、無線のコントローラーで操作する。
そう言えばテレビもあったし、目本はもう電気と無線まで発見してるんだよなー。
ここまで技術が発展してるのに、なんで社会はこんなことになってるんだか。
シャーっと作業場のガラクタを障害物競走みたいにして避けて走るラジコンカーを見たポルシュは、なにかの天啓を得たのだろうか、獰猛な笑みを浮かべた。
そして獣の反応を思わせる素早さでラジコンカーに取りつくと、まるで獲物を捕らえた肉食獣のようにハラワタをえぐって、あるものをとりだした。
当然、それを見た子供は「あーっ!」ッと泣き出してしまったので、俺はその対処に回ることになるのだが……これが後々、とんでもないものを作り出すことになる。
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