セカヘイ本部

「ポトポト一行のおなーり~~~!!」


 あれこれともったいぶって引き回された後、俺たちは開けた大広間に通される。


 大広間にはどんな金持ちが買うんだよっていうくらい、どでかいテレビがあった。


 そして画面には、優しそうな顔をした、髭の生えたおじいさんが映っている。

 キャンディーを取り出して、あなたは「特別な存在」って言ってきそうな感じだ。


 きっと甘くてクリーミーな言葉でさんざんに人々をだましてきたのだろう。


 テレビの前には100人近い白装束の者たちがずらりと並んで平伏し、額を地面につけていた。


 ――しまったな、これは予想していなかった……。


 テレビがあるという事は、信者たちには映像だけ見せるというパターンもあり得たことに、俺は気が付かなかった。クソッ、迂闊うかつだった……。


『ようこそ、平和を求める我らが家族よ。あなたをセカヘイの新たな一員として迎えられる事を喜ばしく思います』


 テレビに映ったファーザーと思わしき奴は、俺たちに向かってそう語りかけた。


 俺はその言葉に答えるように、ポンダの詰まったコンテナを蹴って倒す。

 すると、そこから雪崩なだれのように札束が崩れて飛び出した。


 こうなれば、後は向こうから来てもらうしかない。

 さんざんに挑発して、自ら殴りに来たくなるように仕向けるとしよう。


 まあ、さんざやってきたことをもう一度やるだけだ。


「……金で買える家族なら、金が無くなれば他人か?大した優しさだ」


「なんたる無礼!そのような放言!この名誉挑戦人オナーチャレンジャーのケケナカが許しませんぞ!」


「……どうやらご主人さまに褒めてもらいたくて、ワンワンと吠えているようだが」


「ええい!!もはや許せん!特殊ハーケン部隊!この者をつまみ出しなさい!」


『おやおやこれは……』


 ケケナカの怒号どごうに答えてなのか、揃いの服で、木の棒をもった老若男女が大広間の袖からだらだらと歩いて出てくる。


「特殊ハーケン部隊はこのケケナカの率いる精鋭部隊なのです!ふふ!恐ろしくなりましたか?!謝るなら今のうちですよ」


 普通にそこらのおっちゃんおばちゃん、子供とおねえちゃんだが……?


「ククク……特殊ハーケン部隊は無給でも『やりがい』によって働きます。彼らは我々上級国民に奉仕するために存在する最下級エリートなのです!!!!」


「最低のコストで最大の効果!これが特殊ハーケン部隊の恐ろしさです!いけぃ!」


「「ハタラケルッテ!!ウレシイナ!!!!」」


「……ちなみにお前は『街道上の怪物』という言葉を聞いたことがあるか?」


「はぁ?ああ、聞いたことはありますが、私ケケナカはテレビを見ません。あのような低俗なものは下級国民が見る者です」


「上級国民であるワ・タ・シ!は――、大社長プレジデンツと目本経済新聞しか読みません!」


「……そうか」


 わぁーとやる気なく近寄って来る特殊ハーケン部隊の隊員たちは、木の棒をもって俺の周りを取り囲んだが、その後は何もする様子がない。


 そのうちの一人、短い棒を持った小年が促されて、俺の前に進み出る。


「あの、ひょっとして、『街道上の怪物』さんですか?」


「……ああ、そうだ」


「あの、ありがとうございます!あなたのおかげで、お母さんが、普通に買い物ができるようになったんです!」


「わしのばあさんもじゃ。怪物さんありがとうのう……」


 全く俺に対して敵意を示さない特殊ハーケン部隊。

 それにごうを煮やしたケケナカは、怒り狂って手直にあった物を投げつけてきた。


「この役立たずどもが!貴様らクズはこの上級国民様のいう事を聞いていればいいんだ!このボケ!カス!クズ中のクズのゴミカスがぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」


 ケケナカの投げつけた白いツボが、少年の頭に当たって大広間の白い床を赤く汚した。ウッと小さい声をあげて倒れた子供を、俺は庇った。


(ナビさん?!)

(頭部の損傷は有機生命体の致命傷になりがちです。医薬品の投与を速やかに)


 俺は取り出したエリクサーをプスっと突き刺す。


「はぁ~~~~~~~~~~~~」


「ゴミが床汚して倒れたくらいで大騒ぎして、バカくせーっ!」


「あ、それってイギニスで一時話題になってた、なんでも直すエリクサーって薬ですね?それ、この上級国民のケケナカにこそふさわしいモノじゃないですか?」


「そう言えば昨日の宴会で二日酔いがきついんです。それくださいよ」


 言うだけ言って、再びクソデカため息をつくケケナカに、俺は流石に我慢がならなくなった。


 奴にずんずんと近づいていくが、ハーケン部隊はそれを止める様子はない。


 俺が何も言わずに近づいていくと、流石にこれは何か不味いと思ったのか周りから逃げ出す「名誉挑戦人」たち。


 逃げ出す連中をそのままに、俺はケケナカをつまみあげて服を引っぺがすと、特殊ハーケン部隊のド真ん中に放り込んだ。


 そして、会場全体に響く大声で、こう叫んだ。


「……なんと大変だ!!特殊ハーケン部隊の皆様!!全裸の変態中年男性が会場に入り込んでいるぞ?!」


「ななななななにを?!」


「おや、これは確かに……変態が紛れ込んでおるのう」

「キキキー!つまみ出しちまいましょう!」


 ミリアさんがしれっと紛れ込んでる。何その順応速度!?


「ばかな!?ゴミどもは上級国民に対して死ぬまで奉仕するのがこの世の摂理というものです!この私をあっ!なにをするきさまらーーーーー!!!」


 ケケナカはハーケンの人たち(一部ポトポトの妖怪も混ざっていたが)ボコられ、尻に棒を突きさされ、柱に縛り付けられて外に持っていかれた。


『ククク!これは愉快、なかなかの余興でしたよ、「街道上の怪物」いや、ポトポトの機人さん。あなたとはもっと深い話し合いをしたいものだ』


「……そうだな、こちらもそのつもりだ――」

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