レジスタンス=ニンジャ

 俺たちは、「気分はもう戦争」といった雰囲気の超級市場を後にした。

 そして人気のない、町工場の立ち並ぶ区画へとやってきた。


 ここは何とも不思議な場所だ。

 全く知らないのに、どことなく懐かしい感じがする。


 立ち並ぶ長屋ながやが幾重にも連なる水路で区切られていて、どぶ板だけがその水路を渡し、通行可能にしている。


 どことなく、お江戸感が残る場所だな。


「シンシア、その自由市場フリーマーケットとは一体何だ?」


「自由市場とは、テンバイヤーの来る店を通さず、工場や農場からモノをもちだしたものを、直接売るヤミ市場ですわ。本当はこちらの方が不法行為なのですが……」


「法律的に問題ないといっても、テンバイヤーから数倍の値段で買っていたら、普通の人たちは飢え死にしてしまうからな」


「はい、そういうことです。」


「ケケケケ!目本の連中はアホばっかですね!最初からそうすりゃいいでがす」


「……ミリアよ、街が大きくなるとそれも難しい。そうもいかぬのだ」


「機人様の言う通りです。作るのもそうですが、運ぶのも大変なのです。自由市場も規模が小さく、全ての人々がアクセスできるわけではありませんの」


「ふむ、規模を大きくすれば、ヤクザマンからの攻撃を防ぐのも難しくなる、か?」


「はい。そしてレジスタンス=ニンジャは市場を守る者たちです。彼らの武力のおかげで、ヤクザマンは自由市場に手を出せずにいますわ」


「……だが、ニンジャには、爆破テロや暗殺をする過激派もいるのだろう?」


「ええ。ニンジャは過激派と穏健派の二派に分かれています。過激派の主張は極端すぎて、目本に内戦をひき起こしかねません」


「常識的な主張をしているのは、自由市場を守る穏健派です。彼らは守りにてっしていますが、内心では攻撃に出たい、しかし守るので手一杯なのですわ」


「シンシアの言わんとすることがみえてきたぞ。つまり、我々は彼ら穏健派にとっての使い勝手のいい戦力、現状の突破口となるわけだな?」


 シンシアの瞳が怪しく光り、口の端が上がる。


「ええ、機人様のおっしゃる通りです。そしてここが、レジスタンス=ニンジャが守る、自由市場の入り口です」


 シンシアが指示したのは、何か時代劇に出てきそうな場所だった。


 うーんこれは……日光江戸村?

 修学旅行でいった京都の太秦うずまさ撮影所にも……


 ってか、完全に時代劇じゃん!!

 目本の時代感覚、メチャメチャすぎんだろ!!


 そこを歩いている人たちは昭和って感じがする。

 だが、建物とか屋台の感じは完全にE=DOだ。お江戸。


 市場に立ち入ろうとした瞬間、俺の足元で何かが弾けて土煙が上がった。


「待ちな!!!そこの嬢ちゃんは知っているが、他の連中は見ない顔だな」


 声のする方を見ると、弾薬ベルトを垂らした機関銃を構える、キツネな人がいた。

 二足歩行こそしているが、体と顔つきはかなり動物寄りだ。


 おお、獣人度80%な感じ。ガチのケモナ―が好きそうだな。


 いや、そんなことを言ってる場合ではない。

 俺はキツネ人の持つ、機関銃を見た。


 目本の銃は完全に金属薬莢を実用化しているのか。

 もう現代的な銃とほとんど変わっていない。


「……私たちは敵ではない。そこのシンシアに協力する、ポトポトの者だ」


「へっ、知ってたよ。脅かしただけだ」


「俺たちがその気なら、この名刀『MG42えむじぃ』でバラバラになってたからな!」


(……うーん、名刀キカンジュウ……?名刀って何だっけ?)


(おそらく、刀は武力を表すものとして、抽象化されたのでしょう)


(なるほど。ミサイルとか兵器の名前に剣の名前つけるみたいな?)


(そうですね。急激な発展による弊害へいがいかもしれません。目本はこのような中世そのままの建物や人が残ったまま、急激な工業化を遂げたのかもしれません)


(……ん、それって?)


(機人様のような存在が、リアルタイムで関与している可能性が出てきましたね)


(ゲー!……ねえナビさん、俺が最後のはずじゃなかったの?イギニスにいた、若草色のやつとか普通に生きてたじゃん)


(手持ち時間が無くなった、そのような解釈をしていただければ)


(ああ、そういうことね)


「おい、そこの砂色のデカブツ!何とか言ったらどうなんだ!」


 あっ!キツネさん、それは不味い。その言い方はァ!!


 キツネさんが何かの存在を感じ、見上げたその瞬間だった。


 黄色い髪を流星のようにたなびかせ、音もなくキツネさんのいる長屋の屋根に降り立ったそれは、まるで運命づけられていたかのように、尻尾の生えたちいさなお尻に蹴りを放った。


<スパァン!!>「「ハットリ!!!」」


 妙な悲鳴を上げ、屋根の木板を巻き上げつつ、どんがらガッシャンとおちるキツネさんを見下ろすのは、もちろん我らがポトポト王、ミリアさんだ。


 なんか、どんどん身体能力が上がっている気がするな。


「機人様に偉そうな口を利くやつは!このミリアが許しまへんで!!!」


 ポトポトの妖怪は、いつのまにかニンジャ以上の神話的存在になっていたのかもしれない。俺はそんなことを考えられずにはいられなかった。

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