ニンジャ屋敷

「何しやがんだ!乙女の尻にケリくれやがって!」


 おお、さすがニンジャ!ローキックくらいじゃなんともないぜ!


 フシャーと毛を逆立ててミリアに突っかかるキツネニンジャ。

 でも彼女(?)身長がミリアより低いから、微妙に迫力が無いな。


 まあ、喧嘩は止めておくか、これ以上ややこしいことになったら困る。


「……まてまて、それくらいにしてくれ。君にケリをくれたその者はポトポトの王なのだ。えむじぃを突きつけたことはなかったことにする。だからそちらもだな……」


「これが王様って、ポトポトはどうなってんだよ……」


 まったくおっしゃる通り。


「ともかく、我々は目本に来て日が浅い。君たちの事を教えてくれ。なにか手助けできることがあるかもしれない」


「ふぅん。まあエルフやアンタはともかく、そこの黒髪の姉ちゃんはクッソ強そうだ。きなっ!屋敷まで案内してやるぜ」


 イズナさん、リューの強さに気が付くとは、なかなか見る目があるね。俺はまあ、図体はデカいけど、クラフトやナビさん含めての戦力だから!


「そうだ、俺はイズナだ!この自由市場じゃ、イチバンの使い手って、ここいらじゃちったぁ名が知れてるんだぜ」


 なるほどね。イズナは肩に抱えたマシンガンと一緒に、尻尾のちょっと上のホルダーに、小型単発のグレネードランチャーを差している。


 俺が知らない間に、いつの間にかニンポーはマシンガンとグレネードランチャーに姿を変えていたらしい。


 現代ニンジャはコマンドーなのだろうか。

 実用的ではあるが、夢もクソも無い。


 俺の心が納得を拒否しているが、武装エルフの次に、ニンジャは強い存在だろう。この世界で俺が出会ってきた連中では、かなり上の方かもしれない。


 さて、俺たちはイズナに連れられて屋敷とやらに着いた。

 ニンジャ屋敷的なアトモスフィアの建物を想像していたが……。


 どう見ても鉄条網とマシンガンを装備した、近代的なトーチカだ。屋敷とは?


「おっと、そこには爆発性マキビシがある。気を付けな」


 地雷だよね?それ普通に地雷の事だよね?無理にニンジャ感ださなくていいよ?


「……これは驚いたな」


「ええ、ニンジャは我々より数世代先の戦術理論と兵器を持っています。目本がいまのような政治的災害に苦しんでいなければ、世界を取っていたでしょう」


 ニンジャと目本をそう評したのはポルシュ君だ。


 確かに、これだけ発展している状態でワッサワッサと攻めて来られたら、中世そのもののオーマや、まだ蒸気がポッポーしてるイギニスではどうしようもないだろう。


 ニンジャ屋敷に入った我々は、そのまま広間に通される。

 広間はコンクリート打ちっぱなしの床に、畳だけ敷かれた留置場みたいな場所だ。


 奥の方、畳を積み上げて作った高台にいるのが、ニンジャの指導者だろうか?

 見た目が牢名主ろうなぬしかなんかだよもう。


「目本へようこそ稀人まれびとよ。新しき風は何を持ち込んだのかな」


 ええい!そういうもったいぶった語り口は止めろ!

 リューが反応する!ステーイ!ステイ!リューさんおすわり!


 俺は目をきらめかせたリューを機械の手で制止して、牢名主の言葉に返す。


「我々はセカヘイの指導者、ファーザーとの対決を望んでいる。そのためであればお主らニンジャの手助けをすることもやぶさかではない」


「ふむ……鉄なる人よ。我々ニンジャが、ヤクザマンと戦っていることを承知の上で言っておるのか?」


「うむ。おヌシらが攻めあぐねているヤクザマンの拠点。それを言ってくれれば、奴らの全てを焼き尽くしてくれよう」


「カカカ!これは狂人のタワゴトにござるぞ!」

「左様!所詮しょせんは世界のド田舎に住む者。何も知らぬがゆえに吠えておるだけ!」

「時間の無駄ですぞ、首領!」


 いつのまに居たのか、ニンジャたちが積み上げた畳の左右に現れていた。

 なんだ、ちゃんとニンジャっぽいことできるじゃん。


 オッサン、マジで安心した。


 マシンガン乱射して、「ニンポーはちの巣の術」とか言うタイプのニンジャではないんだな。ちゃんとニンジャ要素あった。


 しかし困ったな。ここで足踏みしている場合ではないのだ。

 こうしている間にも、セカヘイは信者を増やし続けているかもしれない。


 うん、ここはあおってやろう。


「……四の五の言わずにヤクザマンの拠点の場所を言え。それとも、昨日今日やって来たばかりのよそ者に手柄を挙げられて、恥をかくのが怖いのか?」


「……それとも、したり顔で言ってはいるが、実はおヌシらは、ヤクザマンの拠点も、セカヘイについても、なにも知らぬのか?」


「なんという無礼!!」

「即刻ゴクモンじゃ!!!」


「だまらっしゃい!!!」

「そうじゃそうj――」

「黙るのはお主らじゃ!!このウツケ者が!!!」


 畳の塔の上に居る牢名主が、騒ぎ立てる他のニンジャを黙らせた。

 そして彼はこうも続けた


「鉄なる人、本当におヌシの力がヤクザマンに通じると思っておるのだな?」


「……そうだ。ひとつの街を跡形なく焼き尽くすことだってできる。信じがたいとはおもうが、この姿がすでに信じがたいものだとは思わんかね?」


「――それもそうだな。うぅむ、では……」


 牢名主と俺の間で、ようやく話が進みそうになったその時だった。

 慌てた様子のニンジャが飛び込んできて、俺たちの話をさえぎり、こう叫んだのだ。


「大変だ!過激派のニンジャが、セカヘイの息のかかった政治家に爆殺テロをするって話が飛び込んできたよ!」


「このままじゃ、ヤクザマンどころか、ニンジャと目本の戦争になっちゃうよ!!」


「なんじゃとぉ!!!」


 ――クソッ思ったよりも、事態は一刻を争いそうだな。

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