そうだインダ、行こう

「グッとして……ばーん、ッス!」


「なるほど!継続的な火力よりも、衝撃力が必要という訳ですね」


 俺は新聞社を後にして、古代竜を連れて、蒸気エンジン工場あらため、蒸気自動車工場となった、「ポトポトモータース」へやってきた。


 設計事務所では、援軍として、ポトポトからイギニスにやってきた連中が働いていた。ローニィ一家、ポルシュ、そして聖ヨワネ騎士団の連中だ。


 ローマの騎士団連中はイギニスの技術にショックを受けていたが、ポルシュはそんなそぶりも無く、すぐに工場の設備に順応していた。


 やっぱポルシュくん、リアルチートな類だったかー。


「でしたらここは、主砲を改良して、こう連装式に!」


「ッス!ばーんから、バババーンッスね!」


 彼らは完成した最初の「装甲車」の改良に既に取り掛かっている。そう、ポルシュ君をポトポトから連れてきたら、その日のうちに、設計が完成しました。


 ……控えめに申してバケモンである。俺は横目で完成した最初の設計図を見る。


 最初、箱型だった装甲車は、かなりコンパクトになっている。半分くらいにはダウンサイズしたか?


 その原因は、ポルシュが作業についてから、装甲車に追加されたものにある。


 ――「砲塔」だ。


 エイブラムスのような戦車の砲塔にくらべると、半分以下の大きさで、人ひとりが入るのがやっとのもの。でもこれによって装甲車は、連発銃ひとつで全周をカバーできるようになった。


 ロイの最初の設計だと、装甲車に4つもつけることで死角をカバーしていた。これのせいで、非常に装甲車のサイズが大きくなっていたのだ。


 この設計図を基に、組み立てが終わったのが「タイプ7装甲車」だ。


 実質的には最初の装甲車なのに、なんでタイプ7なのか?というと、ポルシュに言わせると、「機人様は、タイプ1の商品、買いたいですか?」とのことだ。


 なるほど、ポルシュくんは本当に頭がいい。


 単純な設計者としてではなく、自分の作品を商品と認識して「売る」という部分にまでちゃんと頭が回るのは、とてもまれな才能だ。


 チョコの田舎貴族にしておくには勿体ないな。


 工場と設計事務所を与えて自由にさせておいたら、10年後にはエイブラムスが、マジで完成してそうだ。


 あ、俺がこの工場に来たのは、この視察だけが目的ではない。


 ロイとポルシュ、そしてそこのソファーに寝そべってクッキーと茶を貪っている、ミリアや、占いコーナーの記事を書いているデドリーを連れて、今からインダに行くのが目的なのだ。


「……皆の者、インダに行くことになった、準備をしろ」


「ええ、急っすね!一体何でッス?!」


「……装甲車の最初の大口顧客が見つかった、インダの族長の、リュー殿だ」


「ッス!お客さんッスか!?」

「えー!あんなの買う人、ほんとにいるんですね!」


 KABOOM!とアメリカンな効果音が出そうな感じのドワーフパンチでミリアが飛ばされているが、まあ気にしないでおこう。


 新聞社でインダに核兵器があることを打ち明けられた後、俺はインダの古代竜、リューと、ある「契約」を結ぶことにした。


 イギニスのように、金に目がくらんで何するかわからないような連中が、その威力も意味も理解できない核兵器を手にするのは、非常に望ましくない。


 なのでインダの核兵器を守りたいというのは、俺とリューの間で意見が一致する。


 しかしリューと象人が、イギニスや、今後現れうるその他の勢力の影響から身を守るには、それに対抗できるだけの産業と実質的な武力が必要だ。


 だから、俺たちがそれを提供する。

 「装甲車」の提供と、ポトポトを通した技術供与という形で。


「うむ、このリュー殿は、10台のタイプ7装甲車をお求めだ」


「おぉー!それは素晴らしい!」


 らんらんとした笑顔のポルシュ君を見ると、こっち迄嬉しくなっちゃうね。

 やったぜポルシュ君。過労死しないレベルでそのまま頼むぜ!


「まず最初の1台をインダに持っていって、完成次第、順次納品という具合だな。ちなみに10台分の代金は既に受けとってあるのだが……これで足りるか?」


 そう言っておれは皆の前で、リューから受け取った代金を広げる。

 金の延べ棒と、色とりどりの宝石だ。


 ポンダみたいな紙なんかより、ずっと現実的な価値のあるものだね。


「これなら足りまくりますよ!サービスで改良版を足したって良いくらいです!」


 ポルシュ君とロイの反応を見る。ポンダより、彼らにはこっちの方が代金としてはやはりわかりやすいんだね。


「でも……送り届ける方法はどうします?うちはまだフネとか輸送手段が……」


「……あー、その点については、そのうち我が何とかするつもりだが、今日のところはリュー殿が、そのまま一台お持ち帰りだそうだ」


「「へっ?!」」っと全員が間の抜けたような声を上げる。


「申し遅れました。私、実はこういうものですの」


 スカートの端から、にゅッと黒い尻尾を出して、右手だけをあの時の竜の腕に戻して見せるリュー。


「……ッス、つまりノーパ、げふっ!!」


 それ以上はいけないという前に、ロイは鋭い尻尾の一撃に吹き飛ばされた。

 うーん、ナイスシュートだ。


 「はい?」という顔で事態を飲み込めないのはポルシュだけか。

 まあ彼は古代竜を見てないしな。


「という訳で、リュー殿がそのまま持ち帰るのに同乗して、我らもインダに向かう。振り落とされるなよ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る