イギニスの企み

「何じゃこれは!」


 イギニス連合王国の女王、ソデザベスは激高して、ある紙を玉座のたもとの、赤い絨毯の上へと叩きつける。


 でかでかとした、丸っこい書体の見出しを上にして叩きつけられたのは、本日発行の「ポトポト新聞」だった。


 その見出しには、「たたかいは終わりました!」とある。


 これが意味することはなにか?


 古代竜と機人は、お互いにこれ以上戦う気は無いという意思を、イギニスの国民に示した事になる。


 これにイギニス王室が異を唱えようものなら、平和を乱す悪役となり、機人と古代竜、その両方を相手取ることになる。どうしてこうなった?


 そもそも、なんであいつらこんなに仲がいいの?おかしくね?デキてんの?


「チャールスを呼べ!」

「ハハッ!」


 しばらくして、ポトポトに送り出した全権大使、チャールスがやって来る。

 ……あれ?こいつこんな顔だったか?


 チャールスは今年で50歳になるはずだが、私の目の前にいるチャールスは、どう見ても若い。肌は浅黒く健康的で、筋肉で盛り上ったタキシードからは生命力があふれ出ている。


 あれ?チャールスの息子を呼んだのか?あいつの息子、今イギニスにいたっけ?


「ええっと……誰だっけ?」


「ンッンー!女王陛下!このチャールスをお忘れになるとは!」

「はは!わかりましたぞ!私をからかっておいでですな!これは愉快!」


 マッスルポーズをとって白い歯を光らせるチャールス(?)

 うむ、純粋にキモイな。


「うん?どう見ても若返ってるように見えるが……?」


「ンッンー!それはきっと日頃の散歩のおかげでしょうな!『ポトポト新聞』にも、一日30分の散歩で30年寿命が延びるとありました!」


「ンン!つまり今の私は、50引くことの30歳で20歳なのです!!!」


 なんかポーズをとって、変な踊りをしてるチャールスに腹が立ってきた。

 いや、そもそも散歩にそんな効果はないし、計算もおかしい。


「ともかくそれだ、その『ポトポト新聞』について妾は申したいのだ!」


「ンッンー!というと、なんですかな?」


「無論、インダの経営についてだ。古代竜と象人を切り離し、全土を占領する。それがそもそもの計画であったではないか!」


「ンンン!!左様でしたな!!しかしご安心ください!」


「何を安心しろというのだ!!」


「ええ、イギニスとインダは未だに心の内では戦争状態。ですが、おおやけに手を出すわけにはいかないのも確か!!!」


「ンッンー!つまり、私的してきに手を出せばいいのデス!!海賊や企業がインダに攻撃する分には、それはただの犯罪ですので、戦争にはなりませン!」


「その海賊が、たまたまイギニス製の武器を使っているかもしれませんが、お金を出せば手に入るモノに違法性はありませんンン!」


「ほう……!」


「ンッンー!インダ上陸作戦は、我らが前々より温めておりました。秘密兵器もご用意してございますン!」


「機人が我が銀行に『ポトポト債』を振り分けたことにより、我らには大量の現金がございます。兵を動かすのに、なんら不足はないかとンン!」


「ホーッホッホッホ!!さすがはチャールス!機人と友人などと言い合うから、てっきりお主、裏切ったかと思っておったぞ!」


「機人と近づいたのは、その機人の力を利用し、油断させるためであったか!流石は全権大使のチャールスよのう……」


「ンッンー!我が忠誠は、女王陛下にのみ、捧げておりますンン!」


「して、その秘密兵器とは、一体なんじゃ?」


「ンン……恐れながら、詳細な説明は出来かねます」


「なんと!バカにしておるのか?!」


「いえいえ、そうではございませぬ。古文書を解読した我々も、この兵器に関しての情報は限られているのです。」


「――ッ!古文書とは、チャールス、お主まさか!!!」


 そのとき、にわかに空かき曇り、玉座の間は暗闇に包まれた。


 そして、ゴロゴロという音の後、ピカッっと輝く雷光がチャールスを照らした。

 雷が浮き上がらせたその顔は、邪悪な笑みに染まっていた。


「……はい。なにせこの兵器は、世界を破壊し尽くした、審判の日より前、旧世界に由来するものでして……!」


「お主。本気なのだな?しかし、本当に古代竜を倒せるのか?」


「古代竜も、旧世界の時代より生き抜いていた存在と聞くぞ」


「ご心配なく。実はこの兵器、実験時にその威力を発揮、凄まじい惨事を引き起こしたらしく、その記録と共に、封印されていました」


「つまり、古代竜ですら、この兵器の存在は、知る由も無いのです」


「ほう……つまり奴にとっても未知の兵器、という訳だな」


「ンッー、左様に御座います。」


 ガラガラ、ドッシャーン!という雷の後、ぽつぽつと雨が窓を叩く音がする。

 まるで二人の間で交錯する、邪悪な意思をかき消さんとするようであった。


「この兵器は、かつて我々の先祖がその暗黒面として刻んだ歴史、その中で、究極の侵略兵器として、その名と共に封印されていました。」


「して、その究極の兵器の名は、何と申す?」



「ハッ!!その名も、『G偉大なる・パンジャンドラム』にございます!」


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