ブチキレ玉

 さて、ここでしばし時間が巻き戻る。


 ここは神聖オーマ帝国にある、ペルリンの機人学校だ。


 その機人学校で、未亡人たちに木材と金属の加工を教えているのは、ポルシュだった。講師担当の一人が、古い魚に当たって腹を壊して寝込んでいるので、代わりに講師をしているのだ。


 ふう。彼らの道具の扱いも、ようやく慣れてきたみたいだな。


 ……ぜひともイギニスの使節団に加わりたかったんだけどな。


 しかし、機人様が出かけた後、僕も行ってしまえば、オーマでは生産はともかく、改良の指揮をとれる人がいなくなってしまう。そのために僕は、留め置かれたのだ。


 ――ふと窓の外を見る。窓の外では子供たちが遊んでいた。子供たちは、機人様のおかげで大分食糧事情が改善した。リンゴのような赤い頬、爛漫とした笑顔。


 自分の頬が緩み、微笑むのを感じる。

 ああ、こんな幸せがずっと続くといいのにな。


 そのためにも僕は、この世界の小さな幸せを守るために、オーマの武器を改良し続けなければならない。それが僕にしかできないことだから。


 改良は大分進んでいる。軽量化、着火の効率。


 しかし火縄銃の改良は、根本的な所でつまづいている。


 何を隠そう、「火を使う」という部分だ。


 イギニスの銃は火縄式ではなく、もっと進んだ、火打石を使ったモノだった。


 国交を結んだ際の贈り物として、最近届いた荷物にあった「フリントガン」これは確かに優れている。火種を持ち歩く必要がない。


 フリントガンは、バネに固定された火打石が、金属製のクチバシのようなパーツをこすって、火花を出す、その火花でもって火薬に点火するという機構だ。


 火種を持ち歩く必要が無く、火縄にふーふーと息を吹きかけて、火が消えないように小さな炎をなだめる必要もない。便利には違いない。


 しかし、これも方法は違えど「火を使う」のだ。


 点火する部分は当然露出しているから、雨に弱いという弱点は変わらない。


 ビキッっと音がして、優しそうな青年だったポルシェの顔が怒りに歪む。


 もうそこに、子供たちを見つめていた、好青年の姿はなかった。


 クソッ!クソッ!クソがァァァッァッ!!!!


 フリントガンッ!こいつは火縄銃の延長線上にある技術じゃねーかッ!

 これでは発展してるとは……言えねねェ~~~だろうがッ!


 イラつくぜぇぇぇ!?火薬に火をつけるのに、「火を使う」すげーわかるッ!


 超合理的だぜッ!!だけどよぉ~~~?


 ――その当然がクソ邪魔だぜ!クソッ!クソッ!クソッ!


 ポルシュは怒りに任せて手近にあった木板をハンマーでガンガンと叩いてボコボコにする。


 何事か?!と作業をしていた未亡人は顔を上げる。

 が、なんだ、「いつものアレか」と見て取って、また作業にもどった。


 ★★★

 説明しよう!ポルシュは普通の人とは、とある部分に関して、怒りの沸点が違う。

 そう、彼は技術的なつまづき、製品の特性上、仕方がないような非常に解決が困難な課題にぶち当たると、常人の3000倍のストレスを感じるのだ!

 ★★★


 はぁ、はぁと息を切らす。


 クソッ、マジでむかつくぜ。火を使わないで火薬を点火する方法……高熱、温度はダメ、となると圧力、高圧か?火をつけるほどの圧力をバネや人力で?


 んなもん、それで直接に弾を飛ばした方が速いし、構造が複雑になり過ぎる。


 そのとき、「パァン!」という音がした。


 ドキッとして音のした方を見る。銃を使った事件か?と思ったが違った。


 子供たちがある物を地面にぶつけて、音と光を出して遊んでいるのだ。


 あれはブチキレ玉という、ある鉱物を由来にした玩具だ。


 探鉱者にとっては厄介者の、激怒鉱と呼ばれる鉱石。


 この鉱石は、ツルハシで力強くたたきつけるとパンっと爆発する特性がある。


 気付かずにこの鉱石に道具を振り下ろすと、道具を折損したり、ひどい時はケガをするので鉱夫の嫌われものなのだ。


 だが、おもちゃとして使う分には派手で面白いし、火薬に比べて安いので、演劇で音や煙の演出なんかに使われている。


 あれは爆発だ。子供の力でも起こせる、光と煙。

 つまり、あそこには圧力と熱が発生している。


 ……あるじゃねぇか……うってつけのモンが、アソコによぉ……?!

 

 ポルシュは子供たちをおそ、ゴホン、話しかけ、ブチキレ弾をうば、ゆずりうけると、早速、新型銃の試作を始めることにした。


 そして確信する。「こいつは”最高グレート”だぜぇ~~~!?」と。

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