そうだ、新聞を作ろう

「……次は、こういう風な記事を考えてみたのだが……どうだろう!」


「ダメですね。ダメダメです!こんな話、読者には難しすぎます!」


「クッ……!」


俺はバーストという男と、机をつきあわして、「ある物」を作っている。


イギニスでニューペーパ―と呼ばれるもの。つまりは新聞だ。


「機人様、あなたはご自身の価値を過小評価しておられる。あなたはイギニス人にとっては未知の存在、夢の塊なんですよ!」


「……むむむ」


「なにが、むむむですか!!」


 俺はあるニューペーパ―の会社を買収し、「ポトポト新聞」という新しい新聞を作ることにしたのだ。


 これはイギニスでの、ポトポトと俺の知名度、そして評価を上げるのが目的だ。


「イギニス人は、常に刺激に飢えています。明日の天気は見ても、政治とか経済とかどうでもいいんですよ!」


 バーストは俺の用意した政治、経済記事をわきにどけた。


 えーんえーん……頑張って作ったのになあ。


「ふぅむ。では思い切ってこういうのはどうだろう」


 俺は政治記事の代わりに、デドリーの星占いコーナーを用意することにした。「あなたが思うより、あなたはきっと幸せ」とかいうキャッチコピーを付けてみよう。


 ちなみにデドリーのイラストは俺の直筆だ。結構かわいく描けたと思う。


「ふむ、悪くないですな。だがメインとするには弱いですな。」


「そしてこうする。」


 俺はミリアをモデルにして描かれた、イギニス紀行をテーマにした4コマ漫画を左上に置く。順番を抜かされるとか、よくあるムカっとすることに出会った彼女が、そのローキックですべてを解決する痛快マンガだ。


 ちなみにこれも直筆だ。

 これはそのうち、だれかに代わりを書いてもらおう。


「ほう!風刺画はありふれていますが……連続性を持たせるとは面白い!これは良いですよ!うん!実にイイ!!」


 ほう、バーストのお墨付きをもらえるとは、この方向性で良いんだな?


「……ふぅむ」


 俺は自分で用意した政治記事を見る。


 ポトポトに派遣された全権大使大使チャールスによって、イギニスにやってきた機人は、ソデザベス女王と面会中、突如乱入した古代竜との交渉の結果、イギリスのみならず、古代竜とも友好条約を結ぶことになった。これは三国の緊張を緩和し、新たな時代の地平線を開くものである。これはつまりウンヌンカンヌン……


「冷静になって見返してみると、確かに難しいことを書きすぎた。ちょっとこれをこうして……これでどうだ?」


 イギニスの女王と、インダのドラゴンさん、そしてポトポトの機人さんは、話し合って、もうけんかをしないことにしました。これからもみんなで仲良くなれるといいですね。


「ふむ、これなら普通の読者にも読めるでしょう、しかしまだ……」


「で、これをさらにこうする」


 イギニスの女王さま、

 インダのドラゴンさん、

 ポトポトの機人さん。


 みんなで話し合って、けんかをやめました。


 これからも、みんなで仲良くなれるといいですね。


「エーーークセレントォォ!!!!!」


「機人様は、政治記事の本質がお分かりだ。実に……イイ!!」


「……活字をワンサイズ大きくして、小見出し用の物を本文にして、さらに行間をわざと1段空けて見たのだ。かなり読みやすくなったと思う」


「ええ、これは他のニューペーパーに比べても、格段に読みやすい。これならばイギニスの市民も手に取りやすいでしょう!」


「そして、事件の因果関係やデータはばっさりカット。『けんかをやめた』という結果に『仲良くなれるといいですね』と、こっそり記者の意見をプラスする!!」


「余計な一言、これが世論誘導ですよ……、機人様!あなたは実にイイ!!」


「……ククク!!バースト君、キミもなかなかの悪じゃないか!」


「「ヌーハッハッハハ!!!」」


 俺が買い取ったニューペーパー会社のバーストという男、こいつがとんだ掘り出しものだった。


 この男は、真実を伝えるとかいう事には、これっぽっちも興味がない。


 興味があるのはただ一つ。ニューペーパーを通して、世間の意見に変化を与える。この快感に取りつかれてしまった怪物なのだ。


 こうして俺はイギニスの市民に対して直接、自身の意見を伝え、押し付けるという手段を手に入れた。


 ここで、彼らが実際に何が悪いとか言いとか思う事は関係ない。


 彼らが家族、職場の友人の間で、情報通、あるいは世間に対して見識ある人物として見られるために、ぱっと覚えられ、他人と共有できる「ストーリー」。


 耳障りが良く、正義の側に立てる「ストーリー」ならなおよい。

 これが必要なのだ。


 これさえあれば、実際には何が起こっていようが、味方を増やしていける。


 この味方、というのは、ミリアをはじめとする、ポトポトのエルフのような同盟者とは違う。消極的で、行動を起こさない、傍観者としての味方を指す。


 そう、彼らが何もしないでいる限り、俺たちの共犯者にできるのだ。


 よし、あとはポトポトやオーマの、あることない事を書いて、面白おかしくしてやろう。刺激的であればあるほど、この新聞を手に取ってくれる確率は上がるはずだ。


 やるぞー!!

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