文明的な労働
俺たちが自然史博物館を出る前にもひと悶着あった。
チャールスがよりにもよって、エルフを展示しようとした。
つまり、我らがポトポト王のミリアさんを柵の中に入れようとしたのだ。
もちろんローキックで、向こう脛をしたたかに蹴られていた。
チャールスは見学者に対して、「ンッー!皆様落ち着いて、これはエルフの文化です!」とか言っていたが、俺の知る限り、こんなことをするのはミリアだけである。
さて、最後はイギニスの産業の見学らしいが……もう嫌な予感しかしねえな!
俺たちは再度、クソ遅い自動車に乗せられてどんぶらこと移動し、いくつもの煙突が生えまくった、赤レンガの建物の前に着いた。
おお、いかにもな工場だな。
オーマも似たようなことはしているが、規模感がダンチだ。
「ンッンー!ここがイギニスが世界に誇る!工場でございます!ンッンー!」
中に通されて工場を見る。ほう、大体、小中学校の教科書で見るような感じだ。
織物をする器械が並んでいて、ゴンゴンゴンという音と一緒に、大量の布がラインを流れていく。
機械には大量の糸を供給しなければならないが、その作業をしているのは、象っぽい人たちだ。この人たちは、亜人動物園でも見たな?
象っぽい人たちは、ミリアがすっぽりと4人は入りそうな、でっかい白いシャツとズボンの統一された服装だ。
彼らがえんやこらと、糸の入った箱を機械に補充して、出来上がった布をどこかへ運んでいる。
「ここで働いているのは、先ほどの動物園にもいたな。象人……でいいのか?」
「ンッンー左様です!文明の存在しないインダから、この地にやってきた彼ら象人は、実に文明的な労働をしていますン!」
文明的、というわりには、その服装は統一され、まるで機械のように働かされているが……?いや、機械の俺が言うのもおかしいが。
「……イギニスの文明的、というのは、人が工場の歯車の一つとして、物も言わずに働くという意味か?」
「ンッンー!それは少々意地の悪い、視点からの見方ですね!」
「彼らはインダに居れば、古代竜の奴隷となり、草を育て、バナーナを食べ、その日使うだけの布や道具を作る。ただそれだけの、未開の生活をしていましたン!」
「古代竜と暮らしていたのか彼らは……?」
「ンッンー!そうですね!」
どう考えても、古代竜が攻めてきてる理由、それじゃねーか!!!!!
「……古代竜はそれを怒って攻めてきているのでは?」
「ンッンー!ナンセンス!所詮は動物でしょーぅ!貨幣も使わずに、その日ぐらしをしていた彼らに、そんな知性があるとは思えませーンン!!」
そのとき、バンッっと大きな音がして、糸の入った箱が転がった。
「何が文明でごわすか、もうやってられんでごわす!」
「なんで自分が着るわけでもない服の為に、毎日こんな思いをするでごわっど!」
「そうでごわっど!!もうたくさんでごわっど!!」
象人たちが口々に不平を口にして、仕事の手を止めてしまった。このために、機械から吐き出される布は、勢いを無くして止まってしまった。
「ンッンー!いけません!暴動が発生しましたンー!」
「……働く人間の前で、堂々と小馬鹿にするような事を言うからだ」
「ンン!ンー!お助けください機人様!チャールスとあなたは『友人』!そうではありませんかンンン!!!」
「……なるほど、『友人』ならば、友が誤った道を歩みそうなとき、それを止めてあげるのもまた、友人のつとめだな?」
「ンッンー!何をするのですかアッハーン!」
俺はチャールスをつまみ上げると、象人の中に放り込んだ。
「殺さなければ何をしてもいい。少しは薬になるだろう」
「「ごわっどごわっど!!!」」
ガシッ!ボカ!ブリュッセル!!ジョンブリュッ!!!
――といった具合でチャールスはもみくちゃにされた。
埃っぽい工場が、さらに埃っぽくなった煙の後に残されたのは……
ボロボロになって、尻に布のロールを突っ込まれたチャールスだった。
まあ、管理者責任という事でここはひとつ。
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