チャールスのポンヂ銀行

 イギニス連合王国に到着した俺たちは、蒸気船から降ろされたタラップを降りる。

 全く歓迎は期待していなかったのだが、意外にも歓迎式典で出迎えられた。


 50メートルくらいの長さの赤絨毯の道。その左右には、オモチャの兵隊みたいな恰好をした儀仗兵がずらり、というほどでもない数がまばらに並んでいた。


 うーん、軍隊は確実にオーマより強いな。ガチンコで殴り合ったら確実に負ける。ナビは口先三寸で戦うみたいなこと言ってたけど、大丈夫かぁ?


 赤いカーペットの道を、勇壮な音楽をバックに俺たちポトポト御一行は進む。


 ゴールには、でっかいタンクと煙突の付いた馬車……?いや、あれは蒸気機関で動く自動車か!すっげぇ!


 ただ……サイズ的に俺は乗れないだろうなー。残念。


「ンッンー!ささ!レディーファーストでございます!ポトポトの皆様どうぞお乗りください!イギニスをご案内いたしますゥ!」


 キャッキャ喜びながら、ミリアさんとデドリーが自動車にのっていく。


 トラックの時といいお船の時といい、この子ら乗り物好きだわねー。


「ンッンー!!皆様には、ソデザベス女王との謁見の前に、イギニス連合王国が誇る、経済、文化、産業、を見ていただこうかと!」


「……ほう、まずはイギニスという国を理解してほしい。そういう訳だな」


「ンー!左様にございます!さすが機人様、察しがよろしい!」


 あらやだ。訪問スケジュールも決められちゃってるのね。っても、ここでソデザベスに合わせろーって、カチコミするわけにもいかない。


 ここは大人しく、イギニス観光としゃれこむか。


★★★


 トロトロ走る自動車に乗って、俺たちはイギニスの街を進む。


 ねえ、多分だけどこれ、歩いた方が速くない?


 なんか自動車の先頭に、赤い旗振って誘導している人いるし……。


 この自動車ができたばっかりなら、まだ交通ルールもクソもないだろうから、これはしょうがないのか?にしても遅い。


 トラックの速さに慣れた二人には、この自動車の速度はまどろっこしいのか、もう冷めた目をしている。


 チャールスは不思議そうな顔をしているが、もっと速い乗り物知ってるんですよ、このエルフたち。


 さてはて、自動車の横を歩きながら、イギニスの街並みを見る。なんか屋根や壁の焼けた家が目立つな。きっと古代竜の被害だろうな。


 街の一ブロックが丸コゲになっているのも見かける。なんか布で必死に隠そうとしているが……無理があるだろう。


 見た目は華々しく装っているが、絶賛戦時下ですっていうのが、俺がイギニスに持った最初の印象だ。


 しばらく自動車に乗って着いたのは、まるでギリシャの神殿みたいなぶっとい柱が三角形の屋根を支えている、荘厳な建物だ。


 おお?宗教施設?なわけないな。チャールスは宗教には興味ないって言ってたし。


 するとこれは……?


「ここは私、チャールス・ポンヂが頭取を兼務しております、その名もポンヂ銀行にございます!」


「チ●ポ銀行?なんですのそれ?」


 あの?デドリーさん?わかって言ってますよね?


「ンッー!レディ・デドリー!淑女が何てことを!ポンヂ銀行です!」


「んっ♡ごめんなさい、つい……耳慣れた言葉に近く感じまして♡」


「ポンヂポンヂポンヂンポ♡……ほら、ね?」


 しゃなりっとすると、周りのイギニス人が前かがみになる。


 デドリーのこれ、固有結界能力かなんかだろもう。


「……銀行。金を預かったり、貸したりする施設だな?」


「ンッンー!!!!素晴らしい!さすが機人さま。大いなる知識をお持ちだ!」

「しかしそれは、ふつうの銀行、ポンヂ銀行は一味違いますぞ!」


 チャールスはパンフレットを俺たちに手渡した。

 これにはポンヂ銀行のシステムが書かれているらしい。ふむふむ?


「ンッン!ふつうの銀行は、お金を預ける人を待つだけでございます」


「ですがポンヂ銀行は違います。あなたがポンヂ銀行に、2人のカモ……ヒトを紹介すると!」


「――なんと、ポンヂ銀行から1万ポンダ差し上げます!!!」


「……ではミリアが、デドリーと私を、ポンヂ銀行に紹介すると、君から1万ポンダもらえるという事か?」


「はい!そしてポンヂ銀行は世界最強!あなたのお金は、一年で2倍になります。」


「……すさまじいな、で、そのお金はどこからでているのだ?」


「ンン!!紹介された人のお金に決まっているではありませんか、ハハ!」


「……?お金を集めて、そこから配る??因みにこれ、いつから始めた?」


「このサービスが始まったのは、6か月前ですな。それが何か?」


(なあ、ナビ……ひょっとしてだが)


(Cis. 貴方の直感は正しいですよ)


(――かんっぜんに詐欺じゃねーか!!!!!)


「では、ミリア様は、2人の新たなカモ……ヒトをご紹介されましたので……、まだ預金はありませんが、特別に1万ポンダを差し上げましょう!!」


「ケケケ!もらえるモンなら、病気以外は何でも貰うですよ!!」


「ンッンー!!ではこの1万ポンダを……ッ」


「この窓口で『預金』いたしましょう!!ンッンー!」


「ハぁ?」

 

「ンッンー!!!ご心配なく、来年には、倍になって帰ってきます。」


 なるほど、高すぎる利率は、預金を引き出させないためか。悪魔かコイツ?


「返して―!!お金返して!!!!」


「ンッンー!ここは我慢のしどころですよ!お金持ちになりたいなら!我慢です!」


 返して―返して―!お金返して―!!!と連呼するミリア。


 何事かと段々と周りの客がこっちを見る。


 やめてあなた王よ!恥ずかしい!!!


 お金返して―!と叫ぶミリアさんの周りに、高そうな服を着たイギニス人が集まって、じっと見つめている。


(おやおやこれは……面白いことが始まりそうですよ)


(ん?ナビさん、ずいぶん悪い声で何を?)


 ――そして、その動きは始まった。


「「おい!!!俺の金を引き出させろ!!!」」


「「私の預金もよ!!!全額引き出すわ!!!!!」」


 んんんん……?


「「ポンヂ銀行がヤバイって聞いたぞ!俺の預金も引き出させろ!!」」


 銀行の外からも人が集まってきた。え?え?なにこれ?


 チャールスは真っ白になっている。え?何が起きてるのこれ?


(機人様。解説してもよろしいですか?)

(あ、うん。ナビ、いや、ナビ様お願いします)


(おほん。では、説明します。銀行は預かったお金を、誰かに貸し出して利益をあげる。ここまではよろしいですか?)


(ああ、そうですね。そうしないと、利息が払えないからだよね?あっ――)


(ええ、つまりこの銀行にあるお金。それはどこかに貸し出されています。なので、急に全額引き出すなんて言われても、そんなお金はないという事です。)


(銀行はあなたの預けたお金が返せません。となります。)


(はいここで、機人君に問題です。銀行はどうなりますか?)


(銀行のお金がなくなって潰れる、ということか。)


(まあそうなんですが、具体性が無いので、10点中3点というところですね。)


(低ッ!!!)


(まず、ミリアさんが「お金返して」と叫んだことにより、客に不安が発生します。ひょっとして、銀行が危ない、潰れるのでは?と――)


(そして、実際にお金を下そうとすると、銀行からお金を引き出せない。当然ですね、現金は他所に貸し出されて数字だけの存在になっているので)


(あっそうか、数字的には存在するけど、他所に貸し出されているから、銀行には借用書しかない……銀行ってそもそもからして、詐欺みたいなことしてるんだな)


(ええ、酷いシステムです。銀行制度自体は必要なものですが、有機生命体には高度過ぎるシステムですね。これを『取り付け騒ぎ』といいます)


(実際には問題の無い経営でも、これが原因でつぶれた銀行はいくつかありますね。)


(またそういう差別発言を……まあいいや。)


(ですが今回はチャールスのスキーム自体が破綻しているので、正当な破綻です。被害者が出る前に潰れてよかったですね。結果的にミリアさんは、彼らの預金を救いました)


 そのすぐ後、俺たちは締め出されて、「臨時休業」と書かれた銀行のシャッターが下りた。


「……すまん、まさかこんなことにまでなるとは」


「ンッンー!困ったことになりました。このままでは、ポンヂ銀行は本当に破綻してしまうかもしれませんな!」


 おや、大分色が薄いが、チャールスの色が戻っている。まだ生きてるな。


「……意外と余裕そうだな?」


「ンッンー!私には、第2ポンヂ=オレンジ銀行、そして第3ポンヂ=アグラ銀行がございますので、そちらの経営を続けていけばいいだけの話ッ!」


 ハッハッハと笑うチャールス。似たようなのがまだあんのかよ!!!!


(なあ、ナビ。この国、古代竜に丸焼きにされた方が良いんじゃねえか?)


(Cis. 割と同感です。)

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