古代竜の後始末とチャールス

 変形状態を解き、蒸気船に帰ってきた俺。


 必死で消火活動をして、何とか火を消し止める。

 大事には至らなかったが、美しかった白い塗装は真っ黒こげになっていた。

 

 その後、甲板に転がっているはずの、古代竜の腕をみにいく。

 すると、黒山の人だかりができていた。


 船乗りたちの視線を集めているのは、竜の腕と、チャールスだった。


 「ンッンー!残念ながら、古代竜を討ち果たせませんでしたが、この腕があれば、ソデザベス女王陛下はお喜びになるでしょう!」


 チャールスは腕を足蹴にして、まるで自分がやったことの様に振る舞っていた。


「古代竜は討ち果たせませんでした。結果を見ればその通り――」

「しかぁし!今まで成し得なかったことが成されたのも、また事実ゥ!!!!」


「すげぇ!」「あの機人を意のままに!」「チャールス様のおかげだ!」


明らかな棒読みで、チャールスを持ち上げる様な事を言っている奴がいる。うん?


「さぁさぁ!機人を意のままに扱ったチャールス交渉術!すべては冊子の中に!」

「他人を利用して人生に勝ちたいやつは、今すぐ買え!限定100冊!」


(ナビ、何だあれ?)

(恐らくイギニスでは、啓蒙けいもう書が流行しているのでしょうね。情報化社会の前段階では、よく見られた光景です)


(ちなみに、啓蒙書は、前文明の18世紀に発生した啓蒙思想とは根本的に――)

(あー悪いナビ、やめてくれ。また話が長くなるんだろう!)


(Cis. では必要な時、重要な時に再度説明しましょう。)

(ああ、そうしてくれ。)


 さて、チャールスはどうやら、本を売っているようだが……何が書いてあるんだ?

 ん-、イギニスのお金は持ってないし、クレクレするか。


「……チャールス。私の長い船旅の友に、その本をくれ」


「ンッンー!この本は限定100冊で100ポンダするの――」


「……なあチャールスくん、僕と君は『友人』ではないか?」


 俺はできるだけ「ええ声」でチャールスに問いかけた。


「でぇンンンン!!!!そうでしたな!ハッハッハ!!!」


「このチャールス!!!が機人と『友人』になれたのも!この書物のおかげ!!!!」


 バンッっという音とともに、俺とチャールスは白い光に包まれた。

 光の発せられた方を見ると、そこには煙を上げたストロボに「カメラ」があった。


 もうそんなものまで作ってるのかこいつら……。

 たぶん白黒写真だろうけど、これひょっとして――


「イギニスには、ニューペーパーというものがありましてな。日々の出来事を国中の人々に伝える、というものです」


「実はこの特命全権大使チャールスは、そのニューペーパー『ザン』の筆頭株主でもありまして、ハハハ!機人様がイギニスに到着した際の、見出しは決まりですな!!!」


 ええ、デイツとは別方面でまた、クオリティがおかしいな?

 こいつはひたすらにめんどくさそうだ。


(機人様、貴方今、「ひたすらに面倒くせえな」とお思いですね?)

(おっ気が合うな。丁度そう思ってたところだ)


(機人様、ナビの力を信じてください)

(――というと?)


(私、言葉だけで、イギニスという国を亡ぼす自信がございます。)

(あらやだ、こわい)


 だが、頼もしいね。


「おらぁ!機人様と慣れ慣れしくしてんじゃねぇ!」<ッパァン!!!>


 弾丸のように飛び込んできて、チャールズの尻にローキックを放ったのはミリアさんだ。背後ではデドリーがやれやれといった風にしている。止められなかったかー。


チャールスが弓なりに反りかえって、「ブリテンッ」と悲鳴を上げたその瞬間。


 再度バン!と光が放たれて写真が撮られている。

 こりゃ、ポトポトの蛮族って見出しになってもしょうがないぞ?


「ンッンー!皆様落ち着いて、これはポトポトの人々の親愛の挨拶です!」

「異文化コミュニケーションというやつですな!!」


 コブラツイストをかけられ、顔色を紫に変えながら、にこやかに2枚目の写真を取られるチャールス。なかなかこれで根性があるらしい。


 ミリアはコブラツイストなんて何時覚えたんだろう。

 まあいっか。


 俺は船倉に引っ込んで、チャールス式交渉術の本を開く。

 わかってたけどうわー、ちっちゃな絵の一つもない100%活字だ。

 こうみっちりと詰まった活字って、嫌いなんだよね。どうしよ?


 ナビ、なんかこう瞬間記憶とかで速読できない?


「Cis. できますよ。同じ機械なのに、性能差に愕然としますね」

「ヒトのように漫然ぼーっと動いていて、機械として、恥ずかしくならないんですか?」


「すまん、俺はまだ自分が人間っていう意識が抜けきっていない」


「なるほど、ではページをパラパラとめくってください。スキャンしますので」


 さっすがナビちゃん。口は悪いが、俺にできないことを平然とやってのける!

 割とマジでしびれる憧れるゥ!


 ……。


「で、どんな内容?」


「正直に申しまして、チャールスの能力を過小評価していましたね。」

「彼はダンゴムシから、ミツバチに世界ランクがアップしました。」


「ちなみに俺は?」


「フナムシですので、チャールスより512位、世界ランクが下ですね」


「ファッキン!」

「って、わりとマジにお役に立つ内容だったんだ?」


「ええ、割と真面目に役に立ちます。勝とうとしない、WIN-WINの関係を目指す、の部分はよくできてますね。最終目的が、搾取さくしゅの方向に向いているのが問題ですが」


「おそらく、イギニス人のメンタリティを分析する一次資料になるでしょう。良い買い物をしましたね。貴方の世界ランクをアップしましょうか?」


「おっ、どれだけ上がるの?」


「フナムシからアブくらいには変えましょうか。ちなみにチャールスに256位接近しました。よかったですね。」


「それでもまだ負けてるんかい!」


 しかし、ナビの評価が高いってことは、イギニスもちがう方面でクオリティがおかしいわけだ。俺は交渉とか外交ぶっちゃけ弱いし、こりゃナビ無双になりそうか?


 ちょっと焦げたが、なんとか7日ばかり航行した蒸気船は、ようやくイギニスの港に到着した。

 さて、ここで一体何が、俺たちを待っているのだろうか?

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