このような〇〇を表す言葉

★★★


 チンガス・ハンは彼の天幕で「機人現る」の報告を受けた。

 オーマに送った軍からの連絡はまだない。

 であるなら、手持ちのペーランドの戦力でこれに当たらねばならぬ。

 

 しかし機人が現れたというのに、ケシクや奴隷兵たちのあつまりが悪い。

 何がおきている……?


「ハーン!大変な事が起きておりますぞ!」


「ぬぅ、参謀のネコマか。如何いかがした?そしてその恰好は何だ?」


 天幕に現れたネコマは、まるでクソを扱う清掃人のような服装だ。

 木綿の布をいくつも巻いた覆面に、全身を隅々まで覆う、カッパのような服。


「とにかく、この覆面をしてくだされ!見ていただきたい場所がございます!」


 我がネコマに案内されたのは、とある橋の下。

 ムンゴルで弾かれた、かといって肉にもならぬ浮浪者共が集まる、掃き溜めだ。


 我はその光景を見て、言葉を失った。

 このような惨状を的確に表す言葉は、共通語はもちろん、ムンゴルにも、オーマにもないだろう。


「「ヒギィィィ!!……ン”ギモヂイイイィィ!!!」」


 いい年したオッサン共が体をくねらせて恍惚としている姿。まさに生き地獄だ。

 汚い中年太りの腹をプルプルと震わせ、頬を赤らめ、痙攣して……なにこれ?


 ネコマは外様ゆえ、我にこれを見せることにしたのであろう。

 このような醜態、ハーンに近ければ近いものほど、見せようとは思わぬからだ。


「なんだこれは?何が起きておる……?」


「これは、イギニスより輸入された、『アヘアヘン』にござります!!」

「全身の快楽に関係する感覚を3000倍にするという、禁制品にございます」

「ケシク共は取り分を取る見返りに、これを黙認しておりました」


「ダンチヒから陸揚げされたアヘアヘンはペーランドを経由して、ムンゴル本国まで広がっているとみてよろしいかと。」


「なんだと!?天地万物を知るはずのチンガス・ハンぞ!」

「かような惨状が届いておらぬとは!」


はたと気付いた。兵の集まりは悪いのは、これが原因か!

関係したケシクどもは、この責任を取るのを恐れて、逃げ出したな!?

……おのれ!馬鹿にしおって!


――ハンは怒りのあまり、ドンッっと手直にあった木箱を叩く。

それは偶然にも、アヘアヘンを満載した木箱であった。

 アヘアヘンが粉となって、空中を漂い、覆面の粗い目を通って、ハンの鼻、口をとおり、その成分が粘膜から吸収され、血液を通って、最終的に脳にまで至る。


「ンホォォ!!!イグイグッ!!イッグウウウウウゥ!!!!」

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