結果オーライ、だよな?

 俺はポトポトの豆腐ハウスで、オーマの使者から報告を受けた。

 ムンゴル軍が動き出し、オーマの各地に侵入し始めたとのことだ。


 オーマの攻城戦から一旦引き下がったムンゴル帝国は、どうやら再編をすませたようで、ペーランドから打って出て、周辺国に手を出し始めた。


 基本的にムンゴルがメインにしてる騎馬弓兵ってのは、野戦はスゲーつよい。

 だが、城なんかを攻めるのには全くメリットの無い兵科だ。

 弓は弱いし、白兵突撃できるだけの鎧も無い。


 なので、街とか村を焼き払って、王の権威にダメージを与える。

 するとどうだろう?


 王様は下から突き上げられて、軍隊を無防備な壁の外に出さざるを得ない。

 で、ムンゴルのフルパワーの騎馬弓兵でボッコボコにされる。


 これがまあ、ムンゴルみたいな遊牧民が、農耕民に仕掛ける戦争の仕方だ。


 で、今の状況としては、ボコられたムンゴルの偵察隊が、村なんかを焼き払ってるっていう感じだな。


 で、デイツ王よぉ!何とかせいや―って怒られてる感じ。

 ムンゴルは、城攻めに使える鉄砲が俺に吹っ飛ばされたから、野戦での決戦に、方針を切り替えたなこれは。


 チンガス・ハンはなかなかに戦上手だ。


「……ふむ、これは主力を引き出し、野戦での決戦を狙っているな」


「そうね、私たちエルフは、オーマがどうなろうと、さほど興味はないんですけど、機人様はそうじゃないのでしょう?」


 デドリーは、疑念を感じさせる言葉でもって、意見を挟む。


 まあ、あんだけ派手に人間を焼いて回ってたのに、いきなり融和路線にもなれば、なんやこいつ!?となるのは解る。


「うむ。ムンゴルが勝利すれば、その帝国がより大きな脅威となって、ポトポトの近くに居座り続ける」

「であるなら、オーマをムンゴルより助け、彼ら同士の戦いが釣り合う状況にする」


「機人様はまるで100年先を見据えたような動きをしますね」


 まあ、文明シミュレーションゲームとか好きだったからね。

 あっちだと1000年単位で戦略練るけど。


 ぶっちゃけ空白地を作ると、誰かがそこを取って、大勢力になる。

 だがエルフには、オーマみたいな大きな土地を維持するだけの人口が無い。

 となると、傀儡をつくるか、利害関係でもって、無理やりにでも仲良くするしか、いまんとこマジで、取れる手段がないのよ。


「へぇぇぇ!機人様がヒトブタを生き残らせたのは、そんなお考えがあっての事ですか。あっしはついてっきり、灰にすればすべて解決するとおもってやした」


 相変わらずミリアは何語だ。


 エルフはいつも接してるから、まだいい。

 それ以上に機人に疑いを抱いているのが、オーマやムンゴルの人間だろう。

 なんでオーマはセーフで、ムンゴルはあかんねん!

 そういうスタンスも明らかにしていかないと、問題が起きるな―。


 人間の心に対しても、手を付けないといかんなー。


「ムンゴルはこのまま、オーマとの野戦での決戦を目指すでしょう。機人様のお考えは、いかがかしら?」


「……オーマがムンゴルに対抗する手段は我が与えた。なればここは、我らはムンゴルの本陣目指して攻撃を仕掛ける」


「ハハッ!」


 ★★★


 俺らポトポト本体はペーランドに向かい、1代目無人機を飛ばして偵察している。

 ペーランドの方はのどかなもんで、多分チンガスがいるであろう、クソデカテントの他は、とくに軍隊の動きはない。


 なので、俺はもう一方のほうに注意を寄せる。

 爆弾を装備させた2代目無人機君、彼がオーマに行った方のムンゴル側の動きをじーっとみつめているのだ。


 マルチタスクって苦手なんだけど、今はそんなことも言ってられない。


 今俺が飛ばしている2代目は、オーマの軍がムンゴルにボロ負けした時に備えて、ポトポトの地ならしをしてくれた、超爆弾のスキピオを乗せている。


 これを使わないで済むと良いのだが、さて、どうなるかな?


 どろどろと土煙を上げてオーマの領内を進むムンゴル騎兵隊。その進行方向には、しっかりとムンゴルの誘いに乗った、オーマの軍隊がある。


 ムンゴル騎兵は円を描くように機動すると、ばばばっと大量の矢を射かける。

 黒い雨のような矢の夕立。それをオーマの歩兵隊が、掲げた分厚い木の盾で防ぐ。

 おお、やるじゃん。

 盾と盾の間から入り込んだ矢で、少々被害が出ているが、なんとか耐えている。


 側面に回り込もうとするが、円陣を組んだオーマの盾は隙を見せない。

 盾と盾の間から、火縄銃を放った煙と火が上がり、ムンゴルの弓騎兵の一部が崩れる。倒れた馬に後続の数騎が巻き込まれて、泥と土煙を上げる。


 正直いうと、俺はこの陣形や盾の扱いまでは教えてない。たぶん、オーマに元からあった対騎兵用の陣形。その技術だ。


 射程と精度の低い連弩では打ち尽くしても馬はうち倒せないだろうが、銃なら違う。ムンゴルの弓騎兵隊は、丸いドームのようになった銃兵の陣形を打ち崩せないまま、じわじわと数を減らしていく。


 大勢が不利とみてとったのか、ジャーンジャーンと銅鑼ドラ鳴らされ、弓騎兵は引き波のように下がっていった。


 オーマの歩兵隊は……動かない!おお!えらいぞ!


 この時点で、ムンゴルのプランはほぼ破綻しているな。


 弓騎兵隊の目的は、敵兵に射かけて挑発して、相手に自分達を追わせることだ。

そして陣形を崩したうえで、待ち構えている騎兵と歩兵のコンビネーションで、ボコボコにする。


 それが解ってるのか、オーマの銃兵は動かない。


 引いた弓騎兵の代わりに、ムンゴルの歩兵隊が前進してくる。服装や装備からして、ペーランドや他の国の捕虜だ。奴隷兵か、まあまあにひどいことをするな。

 っていうか弓も持たされてないじゃん。マジで肉盾かよ……。ひくわー。


 ザッザと列を組み直したオーマの銃兵。

 白い煙の列が上がると、バタバタと奴隷兵が薙ぎ倒されていく。


 強行して逃げる奴隷兵。

 しかし自陣に戻ってもムンゴルの弓騎兵に射殺されている。うわぁ。ドンびき。


 こんなの見せられたら、ますますオーマの兵隊の戦意が上がるだろうに。


 しかし、お互いに消極的な戦いで、ムンゴルの弓騎兵、それと本体の騎兵は無傷だ。負けないにしても、戦力がそのまま残るのは良くないな。


 よし、2代目に爆弾を投下させよう。

 何百、何千もの目撃者がいるこの場で力を示すのは、悪い考えではないはずだ。


 俺はぱぱっとUIを操作して、背中から奴隷兵を射たり、槍で付くのに夢中になっているムンゴル兵のど真ん中に投下した。


 次の瞬間、ぽんっと強烈な明るさで光る、オレンジ色のお饅頭が出現し、次の瞬間、真っ白な衝撃波で周りの草木や、ついでにオーマ兵を叩きのめした。


 ごめん、ここまでするつもりはなかった。


 盾を風に吹き飛ばされて、半ケツをみせながら地面に突っ伏しているオーマの兵隊たちを2代目のカメラで眺めながら、おれは心の中で平謝りした。


 ま、まあ!ムンゴル兵はやっつけたから、結果オーライ。だよな?

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