第三章 イギニス編

イギニス連合王国大使、チャールス

 ムンゴルが支配しているはずのペーランドで、俺たちを出迎えたのは、ムンゴル軍でもなく、その主のチンガス・ハンでもなかった。


 ワリシャワの中央広場にて、俺たちと対峙する人物。


 シルクハットに、マジシャンみたいなスーツを着た男。

 イギニスの大使と名乗る、どこか胡散臭いそいつが出迎えたのだ。


「お初にお目にかかります。イギニス連合王国、全権大使のチャールスと申します。以後お見知りおきを」


「……名乗る名はない。機人と呼べ。どうせ我の他にはおらん。」


「ンッンー!素晴らしぃデスね!機人さま!」

「その尊大な態度!そしてそれにふさわしい能力をおもちだ!」


「オーマに出かけたムンゴル騎兵は、機人様の導入された新兵器によって、さんざんに打ち破られた上に、そのお力で吹き飛ばされたとか?」


 なんちゅう耳の速さだ!ムンゴルみたいな伝令技術は持っているっていう事か?

 うーん、かなり油断ならないぞこれは。


「……お前の目的はなんだ。イギニス連合王国、全権大使のチャールス」


「ンー!私の目的、と言いますか命じられましたことは、ただ一つです」

「機人様の治める地、ポトポトにイギニス大使館を開くことです!」


――ん?ずいぶん文明的な連中だな?

 これはオーマとかムンゴルと違って、大分発展してる連中なんじゃないか?

 初めてオッサンと価値観が近い、文明人に出会えたのかもしれない。


 おお、ならちょっと仲良くしておいた方が良い気がする。

 もうちょっとくわしく話を聞こう。


「イギニス連合王国、ここより南にある国だったか?詳しく聞こう。」


「ンー!では少々お時間をいただいて。私達イギニスは、同じような価値観を持つ国々、友好関係を持てるに足る友邦を探し求めておりました」


「ですが、オーマもムンゴルも、少々野蛮にすぎます。我々は人を食料や工芸品の材料として見る彼らとは、ちょっと一線をひいたお付き合いをしてきました」

「――これまでは。」


「……つまり、神聖オーマ帝国に起きた変化、それによって、外交関係を取るに足る変化が始まったとみた。そしてその中心にいるのが、我だという事だな?」


「ンッンー!!!素晴らしい!まさにその通りです!文明化された国同士がつながりを持つ。これこそがイギニスの求めているものにございます!」


 やったああああああああ!!!!!

 ようやく文明人にであえた!!!!ウッヒョーーー!


 やったぜ、ローキックの腕ばかり磨いてるエルフ、倫理観以外のクオリティのおかしいオーマ、やたらに狂暴なムンゴルの次に、やっとまともな国に出会えた!


 ちょっとうれしくて、オッサン涙が出そう。あ、そうだムンゴルのこと忘れてた。


「……ムンゴル帝国はどうなっている?何故、騎兵も奴隷兵も、その姿を見せぬ」


「ンー!それがですな、どうやらハーンが急病で倒れたとのことで、侵略を中断し、ムンゴリアの本拠地まで、療養のために帰るそうです!ハハッ!」


「……実に唐突だな。」

「……何をした?ただの一兵も動かさずに軍を引かせるとは、ただ事ではない。」


「我々はこの地で、ちょっとした商売をしたまでです。」


 とんっとチャールスが足蹴にした箱。その箱の中身は、俺のUIではこう表示されていた。『高純度ヘロイン』わーぉ、すっごい駄目な奴。


「ンー!これは医療用の麻酔として使うものなのですが、どうやらムンゴル人は個人的なンッ!な楽しみのために珍重してしまったようで……」


「そのため、薬物の汚染がとてもひどくなってしまい、今やこのアヘアヘンを求めるために、人々は働くような有様となってしまいました」


 あー、確かに司法が未熟だとそうなるかもね。

 元の時代でも、随分薬物の取り扱いには苦労してたみたいだし。

 中世レベルの社会じゃ、ほぼ対抗できる枠組みが無いっすよね。


 ……ん?なんか引っかかる。


「特にオーマの変化は素晴らしい!労働者!ちょっとしたお金で単純な部品をつくる、職人とは異なる、低級労働階級。オーマは農奴を使う事を止め、「雇う」ということのすばらしさにようやく気付きました!」


「わずかなお金を渡し、社会全体で吸い上げる、新しい世界!」


 両手をワキワキとさせて、チャールスはさらに続ける。


「イギニスはオーマの信じる神や、ムンゴルの広大な領土には興味はございません」

「我々が興味を持つのは……そう!お金!言葉なんかよりもずっと雄弁に語り、行動する!お金さえあれば何でもできる!」


「……機人様はそれをよくわかっている世界に生きてらっしゃった」

「それに違いありませんな?」


――これまでに会った中で、一番やべー奴らと出会ってしまったかもしれない。

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