機人、セールスマンになる

 うぉん!出来立てほやほやの鉄砲を、ミリアと一緒にトラックに載せて走る俺。

 まさかこの体になって、セールスマンをやることになるとは思わなかった。


 売る相手はもちろん、神聖オーマ帝国と、その愉快な仲間たちだ。


 ミリアに顎をタプタプされた貴族連中は、隙あらばデイツ王の後釜を狙っている。

 そしてデイツ王は、そいつらをけん制する手段を求めている。

 つまり、買い手はいくらでもいる。


 俺の目的は3つ。


 鉄砲の部品、それの生産ラインの確立。


 鉄砲の有効性を示して、オーマの軍を再建させ、ムンゴルから自衛させる。


 鉄砲を普及させて、民衆に革命で王や貴族を打倒させて、マシな政府を建てる


 ――やりたいことを時系列にならべると、こんなかんじだな。


 土煙を上げながら爆走すると、オーマの首都が見えてきた。

 きっと、油断ならない連中が並んで、手ぐすね引いて待っているだろう。


 オーマとムンゴルは絶賛戦争中だ。

 にもかかわらず、両国は互いに大打撃を受けたため、おかげさまで、鉄砲をつくるなんて、こんな悠長なことができる。

 まあ、大打撃は主に俺のせいだが。


 さて、せっかく動ける時間があるなら、少しでもできることをしようと思う。

 このアホみたいに倫理観が滅び去ってしまった世界。

 まずはこれを何とかしないといけないのだ。


 エルフが武力で独立を勝ち取ったとしても、今後も、お互いに関係を持たないままだと、いずれまたドンパチが始まる。どっちが勝つにせよ、それは不幸なことだ。


 ならせめて不幸を前借りしてでも、後にもっとひどいことが起きないようにしたい。


 鉄砲という産業をもってポトポトとオーマが関係を持てば、相手に殴りかかる前に何秒かのためらいが生まれる。その間に外交交渉なりをしてもらえばいい。


 さて、俺たちは青空会議室へとたどり着いた。これはちょっと不幸な行き違いで、普段オーマでの会議に使われていた場所が、キノコ雲で消し飛んだからだ。


 どでかいテーブルにイスを並べ、居並ぶ貴族とデイツ王。

 それを前に、俺はおごそかに口を開く。


「……本題に入る前に確認だ。今のムンゴルの状況を述べよ」


「うむ、機人殿により、ムンゴルはさんざに打ち破られた。今のきゃつ等は、戦線をペーランドにまで下げ、つぎの攻撃の準備をしているものと思われる」


「我がムンゴルから防衛するにしても、我が到着するまで、お主らが防ぎきれねば、意味はない。しかし、今のオーマの兵不足は明らか。それでこれをこしらえて持ってきた。」


 俺はドワーフとエルフの合作の火縄銃をドカッと置く。

 

「ムンゴルの鉄砲、それを歩兵が持てるようにしたものだ」


「機人殿、我らには既に連弩がある。とてもそれを超える品には見えませぬな」

「あまりにも粗野な見た目。これではいかがなものか」


 ホホホホと小馬鹿にするように笑っている貴族、うん、大体想像通り。

 なのでデモンストレーションと行きましょう。


「それは試してから、という話であったはずだ」


「うむ、こちらで鎧を着せた2つの的と、熟練の連弩兵を用意しておる。」


「そうだな、では、こちらは……」


 俺は青空会議場で立っている、侍女の一人を指さす。


「……こちらは、そこの彼女でよい。ミリア、使い方を教えてやれ」

「ケケケ!がってん承知!」


「はて、いったい機人は何を考えているのじゃ?兵でもないおなごを?」

「大方、失敗した言い訳のために、侍女を使おうという腹でおじゃる」


 これがちがうんだなー?


 連弩を構えた兵と並べられる、火縄銃を携えた侍女さん。

 二人の前に立つのは、鎧を着せられた、二つのカカシ。鎧にはご丁寧に的まで描かれている。


 「ではまず、連弩兵から射撃を始めよ!」「ハハッ!」


 オーマの連弩は、大きなレバーを縦に動かして、弓矢を放つものだ。マガジン代わりの矢の詰まった箱が、大きく上に伸びていて、それが狙いをつけるのに邪魔をして、あまり精度がよろしくない。


 10発程度の矢を放ったが、命中は3本。鎧を貫通したものはそのうち2本。

 この時代では、弓矢は集団に対して放つものだから、これでも十分なのだろう。


「……では、こちらは鎧の前に、盾を置いていただけるか?」


「はぁ?」「いいから、機人の言うとおりにするんだ!」「ハッ!」


 鎧の前に、盾が縛り付けられたカカシ、それを前に侍女は火縄銃を構える。

 じりじりと狙いをさだめ、引き金を引いた――。


 火縄銃を始めて撃つ侍女。しかし彼女は割と肝が据わっていたようだ。

 初めて聞くであろう、どん、という雷のような銃声にも怖気なかった。


 飛んでいった金属の玉は、木製の盾をいとも簡単に貫き、鎧をうがち、ひしゃげさせた。勢いあまって、皮のベルトを引きちぎったのか、背面側の板金を地面に落としさえした。


 恐らく、武器など生まれてこの方、持ったこともないであろう侍女。

 それが熟練兵以上の破壊を、彼らの目の前で見せた。


 デイツ王は確実にこれの意味を理解したのだろう。

 ワサビチューブが3本目に突入した。

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