鍛冶神カミモデラ

 ロイに鉄砲の図案を見せられてから5日。

 ドワーフ達による銃の開発が終わって、俺の前には5丁の鉄砲が並べられている。


 ローニィ一家が皆して、まるでラーメン屋の店主みたいなポーズをとっている。

 ちょっとおもしろいな。


 ふーむ、なんかどれも微妙に形が違うな?

 銃身の長さはだいたい同じだが、並べてみると、太さ、穴の大きさ、金具の大きさやストックの幅が微妙に異なっている。


 うーん、パターン違いって事?ちょっと聞いてみるか。


「……どれも形が違う様だが、それぞれに何が違うのだ?」


 ざわ・・・ざわ・・・


 ……ん?俺なんか変なこと言ったか?


 俺の前に進み出たのは、髭の三つ編みが4本の、4本さんだ。


「機人さま、お言葉ですが、これ以上の精度を出せる職人は、人はおろか、ドワーフでもそうおりませぬぞ!」


「ッス!これ以上同じったら、そりゃあもう、鍛冶神カミモデラくらいッス!」


 あっそうか。クラフトで麻痺してるけど、普通に考えたら、木彫りの熊さんを全部同じ形に作るって考えたら、めちゃくちゃ難易度高いよな。


 でも、実際もうこの世にはあるんだ、それを説明してやらんとな。


 俺は鉄の指をちょいちょいとやって、20人のエルフの未亡人たちを呼んで、全員にそれぞれが使っている銃をドワーフの前に並べてもらった。


 どれもが同じ形、同じ寸法。マガジンは別の銃にさしても問題なく、弾丸はどのマガジンにも入る。という事をやってみた。


 最初はおぉ?とか言いていたドワーフ達。

 だが、エルフ達がマガジンを外し、別の銃のマガジンに挿し換えたり、弾を1列に並べて、カチカチと詰め直してやると、その場で平伏して動かなくなってしまった。


「……で、ドワーフには、これくらいの精度を出してほしいのだが?」


「「機人様は鍛冶神カミモデラさまでごじゃったぁ!!!」」

「「へへへえぇぇぇ!!!」」


「フッ、ドワーフ共も、ようやく機人様のすごさに気付きやがりましたね?」


 あ、ミリアさんが復活した。ドヤりの気配を察したから、出て来たのではないかというくらいにタイミングがいいな。


「機人様が操る創世魔法のレベル、とまではいかなくとも、せいぜい鉄クズを同じ形にこね回すくらいはできてもらわないと、ポトポトの門をくぐる資格はない、そうですね?機人様」


 いや、どんだけ俺がイヤな奴だよそれ!!!!そこまでは言ってないわ!!!!


 あとなんだよ創世魔法って!!!新しい設定生やすんじゃないわよ!!


 とはいえ、ここは神様っぽく振る舞うチャンスだ。えーっと、今度はスカルリムのデイトナ神みたいに振る舞って見るか。ちょっとエコーとか掛けたい気分。


「……定命の者には、この域に達したものはおるまい」


「しかし、我が真意は異なる。ただ複製をつくるのが目的ではない。このように形が違えば、戦場でどうやってこれを修理する?」


 はっ!っとした4本さん。ようやっと気づいてくれたか。


「これを作れ、と他の職人に指図するにしても、元からして、このように形がバラバラでは、作れば作るだけ、もっと離れていくであろう。」


「た、確かに……組み上げて調整というのをしますし」脂汗を浮かべる4本さん。


「それに、10人がかりではないにしても、1日1丁の鉄砲の製作では、普及させるというには程遠い……」


「ケケケ!ドワーフ程度の技術では、棒一本、バネ一本、それぞれを真似するのがやっとって事ですねぇ」


「一個一個のバネを作って、見習いみたいに、それを真似していくところから始めたらいいんじゃないですかねぇ?」


「……」


「な、なんですか?やるってんですかぁ!?」


「「それだ!!!!」」


 パァッと明るくなるドワーフ達。そうか、言われて気が付いたわ。

 「丸ごと作ろうとする」から変になるのだ。

 パーツごとに作って、それぞれの精度を上げていけばいいのだ。


 そこからは早かった。一番出来のいいやつを1丁選び、それをバラす。

 ちなみに4本さんのだった。さすがだね。


 そしてパーツを並べ、それぞれのパーツを担当者に渡して、さらにパーツの精度を上げていってもらう。そこから複製作業だ。


 一番難しい銃身の製作は4本さんや3本さん達が行う。金属を削る必要のあるパーツは、中堅職人たち。そして土台や弾き金はロイたちが行った。


 見本を見ながらトンテンカンしていって、最後の組み立ては、エルフ達にやらせてみた。できた鉄砲は、明らかに最初の5本よりも、精度が揃っていた。


 再度バラして他の銃とパーツを交換して組み立てる。寸分たがわず完成。

 うん、もうなにも言うことないね。


 ミリアさん、たまにはいいこと言うじゃん!

 1000万機人ポイント上げちゃう!!


 1日1丁の生産速度、実質5日に一本だった鉄砲は、日ごとの生産量が、最大で20丁に達した。嬉しいことに、まだまだ伸びしろがある。部品待ちという状況なのだ。


 この分担した作成方法なら、オーマに簡単な部品を発注して、ドワーフ達がフルで銃身を作るという形にすれば、さらに制作速度を上げられるだろう。


 うまくやれば、ムンゴルの再侵攻までに、1000丁の鉄砲を用意することだって夢じゃないんじゃないか?


 しかし、今のところ発注できそうなのがオーマだけなんだよな……。

 ワサビのチューブ1本喰ったデイツ王の顔が2本目追加になりそうだな。


 ムンゴル帝国と機人の板挟み。俺だったら、間違いなく夜逃げする状況だ。

 にもかかわらず、統治を続けるデイツ王。わりかし、気合が入っている。


 なので俺は、奴ならこの、銃による再軍備の話を聞きそうな気がする。

 オーマは、確実にこちらの寝首をかこうとしているだろう。

 だからこそ、奴の軍事力を復活できる、この話を聞くはずだ。


 それに、奴は民が武力を持つという意味、それを知らない。

 この劇物が、過去の歴史で何を引き起こしたフランス革命か。……我ながらひでえな?

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