クリルタイ
オーマの平原に建てられた、巨大な黄色い天幕。
その中ではムンゴル帝国の皇帝と、部族の長達が今回の敗戦をうけて、大会議を開いていた。
ムンゴル帝国皇帝、チンガス・ハンは砲兵陣地が破壊されたとの報告を受け、直ち反撃の為の騎馬部隊を送り出した。
しかし帰ってきたのは僅かに1000騎。
機人、それに関する情報は、すでにオーマ各地のスパイから得られていた。
冒険者、行商人、運送をする馬借、そういったものに我らムンゴルの目はある。
その話に出てくる機人は、両手から鎧を貫く大量のつぶてを出し、のしのしと歩くというものだった。なるほど、確かに恐ろしい存在だ。
だがこのバケモノは未だに1体しか確認されていないという。
話によると、小規模の歩兵部隊に対しては圧倒的な立ち回りで圧倒したものの、その後に発生したX字軍、これに対しては、河や闇夜を利用するなどしていた。
つまり、機人はあくまでも、自分が有利な状況でしか仕掛けていない。
自身の数的不利を、それとなく悟っている。
歩兵の相手が得意な兵科は、騎兵が不得意なものだ。
それに加えて、2万という圧倒的な数で攻め寄せれば、勝てるとまではいかないものの、機人を追い払えはすると考えた。
だがこれは何だ?何が起きた?
我らの部族の子は、機人の武器によって穴だらけにされ、バラバラにされ、馬乳酒のようにどろりと液状化した。
一本の矢を射かける前に、騎兵隊の要である18人の千人長が戦死。
百人長、十人長をどれだけ失ったのかにいたっては、数も定かでは無い有様だ。
再編のために階級を繰り上げる必要があり、この混乱が為に、ムンゴルの軍は今動けない状態にある。じっとしていると、余計な考えが頭をめぐるものだ。
意思決定を行う部族会議、クリルタイも有用な対策を打ち出せずにいる。
「ここは機人との対決は避け、周辺の小国に攻撃をしかけるべきかと」
「しかし、
「やつが貴族共に保護を与えたというなら、周辺諸国を攻めているうちに、機人によって、背後を突かれかねんということじゃ!」
ウルスのクリルタイもヌチブチでまるでヌルスチョヌッフだ。
ケシクをペペンチノしてズバンクスしなくてはならん。つまりビョチンする。
いかん、つい故郷の言葉で考えすぎる。共通語で考えんとな。
わしは発言のためにドン、と弓で床を叩き、部族のオサ達を静める。
「こたびの損害は、我らが機人の評価を誤ったことにある。これに異論は?」
「ございませぬ、しかし攻撃の決断は、ハーンのお沙汰によるものでは?」
「左様、さればハーンとしての責任を、どう考えになっているのか?」
負け始めるとムンゴルと言うのはいつもこうだ。足の引っ張り合いを始める。
敵を利するだけというのが解らんのか?
「責任?では言わせてもらう。お主の様に、我に羊の様についていく事で、何の責任が生まれるか?狼とは群れの狩りの沙汰をするもの。手ひどい反撃も受けよう。」
「それは開き直りにござる!」
「だまらっしゃい!!口を開けば責任責任と、それは父も無く、母も無く、ましてや自分自身も無い物言いじゃ!人として生まれ、自身の頭で歩いておらん!」
口を開いたのはわしではない。オーマとの国境で捕虜とし、そのまま登用した、元神聖オーマ帝国の宰相、ネコマだ。
口には出すまいが、ほぉ、と感心を覚えた。
「このわからず屋めらが!この我らの
「むむむ……」
「閣下、次のお言葉をどうぞ」
「うむ。」
「つまりじゃ、我らの強みを生かす。鉄砲も、火薬も無い時でも、我らは東国で幾多の城を落としてきた。我らはいかようにして、国々を攻め落としてきた?」
「それをもう一度する。わかるか?」
ぱちぱちと音を立てて燃え盛る、天幕内を照らすたいまつ。
その炎にふらふらと、一匹の蛾が迷い込み、ぼぅと燃え上がった。
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