第二次X字軍

★神聖オーマ帝国のどこか★


 石造りの暗く、じめっとして、まるで納骨堂の様な陰気な雰囲気の広い部屋。

 そこに置かれた豪華な細工が施された長机に、並んで座る老若男女たち。彼らは神聖オーマ帝国の地方貴族だ。


 長机の上座側、そこに座っていた、長ヒゲを生やし、ヒョウ皮のマントを羽織った威厳ある男が口を開いた。


「諸君、集まってくれたのは他でもない、機人の再臨についての話だ」


 先ほどまで、死んだように静まり返っていた部屋の中に熱気が入る。ざわめきだち、女の悲鳴がして、椅子がたおれるわ、机につっぷすもの、すわったまま泡を吹くものまで出る始末だ。


「皆の気持ちはわかる、だがこれは真実なのだ。現にビアード卿と彼が治めていた砦は打ち砕かれた。そして、東ポロイセンのケーニヒヌベルグが、建物一つ残さず灰になった、との報告だ。」


「デイツの王よ!それは本当か!?」

「なんてことだ!ああ神様!」

「ビアード卿はたった1万人のエルフの女子供を食料としていただけなのに!」

「機人には人の心というものがないのか!?」


――いや、そんな人の心なんていらねえし。

 彼らの狂騒をよそに、神聖オーマ帝国宰相、ネコマの頭は冷めきっていた。

 思うに、機人の方が常識的な判断をしている。


 神聖オーマ皇帝のデイツ王(自分で言ってて頭が痛くなってくるな)の焚きつけに乗っかるこいつら、もう少し客観的に物事を見れないのだろうか。


「そして、機人討伐に立ち上がろうとした勇者、1000人の冒険者たちが、機人の卑劣極まる悪辣で邪悪な呪術によって討たれた。機人はもはや伝承にあるモノとは別種の『魔王』となったとみていいだろう」


 なんか話が大きくなってるな。まあこれは大体理由は解るし、この後の話も見える。


「SSS級冒険者の切れたナイフのフー・リョウ、鉄鎖の信頼ウーラ・ギルマンも討たれた。そこで私はここに、X字軍の結成を提案する。皆の者、如何か?」


 つまりだ、カリスト教の教会から徴税の正当性を示す権威、わかりやすく言えば、俺のバックには神様がついてるから税金払うよね?払わないと地獄行きよ?っていう枠組み、その枠組みへの参加権を与えられている連中は、その枠組みの保護のために軍事力を提供しろや、という事だ。


「機人はケーニヒヌベルグに忌まわしき魔王城を作り、そこで何やらおぞましき術をつかっているという。ならば今こそ、普段のいさかいを忘れ、お互いにあぶみをならべ、槍を揃え戦うべきではないか!?」


 よくいうよ。魔王うんぬんはこじつけだ。

 デイツ王は、適当に宗教的意味を持たせるだけ持たせているだけだ。

 カリスト教を脅かす異端相手じゃないと、教義上、X字軍は結成出来ないからな。


「100年前、機人が現れた時は1万人のX字軍が聖戦に集まり、死体の山を築きながらも、これを打倒したという。ならば今こそ当時の再現を!」


「「おお!聖戦だ!!」」

「「あの正義の戦いが我々のものに!」」


 満足げに頷く神聖オーマ帝国皇帝のデイツ王。

 そこに厳かに口を開くものがいる。

 カリスト教総教主、教父「インムケンティウス3世」だ。


「ああ~いいっすね~」


 砕けた口調に聞こえるかもしれないが、これは「語録」と呼ばれる聖句だ。

 カリスト教の教父は、かつて世界に広まっていたという共通の神の言葉「語録」によって下々の者と会話するのが習わしなのだ。


「あっそうだ(唐突)100年前の機人討伐にあやかるのはどうか?つまりこ↑こ↓」


「はは! 教皇猊下げいかの御意のままに」


「いいゾ~コレ」


「教皇猊下のおっしゃる通り、100年前、我々が機人を討伐した土地、ワールツュタット屍の山の土地、そこが決戦の地となろう」


 言いずらっ!!?もうちょっと別のとこあんだろ!?


「「戦だ!機人に死を!」」

「「カリスト教万歳!」」


 ――さて、そろそろ荷物纏めてこの国出る準備するか。

 勝つにせよ負けるにせよ、被害甚大は間違いなし。それはつまり東方の「ムンゴル帝国」の侵略を誘引するのが目に見えている。

 こりゃーもう沈没間近の船みたいなもんだ。

 猫人の私にとっては、故郷でも何でもない神聖オーマ帝国だしな、居続ける義理も無い。

 さー夜逃げの準備よ!

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