第54話
第四セット、狼栄は追い詰められていた。ここで負けても全国二位だ。誇れる結果だろう……誰もが良くやったと褒めてくれるだろう事は分かっている。でも、私達は全国二位で良くやった……そんな言葉が欲しいわけじゃない。
負ければ敗者。敗者なのだ。負けたくない。
バレーボールをやっている学生なら春高の頂点に、全国一位になりたいと誰もが願うことだろう。ここで負けてたまるか、せっかくここまで来たのだから。狼栄の選手達が両手に力を入れ握り絞めた。
第四セットは鳳凰と一点差でなんとか試合が進んでいく。大地がスパイクを決めれば豪もスパイクを決めてくる。第三セットと変わらない展開。
レシーブ、トス、スパイク両者が一度ずつボールに触れるだけで、得点が重ねられていく状態。そのせいで、あっという間に第四セットが終わりを迎えようとしていた。
一点リードしているのは狼栄だ。このままなら第四セットは取れる。
そして第四セットを取ったのは狼栄だった。何とか先行していた狼栄が第四セットを制したが、次はどうなるか分からない。
その状況に莉愛は焦っていた。
その頃、中継の河野は呆気に取られながら、必死に状況を説明していた。
「なんて早い展開なのか。第四セットが始まって30分経たずに第四セットが終わってしまいました。残すは第五セットのみ。さあどうなるでしょうか姫川さん」
「これはちょっと早すぎる展開ですね。コーチ陣がこれからどんな指示を出すのか、見物ですね」
「なるほど。ではベンチの様子をのぞいてみましょう」
鳳凰のメンチでは汗だくの選手達が、水分補給をしながらコーチの話に耳を傾けていた。
「このままで良い。このスピードの早い展開のまま攻撃し続けろ。竹田まだいけるな?」
「うっす!まだまだいけるっすよ」
豪のその言葉に、いつもは眉間に皺を寄せているコーチが嬉しそうに頷き、選手達に声を掛けた。
「いいな、相手に呑まれるな。この勢いのまま行ってこい」
「「「うっす!!」」」
狼栄のベンチでは莉愛が平静を保ちつつも焦っていた。
早い…早すぎる。
皆を落ち着かせるにはどうしたらいい。
莉愛の隣では金井コーチも顎に手を当て困惑の色を見せつつ、戦略でも考えているのか眉間に皺を寄せていた。
選手達がベンチに帰って来る。
「お前達どうしたんだ。ボールを良く見ろ。第四セットを取れたから良いものの、向こうに取られても仕方の無い試合内容だったぞ。焦るな少し頭を冷やせ」
選手達はスクイズボトルを手に、水分を胃に流し込んだ。そんな選手達を見つめ莉愛も皆に声を掛けた。
「焦りは禁物です。落ち着いて下さい。これが最終セット……これで勝者が決まる。勝利は目の前です」
「「「シャーー!!」」」
こんな言葉で皆に伝わっただろうか?皆をコートに送り出しながら、莉愛は自分の不甲斐なさに唇を噛みしめた。
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