第52話


 そして始まった決勝戦第一セット。


 狼栄と鳳凰、大地と豪によるオポジットスーパーエース対決が始まる。


 その30分前、体育館の中継席より、最終戦の中継が始まった。


「皆さんお待たせいたしました。全国バレーボール高等学校選手権大会決勝戦が始まろうとしています。実況は私、河野隆史(こうのたかし)と解説者として来て頂いたのは、日本が誇るバレーボール日本代表の姫川翔さんです」


「皆さんこんにちは、姫川翔です。よろしくお願いします」


「今年度も熱い戦いが繰り広げられそうですね?姫川さん」


「そうですね。今年は見応えがあると思いますよ。狼栄の大崎大地と、鳳凰の竹田豪二人のオポジットスーパーエースによるパワー対決ですね。どちらが真のスーパーエースなのかが決まりますね」


「なるほど、真のスーパーエースですか。そして、東京体育館を賑わせているのは、女王の存在ですね」


「莉愛は存在自体が目立ちますからね。しかも天然人たらしなので、大崎大地はたまってものではないでしょうね」


「女王姫川莉愛さんは姫川さんの妹さんでしたね。ものすごいカリスマ性と存在感ですね。何やら狼栄の大崎大地選手と、鳳凰の竹田豪選手が女王を取り合っているとか?」


「そうなんですよ。昨日いろいろあったらしいですよ」


「そこも気になる所なんですが、そろそろ試合が始める模様です。決勝戦は五セットマッチ、全国バレーボール高等学校選手権大会最後の試合が始まります。第一セット、サービス権を得たのは鳳凰のようです。11番遠野修也のサーブです。今大会遠野は最もサービスエースを入れた選手として注目を集めています。このサーブも決めたい」


 そして遠野の放ったボールはコートに沈んだ。


「サービスエース!」


 中継の河野が大きな声を上げた。


 もう一度遠野がボールを床に突くと、ジャンプサーブが狼栄コート、ラインギリギリのサーブが飛んできた。それを熊川がレシーブで上げるが、ボールは上には上がらず、後方に飛んで行ってしまった。それを安齋と大澤が追いかけ、安齋の手がボールにぎりぎりで触れた。なんとか戻ってきたボールだがそのまま鳳凰コートに戻ってしまう。鳳凰学園のチャンスボールとなってしまったボールを鳳凰のセッターが上に上げると、そのボールに合わせ豪がスパイクを叩き付けてくる。


「ドンッ」


 豪の大きな体躯から繰り出されたスパイクが決まる。そこから続けざまに得点され、5-0となった。豪がどや顔で雄叫び上げる。


「シャーー!!」


 スパイクが決まるたびに豪の大きな雄叫びが体育館に響き渡る。すると体育館の歓声も誇張こちょうするように上がる。完全に体育館の人々を味方に付け煽るように声を上げる豪。豪は自分の容姿を気にしている様子だったが、彼には人を魅了する何かがある。皆が興奮したように豪の行動を目視し、瞳を輝かせている。


 それでも狼栄だって負けていない。


 一人一人の能力は、鳳凰と狼栄ともに五分と五分だ。後はチームが何処まで粘れるか、それから攻撃力、これは大地にかかっている。


 大地ここからだよ。


 しかし大地は東京体育館の様子や、豪の雄叫びに怒りを露わにしている。こんな大地は珍しい。


 ダメだよ大地……流されないで、これでは相手の思うつぼ。豪がそこまで考えているとは思えないが……そう思い鳳凰コートに視線をさまよわせると、1番セッターでキャプテンの高田の口角が上がった。全てはこの人の策か、体育館の人々を煽り、拍手を求めている。どうやら高田は良い性格をしているようだ。良い意味ではなく……。


 まだ試合は始まったばかりだ。そう思っていても、点差は開いていくばかり。鳳凰は観客を味方に付け、調子を上げていく。


 みんな頑張って。


「ピピーー!!」


 第一セットを取ったのは鳳凰だった。


 決勝戦は五セットマッチ、三セット先取した方が勝つ。


 まだ一セット取られただけ、今度は取り返す。


 狼栄の選手達が帰って来るが、みんな酷い顔をしている。金井コーチはまだここからだと思っているのか、焦っている様子は無い。


「大丈夫だ。まだ一セット取られただけだろう。次のセットはうちが取る。竹田のスパイクには気をつけろ。ボールを良く見て動け、いいな」


「「「うっす!!」」」


 金井コーチが話し終わると、酷い顔をしたみんなが莉愛に視線を向けてきた。


「みんな酷い顔をしているわね」


 莉愛はクイッと顎を上げ、いつもの様に笑った。


「ふっ……ねえ、みんな楽しんでいる?私は最高に楽しいよ。試合は始まったばかり、楽しんだ者勝ちだよ。この空気に飲まれないで、最高の試合を私に見せて。さあ、行きなさい。楽しいバレーボールの時間だよ!」


「「「うっす!!」」」


「さて、やってやりますか」


「楽しんでいくぞ」


 赤尾と大地が順に選手達に声を掛けた。


 そして大地が莉愛に拳を向けてきた。


 ああ、大地は大丈夫そうね。


 莉愛は大地の顔を確認してそう思った。

















































































































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