第20話
二セット目が始まった。
このセットも両者一歩も引かない攻防戦が続く。そんな戦いを間近で見守る応援団達の手に汗が滲んだ。
「おい、おい、すっげーな」
「何だよこの試合」
「犬崎なんて今まで聞いたことも無かったのに」
「これ、どっちが勝つんだ?」
体育館にボールの打ち付けられる音が響いた。
25-23で二セット目を取ったのは犬崎だった。
「一セット取り返したぞ!」
拓真が人差し指を天井に向かって突き上げた。
犬崎の流れのまま始まる第三セット。疲労がたまり始めるこのセットに全てを掛ける。
皆がコートに戻り第三セットが始まった。最後のセットに皆が全力で挑む。一本一本に全てを掛け集中する。決勝さながらの試合が続いた。
そして14-12犬崎リードで試合が展開していたが、点差が開かないことに莉愛は焦っていた。いつ伊勢崎中央に逆転されてもおかしくない状況下。
その時、隣のコートから大きな歓声が上がった。
何?
思わず試合をしていた犬崎選手も、伊勢崎中央の選手達も手を止め、隣のコートに視線を向けた。すると大地が右手を高く上げいるのが見えた。
狼栄勝ったんだ。
狼栄は決勝への切符を手に入れた。
私達も負けてはいられない。
グッと手を握りしめ大地を見つめていると、大地がこちらに気づき、二人の視線が交わる。すると大地が高く上げていた拳を、莉愛の方へと向けてきた。
『決勝で待ってる』
大地の声が聞こえた気がした。
「みんな、狼栄が待ってるよ。まだ行けるよね?ファイルセットうちがもらうよ!」
「「「「「おおーー!!」」」
そして25-25デュース、デュース、デュース……。
どちらも引かない点の取り合い。
トスを上げてはスパイクで打ち、レシーブで取り、またトスを上げる。繰り返される動作。しかし、何一つ同じ動作は存在しない。
ボールを上げろ……上げ続けろ。
足を止めるな。
ボールを見て、追い続けろ。
指先でいい、ボールに触れろ。
30点を超え、なおもデュースが続く。
そして長い戦いに終止符が打たれる。
「拓真行け、ぶちかませ!!」
「ドンッ」
拓真の放ったスパイクが相手のコートに叩き付けられた。大きくバウンドしたボールは体育館の隅に転がって行った。
「ピピーー!!」
「試合終了36-34で勝者犬崎高等学校」
「「「わーーーー!!」」」
体育館に歓声が上がる。
デュースに次ぐデュースの末、勝ったのは犬崎高等学校だった。30点を超える長い戦いが終わった。
そして莉愛は今、呆然と立ち尽くしていた。
うそ……勝った……。
信じていなかったわけではない。
それでも底辺にいた私達が、ここまで来れた事が信じられなかった。
残すは一戦。
みんなが莉愛の元に戻ってくる。
「やったよ。ううっ……やったよ」
「俺ら……っ……勝ったんだよな?」
瑞樹と充が泣いていた。
クスクス、二人とも頑張ったもんね。
「みんなお疲れ様。次はいよいよ決勝戦、ここまで来たら優勝しか無いよ」
みんなが円になり莉愛を囲った。
「次も勝って、女王連れて春高行くぞ!」
拓真の声を合図に、みんなが吠えた。
「「「おおーー!!」」」
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