第8話


 警察は一度、嫌疑を抱いたら、指紋や掌紋、着衣の繊維質、毛髪、現場の靴跡、他あらゆる物証を照合して、犯人を割り出すだろう――と、俺は信じていた。それが、犯人ではない俺にとっては好都合に思えた。

 さらに、コンビニエンス・ストア、商店、役所、公道、公園、マンション、豪邸など、街中のいたるところに監視カメラが配置され、走行中のクルマにもドライブ・レコーダーが搭載されているので、犯行現場付近の不審者が浮上すれば、事件は解決する――と、俺は思い直していた。

 亜美に励まされているうちに、正気を取り戻しつつあった。街中のいたるところにある防犯・監視カメラの存在は、プライバシーの侵害という側面を持ちながらも、過剰なまでの警戒が、犯罪捜査に寄与するものと、信じていた。もっというと、俺は、佐々の事件は時間が解決してくれる――と、確信していた。

 俺の心の奥には、他人から称賛される偉業を成し遂げたい――と念じる、絶えざる欲求が渦巻いていた。名画を完成させて、周囲の人間に感心してもらいたい――と思う願望が居座っていた。

 アトリエに入るたびに、美的感性が無意識層から意識の表層に浮かび、絵筆を走らせた。俺の芸術家の営為に――失敗――の観念は無用だった。脳裏には、万人に称賛されて受けいれられる恍惚の時間だけが存在していた。

 俺は週に一度だけ、美術大学の講師として教壇に立ってきた。学生たちは、自分とたいして年齢の違わない俺の前で、緊張した面持ちで挨拶し、講義内容の質問をしてきた。それが、俺の自尊感情を刺激し、満足感に浸れた。引きこもり生活が続いていても、俺は講義だけは継続し、後進の育成に力を入れていた。

 教員らしく見せるため、俺はトム・ブラウンのクラシカルなスーツを着込み、地味なネクタイを締めて教壇に立った。

 自分の希望では――描画のテクニック――を教えたかった。しかし、他の教授が担当しているので――美学概論――を受け持った。座学の講義は、学生たちに眠気を生じさせない工夫が成否を分けると考えられた。

 講義ではいつも最前列に、美人の女学生数人が陣取っていた。うちの一人が俺と目が合うと、必ずウインクしてきた。正直なところ、絵のモデルにしても良かった。が、俺は露骨な好意に戸惑い――余程、容貌に自信があるんだな――と想像しながらも、女学生の視線を感じると赤面していた。講義が終わって駐車場に向かうときに、美人学生に通せんぼされた日もあった。

「進路妨害だぞ」

「先生に相談したい事があるの」

「あいにく、約束があってね。クルマで向かうところだ」

「途中までで良いから、先生のクルマに乗せてくれる?」

「乗せてもいいけど、俺は教職員だから、君一人を優遇できない。友達を連れておいで……」と、何度もごまかした。

「今日は一人で帰る予定です。フェアレディ・Z好きだなあ。格好良いし、前から乗って見たかったのです」

「今度、君の彼氏と一緒に来たら、駅まで送ってあげるよ」

「わあ、嬉しい。今は、彼氏がいないです。先生はどうなのですか?」

「うん、どうなのかな。君の想像に任せるよ」

 何度か、同様のやりとりがあったが、毎回のごとく俺はクルマのドアをバタンと閉じると、アクセルを踏んでいた。俺にとっては、有名であるという事実は、幸福をもたらすだけではなく、様々な不安や不都合な展開を生じさせる毒の酒の香しさに似ていた。

       ※

 月曜日の朝は、目が覚めた後も長い時間、ベッドに横になっていた。ようやく、起き出すと軽めの朝食をすませた。

 俺はテレビのワイド・ショーで――疑惑の画家シリーズ――を毎回視聴して、チェックしていた。伏せ字が使われていたものの、身近にいる人間には誰なのかすぐに分かる内容だった。同じ番組では、実名で――若き天才画家・大友小六の秘密に迫る――と題して、報道されていた。だが、今回の報道シリーズには、正直なところ、良い気分がしなかった。

 テレビを見終わると「外へ出ようか?」と、綾香を促した。家に燻り続けると気が変になりそうにも思えた。俺はフェアレディ・Zのハンドルを握り、海沿いの道をドライブした。みなとみらい21の駐車場にクルマを停車して、カフェの席を取った。

 外の景色を見ながら、俺たちは、ティラミスとミルク・ティーを堪能していた。正面の席には綾香が座り、事件の全容を分析した。

「兄貴が探偵事務所に調査を依頼してくれたら、私がいつでも動けるのよ」綾香は探偵業をしながらも、平日に俺のサポートができないのをもどかしがった。

「お前を危険には、巻き込みたくない」

「もし、警察に逮捕されたらどうするの?」

「そのときになったら、考えるよ。お前は探偵としてのアドバイスをくれればいい」

 綾香は、心配そうな表情をしながらも話し出した。

「犯人は、兄貴をよく知る人物で、佐々さんの事件は前哨戦のような気がする。犯行は計画的なもので、何らかのメッセージが込められている……」

「つまり、第二、第三の犯行が行われるのか?」

「少なくとも、何か別の事件が起こりそうな気がする」

「何故、そう思う?」

「私の勘だけど、佐々さんの事件では、用意周到に犯行が行われている割には、金品は何も奪われていなかった。単なる怨恨ではなく、何か犯人が伝えたいメッセージがあったのが分かる」

「お前の推理だと、犯人の目的は、はたせていないのだな」俺は、頭脳明晰な綾香の推理にも疑問を感じていた。

「たとえば、佐々の事件と、伊達の事件とはそれぞれが別の犯人の可能性がある。要するに、犯人は一人とは限らない。何か、重要な見落としがある」

「私が、プロファイリングの技法で分析したら、二つの事件の犯人の居住地は近接している。行動分析では二つの事件共に、同一傾向がある。ただし、犯行の手口だけが一致しない。伊達さんの事件では、誰かが家の中に潜んでいない限り、犯人の可能性があるのは、兄貴か奥さんだけでしょ? 単純に考えれば、兄貴じゃないのは、伊達さんの奥さんがもっとも怪しい」

 警察が、犯罪プロファイリングの技法を使って犯人像を推定すると、連続殺人事件の両方に関係があり、居住地や犯行後の行動などの点で、犯人と特定される――と、綾香は指摘した。真犯人に裏をかかれて誘導された可能性があった。

「奥さんは、俺を呼びに家を出て振り返った時に、書斎に人影と誰かの声を聞いたと言っていた。とすると、中に誰かが隠れていて、伊達のグラスにヒ素を入れたのが分かる、伊達が経営する工務店の従業員は、容疑をかけられていなかっただろ?」

 あのとき、伊達の家のどこかに潜んでいて、グラスに毒を入れるとしたら、俺がトイレに行くために席を外したタイミングだろうか――と、首を傾げた。伊達はどこにいたんだろう? かなり巧妙なトリックが仕掛けられているのを俺は確信していた。

 マジック・ショーで見るイリュージョンのように、俺たちは何かに目を奪われて、別の何かを見落としていると考えつつも、それが何かは分からなかった。

 時間の持つ魔力は、真犯人を見つけ出し事件を解決する方向ではなく、俺を追いつめる方向に時計の針を進めているかに思えた。

 ランドマーク・タワーのホールに、エレベーターが下りてきたので乗り込んだ。「扉が閉まります」と女性の声がすると、扉がひとりでに閉まった。パネルの階数表示のボタンを押すと、六九階には驚くほどの速さで到着した。

 六九階の展望フロア――スカイ・ガーデン――には、カップルや親子連れ客などが大勢押しかけていた。展望フロアからは、三六〇度の視界が開けており、横浜港を眼下に臨み、遠くは東京タワー、房総半島、富士山まで眺望できた。一年前に、亜美と来た時に、湾岸の夜景を見て二人で感嘆したのを思い出した。

――人間関係に軋轢がなく、人と人とが相互理解できたなら、この世は天国だろう――と、俺は漠然とイメージしていた。

       ※

 夜の街をトボトボと力なく歩いていた。ネオン街を抜け、道路の側道を当てもなくふらついた。小雨が降っていたが、傘を差す気がしなかった。道路は鈍色の輝きを宿し、薄闇の底にぼうっと、街並みが妖艶な姿を見せていた。俺は胸の内で、娼婦の胸に抱かれたい心境と、そう思う背徳を責める気持ちの板挟みになっていた。

 うかつに歓楽街の風俗店で時間を過ごすと、マスコミの餌食になる可能性があった。客引きの女が「うちの店、可愛い子いるよ。サービスするから、寄って行かない?」と声をかけてきた。俺は、右手で女を追い払うと、駐車場まで歩いた。嫌悪感と同時に胃液の苦さを味わっていた。

 駐車場には、驚くほど多くのクルマが目についたが、フェアレディ・Zをどこに停めたのか忘れていた。俺は駐車場を歩き、カーマイン・レッドのボディー・カラーのクルマを探した。十五分、場内を歩き回り、やっと愛車を探し当てた。

 二年前、俺は女を人形のごとく扱いたくなると、風俗嬢をモデルに雇った経験があった。裸の女を目前にして、形の整った乳房や、張りの良い尻、程よくくびれた腰つきを眺めると、指で陰部を押し開いて、性の差異を目視で確かめた。俺は心の中で、一人の女を支配する快感に酔いしれて満足していた。

 俺は、絵筆で女の曲線と陰毛に覆われた割れ目までなぞり、けだるさや蠱惑的なムードを描出した。だが、モデルの内面が洞察できず、俺のマインドを投影できなかった。『魅惑の女』と名付けた絵は「猥褻なだけの駄作」「安易に性を売り物にするな」「ポリシーが感じられない」「大友小六の失敗作」と画壇から罵られた。綾香にまで「こんな絵のどこが良いの? 正気なの? 変態じゃないの?」と、非難されたのは相当にこたえた。

 自信満々だった俺が、失望の苦さを嫌というほど味わっていた。だが、今の状況は当時と比較にならないほど、絶望的だった。現在の俺は『魅惑の女』を描いた時とは、明らかに状況が違っていた。

 今の気分では、素性の分からない女の肉体が、野生の動物の本能的な営みと同様に、愚かだが否定できない魅力を秘めているとは思えなかった。よりによって、理性が俺自身に苦痛を与えていた。俺は、自分の心を一時の愉楽のために委ねられなかった。

 突き付けられた現実は、終わりのない拷問の苦しみだった。長く続けば続くほど、気力と体力を奪い、命を蝕んでいく。俺には――圧倒的な虚無の力の前に引きずり出されて、打ちのめされるのが――、何を意味するのか理解できなかった。

 現実が真実味を喪失すると、この世界が幻想に過ぎないものに思えた。俺には、幻想がボロ雑巾のような無価値なものではなく、愉楽や淫欲の内側にも、良質なものを見つけ出さねばならない――という、焦りを感じ始めていた。それこそが、俺が求めるべき希望であり、次へと結びつくあり方でもあった。

 俺は書斎にこもると、枝豆とあさりの酒蒸しを肴にして、焼酎を呷り続けた。俺はへとへとに疲れていた。疲労を感じながらも、酒の持つ力が孤独を癒してくれそうな気がしていた。酒なら、ワイン、ウィスキー、ブランデー、ウォッカ、ジン、日本酒など、多様な種類のものを望みさえすれば、コンビニエンス・ストアで手に入れるのも可能だった。それに、大金を要するものでもなかった。だが……、どうしても焼酎を飲みたい気分だった。

 酒の肴を食べつくした後も、焼酎を飲み続けた。アルコールによる激しい酔いが内臓を痛めつけているのを知りながらも、俺は華々しく酒を飲み続けた。薄ぼんやりとした気分や、自分の間の抜けた雰囲気が、何故か心地良かった。一人で飲む酒は、喧騒によるストレスとは無縁であり、ぼやけて見える家の中は詩的に美しく思えた。が、絵筆を執る気にはなれなかった。

       ※

 寝室はアトリエの奥にあった。落ち着けるように、部屋は木目調のブラウンに統一し、壁には青く澄んだ海の写真を飾っていた。憩いの部屋で、考え事をしていると、綾香がドアを開けて入って来た。

 俺は身体を起こすと、ベッドの端に腰かけて椅子に座っている綾香と向き合った。綾香の調べたところでは――警察は俺を疑うだけの証拠を見つけ、逮捕の準備を進めている――との結論に達した。俺は不安に駆られると、何度も足を組み替えたり、貧乏ゆすりをしたりして、時間が経過するのを忘れようとした。

 綾香に促されて朝食を摂ると、じっとしてはいられなくなり、アトリエに入ってみた。しかし、描きかけの絵には筆を入れる気にはならず、新しいキャンバスに向き合った。落ち着いて絵筆を運ぶのではなく、前衛的に描き殴ってみたい気分だった。

 着彩テクニックを駆使して、絵筆で抽象画をものしようとしたものの、俺の心の中の乱れが表れてしまい、作品とは言い難いものになった。抽象画では――絶望――が絵のテーマになる。エドヴァルド・ムンクは、代表作とされる『叫び』を描いた時に、幻覚や幻聴に悩まされていた――と、いわれている。

 だが、今の俺は自分の絶望でさえ、うまく芸術に昇華できなかった。目前の事実こそが本物の絶望に思えると、何を心の拠り所にすべきなのか、戸惑うしかなかった。

 夕食の後に、リビング・ルームでテレビを見ていると、南シナ海での熱帯低気圧の発達で、大型台風が日本列島を直撃する予想が報じられていた。台風の進路は、関東地方に大きなダメージがでると見られていた。風が強くなり、窓から外の景色を見ると街路樹が枝葉を揺らしていた。表を走るクルマの台数も、普段よりかなり少なく感じられた。

 リビング・ルームにあるアンティーク調の上品な家具が、か細くも頼りなさそうに目に映じていた。時間が経過するにつれて、風がヒュウヒュウと不気味なうなり声をあげて、近づきつつあるのを実感した。俺は一九世紀イギリスのロマン主義の画家・ターナーが描く『嵐の中のオランダ船』の光景を思い浮かべていた。絵の中のオランダ船は、空を黒雲が覆う中で、大波に揺られて船体を斜めに傾けていた。

 マスコミの報道が過熱して――まるで俺が犯人のように扱われ始める――と、油絵や挿絵、彫刻などの仕事の依頼がプッツリと途絶えた。自宅に届く封書も、ファン・レターは来なくなり、請求書ばかりが配送されてきた。

 講師として勤務している美術大学から電話が入り「大学の方針で、月末の講義を最後に解雇したい」との申し出があった。理由を尋ねると「大学の講義のカリキュラムの変更によるものです」と素っ気なく返答された。状況は確実に変化していたが、望ましい変化ではなかった。

 俺には自信があり、能力があり、それに伴う名声と富があった。それが、得体のしれない何者かの力によって、すべてが瓦解しそうな恐怖心に囚われていた。言い知れぬ不安と恐怖が、俺を弱体化させていた。

       ※

 夜来の雨で、家の前の道路には水溜りができていて、走行中のクルマが「バシャ、バシャッ」と、水を撥ねる音を響かせながら通り過ぎて行った。篠突く雨は、部屋の中を閉ざされた世界の趣を変化させ、行動を制限していた。俺は画家ではなく、監獄に閉じ込められた囚人の気分になり、現実生活が物憂く思えていた。

 俺は窓に立ち身体をこわばらせると、何者かに呪縛されたかのように身動きせず、表を走るクルマの流れを見ていた。

 綾香は隣に立つと「元気を出して……。でも、無理はしなくてもいい」と、俺の肩をそっと撫でた。俺は、失った力を復活させるために深呼吸した。力は容易に取り戻せそうもなかった。

 部屋の中をうろうろしながら、頭の中を整理していると、亜美から電話がかかってきた。固定電話の受話器を取ると、亜美は穏やかな口調で

「大丈夫? 心配しているのよ」

「俺は、もうダメだ。画家としてだけではなく、人間として限界に来ている」

「自分を責めないで……。最悪の状況の時に、自分ぐらいは自分の味方をしなければ、誰が味方をしてくれるのよ」電話の向こうで亜美が、宥めるように忠告した。

「もう、絵を描けそうにもない。絵を描けない画家は、歌を歌わないカナリアにも劣る。そうだろ? 俺は、そう思う」

「私は……、能天気で馬鹿ばかり言っている時の兄貴が一番好き」部屋にいた綾香も、亜美が何を言っているのか推し量るように告げた。

「あなたは、自信満々でいるときの方が魅力的よ」亜美は、俺に対する信頼を言葉にすると、電話を切った。

 画家としての実務では、多くの男たちに支えられて来たが、絶望を経験してからの俺は、妹と恋人という二人の女が心の支えとなっていた。

 中国の伝説の生き物の獏は、人間の夢を食うと言われている。俺は、自分の夢を獏に食い荒らされ、明日への希望を失いかけていた。

        ※

 俺には、生来の破滅願望はなかったが、時折――この世界から消え入りたい――と切望する気分に囚われた。しかし、それこそが真犯人が仕掛けた罠なのではないかとも、考えられた。今の状況が悪夢の中の世界で、目覚めればもとに戻れるものなら、どれだけ救われるだろう――と考えてみたものの、俺の前に現れた世界は怖いぐらい生々しく感じられた。

 希死念慮と呼ばれる自殺願望が、人間心理には存在するのを俺は知っていた。日本でも、多くの有能な作家が、自死によってこの世を去っている。俺は、彼らの胸の内で何が起こり、何故死に急いだのかと、何度も考えた。

 俺は――絶望を経験すると強くなれる――と、漠然と考えていた。絶望の後に来る希望こそが、蛹の状態から胡蝶に脱皮できる得難い希望になりそうな気がした。だが、正直なところ絶望は経験したくなかった。俺の周囲に、黒い影が近づきつつあるのを感じていた。警察は俺に対する疑いを強め、逮捕しようと躍起になる様子が見えていた。

 世の中は、狂っている。俺はそう思った。俺は自分の無実を合理的に説明できなかった。とてつもなく大きな不安が押し寄せてきた。自分が何をしてきたか、どんな人間なのか、うまく証明できずに、喧騒と俗悪が渦巻く世界に圧殺されかねなかった。俺が逮捕されるのなら、世界を腕力で裏返してしまいたいぐらいだった。

 だが、俺は非力な画家に過ぎず、世界を自分に有利に回転させるだけの力も、周囲への影響力もなかった。あるのは、茶番じみた営為に呆然と立ち尽くすだけの僅かな気力だけとなっていた。

 綾香は疲れのせいなのか深い溜息をもらし、ソファーにぐったりと座り込んだ、「解決の糸口が見つからないまま、警察は兄貴をどんどん追い込もうとしている」と、俺を見ながら力なく告げた。

 夜は、二階に上がってベッドに入るとき、一日中誰からもご機嫌伺いの電話が入らなかったのに気づかされた。支援者の企業担当も、画廊の主人も、美術系出版社も、学者や評論家の誰一人として、電話をしてこなかったのは二年ぶりだった。心身ともに疲労していたので、ぐっすりと眠れた。

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