第24話 転移と川井と死と姫と2

「……」

「カワイイヨの独り言がトイレから聞こえましたわ。体育倉庫というものは学校の施設なのでしょう?なので、貴女を殺害したのは教員などの学校関係者かと思いましたが、どうも違ったご様子」

「黙って」

「であれば一体誰が?そういえばとわたくし思い至ったのです。初めにお会いしてからずっと、貴女が忌避きひしている言葉ワードがあったな。と」

「黙って!!!」

「黙りませんわスットコドッコイドコドコドッコイショー!やーれんそーらんぶぉごぶぉご」

「いや黙れ、あと踊るな。全身がうるさいんだけど」


 カワイイヨは一気に緊張感が失せていく。全裸でソーラン節を踊りながら風呂に沈む美少女。

売れないアイドルでもここまで身体を張らないだろうと思う。


「ぶはぁ!お友達に殺されてしまったのですわね、カワイイヨ」

「そうですよ、だからなんだって言うんですか」

「お友達にき逃げされるだなんて……かわいそうカワイイヨ……」

「トラック関係ない。ニトロとニトリくらい関係ない」

「お友達2tアタックで圧死だなんて……およよカワイイヨ……」

「何が何でもわたしをトラックで殺す気かこの王女」


 カワイイヨは風呂から立ち上がり、逃げるように出口へ向かう。


「明日も早いんですよね、もう上がりましょう。この話はこれで終わりです」

「終わりなわけないでしょう」

「終わりだ。トラックにかれるか他殺でしかこの世界に来れないのならば真実はたった一つでしょ!」

「そういう問題じゃないの」


 ネージュがカワイの手を取った。

 王女としてではなく、一人の少女として真剣に言葉を紡ぐ。


「私、もっとイヨとお話したいの。

 ううん知りたいの、、そう思っているのでしょう?」

「!!」


 瑠璃色が全てを見透かしている。

 この世界に来てから不満で不安で不信でたまらない気持ちも。

 友達なんてものを二度と作りはしないという覚悟も。

 まだ、と思う心も。


「何……何でわたしのことを知ったように言えるの?あなたは今日わたしに会ったばっかりで、わたしのことなんか何も知りやしないのに!」

「それは貴女も同じでしょう。ですから先程言った通り、ただ――聞いて」


 少女はそのすらりとした美しい手でカワイを引き寄せて。


「私、貴女と友達になりたいの」


 そう、言うのだ。

 目と目が合う。


 真っ直ぐに見つめないでほしい。

 複雑骨折している感情に手を伸ばさないで。

 そんな風に、近寄らないで――


「っ……どうしてそんな、友達なんて」


 くちびるが触れそうな距離。

 つむがれる言葉。


「私もっと貴女を知りたいの。

貴女が友人を作ることを恐れているとしても、

歩み寄った結果、私が嫌われるのだとしても、

知ったことではないわ。

 私は貴女を素敵だと思ったの。

素敵だと思って、好きだなぁと思ったの。

 ――好きだから、知りたいの。好きな人を知りたいと思うこと、それはいけないことかしら??」



 ――思考が停止する。

 好きだから、知りたい。それはいけないことか。

 それは誰にでもある心。

 絶対に、何があろうと揺らがないと確信できるたった一つの心。

 


「わたしは……」


「友達なんていないと言う貴女から感じたのは憎しみではなく悲しさだった。つまり貴女はまだお友達を信じている。自分を殺した本当の理由を。違いますか?」

 

 ぐちゃぐちゃグチャグチャ。

 感情が乱れていく。


「違う、わたしは!もう誰も好きにならない、信じない!」

「そうですか、それでも私は貴方のことを好きだから、知りたい、友達になりたい」




 ああ駄目。そんなことを言われたら――

 思いがあふれ出す。


「………………」

「イヨ?」




「……本当は、知りたいよ。彼女をまだ好きだから、信じたい。思ってる。心からそう思ってる!

でもどうやって!こんなトコに飛ばされて、どうやって帰って、どんな顔で、彼女に会ったらいいの!」

「なら、一緒に探しましょう。元の世界に帰る方法も、お友達に会ってどんな顔をすれば良いのかも。

――貴女の死の真実も」

「探す……?」


 ネージュはカワイイヨを抱きしめた。

 暗くて冷たくて怖がられる寂しがりな心を変える、ただ一つの熱。


「そう、全部全部一緒に探しましょう。どれだけ時間がかかっても。私は必ず貴女と真実を見つけ出す、約束するわイヨ。

というわけで、お友達になってくださいな!」

「というわけでって。第一、素敵だ好きだって言うけど、どうせ珍しいからって手元に置いときたいだけのクセにさぁ」

「そんなことありません!もう、答えへんじは?」

「……わたしなんかで、良ければ、勝手にどうぞ」



 震えるてのひらを強く握り返される。

 身体が熱い。心臓が、どくどくする。

 目頭も熱くなって、もうよくわからない。

 ――しかしカワイイヨは、その時ようやく心から笑えていた。





 この日、カワイイヨに人生で二人目の友達ができた。

 少女は最悪の記念日だな、と苦笑した。


 その日、ネージュは14歳の誕生日だった。

 少女は最高の誕生日だわ、と微笑んだ。






「ところで、お友達のトラックはどんな形でしたか?詳しくお願いいたします!」

「念入りに死因をトラックにしようとするな。形状から傾向を分析しようとするな。うぅ……お城帰りたい!!!」




 惨劇のざまぁシリーズ1 〜最凶悪運持ちの俺を追放した勇者パーティ、もう遅い。惨劇のざまぁ〜  完

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異世界サスペンス・むちむちプリンセスの湯けむり事件録 〜惨劇のザマァ!一服盛られた魅惑のJC〜 何屋間屋 @nann_ya_kann_ya

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