第22話 転移と川井と死と姫と
〜恋する乙女はかく語りき〜
「初めて彼を見た時思った。『腹デケェ』、と。最初はただそれだけだったんだ。けれど、彼と同じパーティで過ごすうちに俺は気づいてしまったんだ。あの腹から目が離せなくなっている自分に。腹に恋している己に。
それから俺は色々と考えた。人間の皮膚は一枚で繋がっている、つまり腹を好ましく思っているということは彼を好ましく思っているというコトになる。つまり俺は彼と恋人にならなくてはいけないんだ。……まあ、今回はうまくいかなかったがな」
〜〜
「詰まるところデブ専ですよね」
「厄介なデブ専ですわよカワイイヨ。ただのデブ専と一緒にしてはいけません」
ここはセレニテ・ルマエの浴場が一つ、「星の湯」。そこに長い戦いを終えた二人の少女が浸かっている。
「まあ、ザマァ様は酒にだらしなくイビキがウルサイ上、カラアゲに無断でレモンをかけると各方面から苦情がありますわ。しかし実はニッチな人気がありまして、秘めた思いを寄せる女性がいますの」
「唐揚げに無断でレモンをかけるのにモテるんですか。唐揚げに無断でレモンをかけるのにモテるんですか?」
「ちょモテですわ。
ちょモテのザマァ様を見て、ハズレカナ様は焦ったのでしょう。ですのでライバル達に取られてしまう前に
「その結果が薬を盛って混浴って。で、恥ずかしくなって殴ったって。ちょモテのザマァさんは前世で最終的にロリと結婚する犯罪者か何かだったんですか?」
「まあ、少なくともこの事件はまだ続きそうですわね」
続きそうも何も――
カワイは
あの後、ネージュがツイホーケイのパーティメンバーを1人づつ呼び出して事情聴取を行ったのだ。ど深夜に、それはもういい感じの深夜に。
当然カワイも寝ることは許されなかった。
〜ツイホーケイの証言〜
「パーティの勇者たるものメンバーのラブは応援するものだろ!別にエッチとかそういうことじゃなくて!あのハズレカナがザマァとエッチなことするのか気になるとかじゃなくて!エッ」
〜オソイの証言〜
「ダメです!オソイには二人をくっつけるまで
〜ハズレカナの証言〜
「天が鳴き大地が割れ温泉が
俺は、清く正しく外堀を埋めていってみせる!!!」
〜ザマァの証言〜
「ねみぃ」
〜〜証言終了〜〜
「ロクな証言が無かったんですが。本当に時間の無駄だったんですが」
「彼らの活躍から今後も目が離せませんわね!」
本当は一刻も早く寝たかったが、本日のノルマを達成していないとかなんとかでネージュに無理矢理風呂に連行されてしまった。
風呂で寝れる。意識がトビそうになる。
「カワイイヨ。貴女、トラックはお好きでして?」
「……は。え、突然のトラック?わたしの世界の話ですか?別に好きでも嫌いでもないですけど……」
「やはりそうですか。カワイイヨは二割だったのですね」
「二割?」
ネージュはそのしなやかな身体を一度大きく伸ばしてから、ふうと息を吐く。
「異世界転移族がこの世界に転移する条件は、元いた世界で死ぬことですわ」
「……」
「今まで
「転移条件が嫌すぎる。ピンポイントかつ少なくとも
「しかし何ゴトにも例外はあるのですわカワイイヨ。屋上から転落、線路に転落、熱湯風呂に転落……」
「最後ので死なないだろ」
「ヒートショックで
ネージュはここからが本題とばかりにカワイに向き直す。
「
「落ちる、ということですかね」
「惜しいですわ。正解は落とされる、です」
「はあ」
「転落を例に出しましたが、トラック以外だと刺されたり絞められたり毒を盛られたり」
「……何を言いたいんですか?」
ネージュは心配そうにカワイを見た。しばらくして、意を決したように真っ直ぐに。
「カワイイヨ。貴女は何者かに殺害されてこの世界に来たのではありませんか?」
そう告げた。
背後から殴られたような衝撃が全身を駆け巡る。
同時に全身の血が
――フラッシュバックする。この世界に来る前の、目を逸らしていた記憶。
カワイイヨという
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