第16話 王族と異世界転移族3

 手で口をおおってびっくりしているメリヤス、

 顔をしかめるパルファ、

 目をぱちぱちしているアイソレ、

 言ってやったぞと満足気なネージュ、

 そして彼女たちの視線を一身に受けるカワイイヨ。

 誰もがカワイの反応をうかがっているが、中々言葉が出てこない。そうしているとネージュが沈黙を破る。


「あれ?お姉様方もばあやもなぜ突然固まってしまわれたのです?」

「ネージュ、君は――」

「食事を続けながら話しましょう。シッチュウが冷めますの」


 ピシャリと、席を立ちかけたパルファをアイソレがたしなめる。


「お姉様、私はわりとこの子がこういう子だとわかっておりましたの」

「……いや、だが」

「あと、私の正直な感想ですが。カワイイヨ様には他に選択肢がないと思いますの」

「わたしが嫁に貰われる以外選択肢がないってどういうことです?」


 なんとか正気を取り戻したカワイはスプーンを持ち直し、ひとまずツッコミを入れた。


「……この国にはまだ、異世界転移族が異世界転移族として、自由を認められる法律がないのです。だから、このままカワイイヨ様が一人でお外に出てしまわれますと――」

に何かされたりする……?」

「あら、ご存知でしたの?」


 カワイはシチューを混ぜつつ公衆浴場で話したザマァの言葉を思い出す。あの時は聞き流していたが、果たしてどういうことなのか。


「そもそも悪役令嬢って何です?何をしてくるんです?」

「元貴族の中でも少しばかり厄介な方々。

軽いところで暴行、脅迫、詐欺、窃盗。

重くて爆破、薬物、殺人、人身売買。

司法を乱す悪人共。舞台の悪役のように振る舞う指名手配の令嬢達。だから、悪役令嬢」

「想像の20倍洒落しゃれにならなかったな。ちなみに男性も悪役令嬢なんです?」

「男の貴族は全員、とある悪役令嬢が飼ってるんです。だからいない」

「今想像の50倍ヤバいなって思い直しました」


 パルファはワイングラスから溢れそうになっている泡を一口喰み、無言で頭を振る。腐敗した司法の諸悪しょあくの根源。極悪非道の悪役令嬢には毎日頭を悩まさせられている。


「異世界転移族はね、まだ珍しいんだよ。発見例が少ない。だから見つかると悪役令嬢や、彼女達に高値で売ろうとする連中にすぐ狙われる。かといって保護する施設もまだない」

「抵抗したり逃げたりもまあ不可能ですよね……」

「言い方は悪いけど、今のところ魔族と同じ扱いだからね。なぶっても殺してもバラしても誰も何も言えないんだ」

「もうどっちが魔族だか」


 ああでも、そういうことならば。


「つまり、プリンセスは異世界転移族わたしを保護するために持って帰ってきたってことですか?」

「ええ!そうですわ!わたくし、もとい王族に手出ししてくる悪役令嬢は数える程しかいませんので!」

「数える程いるんだ」

「なので!カワイイヨはわたくし伴侶セコンドになるしかないのです!」

「どういう世界線から飛んできたらそうなるんだ」


 柔らかなジャガイモを口に入れ、舌で潰して嚥下えんげする。調理方法に思うところはあったが、味は絶品なので深掘はしないことにした。伴侶セコンドの件は掘りまくらなければならないが。


「いやでも……伴侶はんりょ?セコンド?じゃないとダメなんです?召使いとかは?」

「王族の召使いだから珍しいという理由で、わたくしのような老婆ですら悪役令嬢の方々に誘拐されかかったことがございます。ですので実はわたくしもアミュレッタ様の伴侶はんりょなんですよ」

「えっ、でも旦那さんは……」

「ルミエーラ王国では重婚が認められておりますから、問題ありません」

「はあ……」


 なるほど、選択肢がないとはこのことか。……いや、考えられる限りこれが一番マシな選択肢だったのかもしれない。

 などと考えつつ、カワイは乙女の最後の意地を水でお腹に流し込んだ。


「すまないカワイイヨ君。妹はこの通り、一度こうと決めると温泉を三日間禁止しない限りでもなければ動かない」

「結構柔軟だな」

「なんとか他にいい案がないか考えてはみるが……しばらくは許嫁セコンド見習いでいてくれないか?」

「……わかりました」

「わーいカワイイヨが伴侶セコンド!カワイイヨが伴侶セコンドですわー!」

「見習い、まだ見習いだからね。あと、ネージュは後ほど話があるからね?……しかし、ネージュの初伴侶セコンドが異世界転移族になるかも知れないのか……」


 パルファは手にした黄金の液体を一気に飲み干した。その様子を横目で確認したアイソレはこそっとカワイに。


「お姉様この後ちょっと面倒くさくなっちゃうかと思いますけど、頑張って!ですの」


 と囁く。

 カワイはその意味を食事終わり、すぐ知ることとなる。



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