第14話 王族と異世界転移族1
推理劇第二ラウンドが終了し、二人が公衆浴場を出る頃にはすっかり夕暮れ時になっていた。
「酷い目にあった……」
「申し訳ありませんでしたわカワイイヨ。お身体は大丈夫ですか?」
「……大丈夫です」
カワイはネージュから顔を逸らす。
なるべく見ないように、見ると大丈夫じゃなくなる。
すなわち、オソイの
この状態でオソイに捕まったらと考えて、勇者パーティの魔法使いと(ワースト)トップ受付嬢の
「まあ、そんなことより。この後は――」
「
「宮殿、あのお城です?」
「ええ!あれは『グギュルルルルル』」
「お腹の音で聞こえませんでした。もう一度いいですか?」
「あれこそが『ギュギュギュっ ギュ ギュギュギュっ ギュ』」
「リズムを刻むな。びっくり人間大賞に応募でもするつもりか?はあ、とりあえず行きます?」
「『ギュイ』」
「今のだけは何言ったかわかったぞ」
ネージュの鳴り止まない腹の虫を治めるため、二人は王族居住地メリヤス宮殿に向かった。
――――――――――――――――――――
メリヤス宮殿の庭に到着する。外観は至るところに
「狭くないです?宮殿……ですよね?」
そのサイズはカワイが知る教科書の宮殿と比べると、1/200といったところである。
「家があまり広くても落ち着かないとお母様の『ギュ?ギュル?ギュルルルル?』」
「はい、さっさと行きましょうか」
少女は並んで歩く。庭はこじんまりとしているが、辺りは植物園に踏み入ったかと錯覚するほど花々で彩られており、手入れが行き届いていることを感じさせる。
「ばあや!アイソレお姉様!」
ネージュが声を上げ、嬉しそうに駆けていった先にいたのは優しそうな顔のお婆さんと、ネージュと同じ、星々を束ねたような輝く銀色の髪をボブにした美しい少女だった。
二人は質素な服を着ており、野菜が入った籠のようなものを抱えている。
「お帰りなさいませネージュ様、そのお嬢さんはお友達でございますか?」
「そうよばあや、私この子を露天風呂で見つけたの。責任を持って連れ帰ってきたわ!」
「人を犬みたいに……
「まあ、それはそれは……ネージュ様のお供は大変だったでしょう。わたくしはメリヤス、ルミエーラ家に仕えるしがない
メリヤスはゆっくりとお辞儀をする。カワイは今日出会った人物の中で彼女が一番信用できそうだと感じ、気持ち半歩前に出ることにした。
足を出しかけたところで、メリヤスの
「いらっしゃいませカワイイヨ様、ネージュに拾われていただきありがたく存じますの。妹はすぐに推理劇しますから……」
「お姉様!私いつも推理劇してるわけじゃないわ!今日はちょっと調子が良いのよ!ね、カワイイヨ!」
「あれでちょっと調子が良いなら絶好調だとどうなるんだ」
「最高記録ですか?一日で20000人逮捕してやりましたわ!」
「国民全員ブタ箱に入れる気か」
プリプリしているプリンセス。可愛い。一瞬でもそう思った自分を殴りたくなる衝動を抑えカワイはなんとかツッコミを入れる。
「ネージュ……いくらご友人とはいえ、家族だけの場ならともかく今は言葉遣いに気をつけなさい?」
「あっ、そ、そうですわね。申し訳ありませんお姉様。でも」「カワイイヨ様。妹はこの通り少々お転婆が過ぎるところがありますが、
申し遅れました、私はアイソレ・ブラン・ルミエーラ、ルミエーラ王国第二王女ですの。
本日はどうぞごゆっくりおくつろぎくださいませ」
「お友達ではないです。彼女はお転婆というかというか暴れん坊ですね。暴れん坊プリンセスですね」
「『グゥ』」
「ぐぅの音もでますか。反論してみてくださいよ」
「ん?今のは
わよ?」
「今のはカワイイヨ様のお腹の音でございますの」
少し赤くなりながらお腹を押さえるカワイイヨ。あの女湯に転移してきてから何も食べていないのでお腹はかなり空いているし、暖かい食事を取りたい気持ちはある。隣のお腹から轟音を鳴らすプリンセスと一緒にされたくなかっただけで。
そんなカワイの気持ちを察したのか、アイソレはにこやかな笑顔で夕ご飯の話をする。
「そういえば私、今畑でばあやと野菜を収穫していたんですの。パルファお姉様が本日はお料理なさいますから、お手伝いしようと思いまして」
「そういえば今日の夕食担当はパルファお姉様でしたわね!アイソレお姉様、私もお手伝いしますわ!みんなでカワイイヨの異世界来訪祝いをいたしましょう!」
「祝い事なのかはさておき、宮殿に畑あるんですね。家庭的な王族ですね。家庭的な王族とは」
「ばあや!カワイイヨを食堂にご案内してくださいませ!私はお姉様たちと食事を作ります!行きましょうアイソレお姉様!」
「あまり手をぐいぐいひかないでくださいネージュ、イモが落ちますの」
「あらあらまあまあ、いつもの通り
わいわいと走って行ったルミエーラ姉妹を追うようにメリヤスの案内でカワイは宮殿の中に向かった。
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