第12話 魔法使いとザマァ4

「え、ザマァ君、飲んでないのです?オソイの魔法薬コード・ドラッグ?」


「飲むなって言ったのオソイだろ?飲んでないよ。確かこの机に……あれ?」


 ザマァは机を見て首をかしげる。その瞬間、地獄耳のカワイイヨには確かに。小さな、小さな声で「やべっ」と、確かに聞こえた。


「うーん?ないな。間違って受付嬢に回収されたかな?」


「ザマァ様の空き瓶はライア様が回収されたそうですわ。先程そうおっしゃっていましたものね?」


「う!?う、うん!そうだよそう!回収したー!だから今頃リサイクルされてるよ!きっとそう!」


「いや、中身の入ってる瓶がリサイクルには行かないだろ。前、オーナーパナケアが自慢げに話してたの聞いたことあるぜ。そのリサイクルシステム、全自動なんだろ?間違って中がある状態で突っ込まれた瓶は帰ってくるようになってるって」


「……あはは、そうでした☆だから中身捨ててからリサイクルしたに決まってるじゃないですかー、当たり前過ぎてむしろ言わなかったーっていうかー?」


わたくしのむちむちセンサーが反応しておりますわ。王家の水としょうして我々三姉妹が入った後のお風呂の湯を売ろうとするほどの守銭奴しゅせんどライア様が、中身の残った瓶を捨てるはずがない……と!」


「その件については誠に申し訳ありませんでしたぁ!弁解べんかいのしようもございません!猛省もうせいいたしますー!」


「じゃあ、オソイの瓶。受付嬢ちゃんが持ってるのです?どこなのです!?」


 ザマァの腹にノリノリでライドするオソイ。その様子、最早もとい膀胱ぼうこう界の神のごとし。

 ライアは流石に言い逃れ出来ないと悟ったのか、回収した瓶について話し始めた。


「あーもう!ザマァさんから回収した瓶の中にあったよ中身入りっぱなしのやつ!ラベル貼ってなかったから『職業鑑定飲料リアクタンD』じゃないだろうなーとは思ったけどさ!」


「どうしたのですそれ!まさか誰かに売ったりしてないのですよね!?」


「全然冷えてなかったから売れないよ。ラベルも貼ってなかったしねー。だから冷蔵庫に入れた……」


 ライアの語尾が小さくなっていく。

魔法薬コード・ドラッグ、気がついたのは二人。

 先に動いたのは、カワイイヨ。


「プリンセス」


「おお、わたくしの胸が喋りましたわ!?はろー♪」


「おっぱいと対話をしようとするな」


「んー……ぱーい!ぱいぱいぱいぱーい、ぱーい?」


「言語が違うんじゃねぇよ。ちょ、乳をピクピクさせんな。耳に手を当てて、わぁ。言葉が通じたよ!みたいな顔するな。

あのプリンセス、オソイさんが作った魔法薬コード・ドラッグ?はどういう効果があるのか聞いてくれませんか?」


「ぱーい!時に、オソイ様!」


「なんなのです?オソイ犯人じゃなかったのです!早く冷蔵庫から魔法薬コード・ドラッグを回収したいのですが……まだ何かあるのです?」


「オソイ様といえば!

『いつか使うかもしれないし取っておこ!

でもチェストから二度と出さないやろ?

でも捨てるのはもったいな魔法薬コード・ドラッグ』、略して『こやしドラッグ』で有名ですわよね!」


「えっ……王女様、オソイの魔法薬コード・ドラッグ知ってるのです?嬉しいのですですでーす!ちなみに、何の魔法薬コード・ドラッグがお気に入りです?」


「『ここが己の人生という物語の最終回!全ての力を振り絞りお前を倒すと決意した時、突如とつじょ天から翼を授かるこやしドラッグ』ですわね」


「それ人気なのですけど、使ってる人見たことないからデータが全く取れてないやつなのです」


わたくしも常に携帯していますが、かれこれ三年未開封ですわ。時にザマァ様に飲ませようとしていた、こやしドラッグはどのようなシロモノなのでしょう?」


 オソイはちらりと自身が踏みしだいているザマァを見て、何かを考え込む。しかし、すぐにネージュに向き直し。


「『正直オレは苦手なアイツ。でも最近なんだか少し可愛くなったような?いやいやいや、気のせいだって、違うって、全然好きとかそういうのじゃないって。でもアイツが他のヤツと笑ってると胸がチクチクする……この気持ちは一体なんなん魔法薬コード・ドラッグ』……なのです」


 この場で、オソイの言葉、態度、魔法薬コード・ドラッグの真意を汲み取ったのは、カワイだけだった。

 なぜなら、そのこやしドラッグ治験モニターひがいしゃとして、不本意にもを実感してしまったから。

 身体の熱は引いていた、意識もはっきりしている。けれど、その胸に宿った感情は――




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