第9話 魔法使いとザマァ1

〜BGM:むちむちプリンセスのメインテーマ 悲しみのお説教version〜



わたくしは探偵志望、ルミエーラ王国第三王女、ネージュ。

 相棒のカワイイヨと温泉に入っていると、『255の命題クリティカル カウンター』の一人、カルカリア様にカワイイヨを倒されましたわ!

 カワイイヨを助けるのに夢中になっていたわたくしは背後から近づいてくるオーナー《パナケア様》に気付きませんでしたの。

 ぽんと肩を叩かれ、気がついたら……


 説教部屋に連行されていましたわ!

 わたくしがプリンセストルネードキックで嵐を巻き起こしたとバレましたら、王家の名誉に関わりますわ!さっさと解決いたします!

 夢中に霧中なプリンセス、略してむちむちプリンセス!華麗なる推理劇、ザバっと整えて見せましょう!


というわけで現場ですわ!ご覧なさいカワイイヨ!」


「えー!」


 長い口上をガン無視し、雑に驚いたカワイの目に飛び込んできたのは。

 並べられたマッサージチェアの群れ、その一つにぎゅうぎゅうと苦しそうに詰まり、全身を揉みしだかれながら意識を失う大男――ザマァだった。


「やはり起きてしまいましたわね――第二の惨劇が!」


「どこが?これ寝てるだけでしょ、イビキかいてるし」


 ザマァは大きなイビキをかきながらマッサージチェアに座っていた。傍らの机には一本の牛乳瓶置かれており、半分中身が残っている状態である。瓶の表面には結露けつろした水滴が付いており今にも滴り落ちそうになっている。


「お風呂に入ってマッサージチェアに座りながら何か飲んで気持ちよく寝てるだけじゃないですかこの人」


「甘いですわねカワイイヨ。今この状態こそザマァ様は犯人の毒牙どくがにかかり、殺される寸前なのですわ」


「じゃあさっさと殺される寸前の人を助けましょうよ、それで解決じゃないですか」


「そんなことよりもやらなくてはいけないことがありますのよカワイイヨ。おわかりですか?」


 ネージュはカワイを抱き上げたまま現場に集まっていた三人の目撃者の名前を呼んだ。


わたくしと戦場を共に駆け抜けいち早く現場にたどり着いたカルカリア様!

そして、受付のテラ悪魔と名高きトップ受付嬢ライア様!

最後に!第一発見者にしてザマァ様と同じ勇者パーティのメンバー……魔法使いオソイ様、でございますわね」


「現状を見ている人が三人もいるのに誰もこの状況がおかしいと思わないんですか?」


「いや、あたし含めてこの場の全員この人は寝てるだけって認識してるしー。こんなことに内線使わないで欲しいんですけどー?というか無職ちゃんも元気そうなら仕事戻っていいー?」


「実はだいぶ元気じゃないです。頭はくらくらするし動悸どうきもするし胃は痛いし無職じゃないし」


 カワイは胸か胃か判別のつきかねる胴を手で抑えながら「この変態王女から助けてくれ」と上気じょうきした顔で訴える。

 だがその訴えは誰にも受理されることはない。


「現在、ザマァ様は犯人の卑劣ひれつな手口により、この通りマッサージチェアに押し込められ惰眠だみんむさぼっているように見えますわ」


「まごうことなき真実に辿り着いてるじゃないですか」


「それが犯人の罠でしてよカワイイヨ!この殺人はザマァ様がことで成立するのですから!」


「じゃあ早く助けなって」


「そして――わたくしにはすでに犯人の目星がついておりますわ」


 ネージュの顔つきが変わる。


「いやだから」「流石パルファの妹だな!よくわからんが、ワタシは面白そうだから付き合うぜ?」


 カワイの言葉を遮りカルカリアが嬉々ききとしながら会話に参加してきた。無論事件はどうでもよく、ただネージュに絡みたいだけなのだが。


「では、早速始めさせていただきますわ!アテンションプリーズ!ゴングをお持ちの国民様はいらっしゃいまして!?」


「イエッサー!ここにいるなのです!」


 勢いよく王女の膝下にスライディングしてきたのは三つ編みに丸メガネがよく似合う、いかにも魔法使いといった風貌の少女。


「オソイ様でございますわね、ご機嫌麗うるわしゅうございますわ。ゴングを鳴らしていただいてもよろしくて?」


「やったー!王女のゴング持ち!人生で一度はやってみたかったのですー!」


 カンカンカン!鳴り響くゴング!宙に浮く外套!


「夢中に霧中な謎解きプリンセス!第二ラウンド開幕ですわー!!!」


 セレニテ・ルマエの一角で高らかに行われる開幕宣言!始まるは華麗なるや推理劇!

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