第7話 王国と異世界転移族2(サービス回)

 ということで。


「なぜ風呂!捜査はどうした!!!」


「だって入りたかったのですわ!!!許しませ!!!」


 ここはセレニテ・ルマエの浴場が一つ、「星の湯」。スペースは狭いながらも、まるで満点の星空のような特殊な色彩の源泉と、その源泉がかもし出す雰囲気に合わせてルミエーラ王国の四季の星々が天蓋を巡る、セレニテ・ルマエ屈指の穴場スポットである。

 ……「推理のため」という名目でほぼ毎日ネージュが貸し切っており、彼女以外の人間はまず入れないのだが。


「第一、カワイイヨだって『服が濡れているから乾かせるとありがたい』と言っていたでしょうに!」


「そもそも濡らしたのはプリンセスなんですけどね。あとそれ露天風呂から歩き始める時にお願いしたのであって、王国に着いた時には半乾きでしたから」


「半乾きは良くありません、ダメですわクサいですわカワイイヨ!しっかり洗って乾かさなくては!」


 そんな「星の湯」の洗い場で銀髪と黒髪が言い争いながら並んで頭を洗っていた。


「だからわたしを風呂に突っ込んだのはあなたでしょうに……というかあの時何したんですか?勝手に身体が浮いたんですけど」


「ああ、あれはわたくしの『能力コード』ですわね。異世界転移族の方々からすると異能とか超能力と呼ばれるものに該当するのでしょう?この世界のイキモノ全てが所持する女神の祝福ですのよ」


 ネージュはお湯で頭の泡を流す。

同じように泡を流そうとしたカワイが手桶ておけに手をかけると、突如眼前に半透明のウィンドウのようなものが浮かび上がり


 『アル♪アル♪歩こー♪アルコバレル♪がーくえんは♪らーくえん♪

 アル♪アル♪歩こー♪アルコバレル♪

 君も魔王と戦おう!受験者求ム、アルコバレル学園!』


 と、愉快なBGMと共に短い映像が流れた。


「何この大手動画サイトで流れるような絶妙な長さの広告」


「浴場のアメニティグッズを使用すると無作為むさくいなタイミングで流れますの。これも『能力コード』を使用していますのよ?」


「女神の祝福をスキップ不可のクソ広告に使うな。シャンプー、トリートメント、ボディーソープで最低三回はこれを見ないといけないんだぞ。女神に失礼だと思わないのか」


わたくしのようにプレミアム会員になれば広告が消せますわよ」


「女神の祝福を消すな。なんかそっちの方が失礼な気がしてきたぞ」


 広告を見終えたカワイは改めて頭を流す。汚れを流す暖かな水流、そこに勢いよく頭を突っ込んできたネージュは食い気味に話を続けた。


「それにしても!『能力コード』が使用できない世界なんて想像がつかなくて、一周回ってどんな文明が築かれているのか大変気になりますわ!」


「ちょっと邪魔だし……違いって言われても……わたし、こっちに来てからほぼ風呂しか見てないし」


 カワイは首をかしげながら髪にトリートメントを塗りつけ始め、


 『365日転職志望!そんなあなたに職業鑑定飲料リアクタンD!!!適正検査はコレでビンビン一発!特許志願中!!!!!』


 不意打ち気味に流れた爆音広告に顔をしかめながら話を続ける。


「他の転移族の人から聞いていないんですか?いやまあ、本当に全員同じ世界から来ているのか?とか疑問はありますけど」


「もちろん伺ってはおりますが、貴女に聞くコトに意味があるから聞いているのですわよ。お友達に旅行話をしていただく際に「その観光地のことは知ってるから話さなくていいよ」なんて言わないでしょう?」


「…………友達なんて、いませんから」


 ネージュから顔を背け、ぽつりと呟くカワイ。トリートメントを洗い流し、ボディーソープのボトルを手に取る。

 ネージュはそんな様子を見て少し考えこんだ後。


「……カワイイヨ、一つ質問してもよいでしょうか?」


「わたしの世界の文明ですよね、まあパッと違いとして思いつくのは――」


 二人が身体を洗い始めようとした、まさにそのタイミングでガラガラッ!と乱暴に浴場の扉が開かれる音がした。


「な――この浴場はわたくしが貸切にしたはずですわよ!?」


「貸切!?いつの間にそんなこと、というかできるんです?」


「ここは大体、おおむね、ほぼにち、わたくしが貸し切っておりますわ。というわけで何ヤツですの!」


 ひたひたと、二人に近づいてきたのは一糸纏わぬシルエット。引き締まりまくった脹脛ふくらはぎから太腿ふとももにかけての筋肉、六つに割れた腹筋、そして大きすぎて垂れる乳。ボディービルダー並みの肉体を持つ、2m越えの女性がそこにいた。


「何だ何だうるせ〜な〜、お前そんなピチパチ言うキャラじゃねえだろうが。釣れたての魚じゃあるまいし……って――お前、パルファの妹か?」


「え?お姉様を知っているのですか……?」


「……へぇ?」


 ニヤッと、その女性は邪悪な笑みを浮かべる。その口から覗くギザギザとした歯はサメのように、というよりサメそのものの凶暴性を感じさせる。


「へー?お姉様はお家で学園のこと喋らないのかい?」


「お、お姉様のお知り合いですか?

 あと、その、ち、近いです貴女様!」


「うんうん、ふーん?

 なあせっかくだからお前ら一緒に風呂入ろうぜ。なーに取って食いやしないからさぁ。

 ああ、人間は風呂入る前に身体洗うんだっけか?面倒くせぇ。しゃーねーなー

 このカルカリア様がしっかり洗ってやるから感謝しな?」


 と言いながら彼女はネージュの身体に追加でボディーソープをかけ始めた。広告はでない。すなわちこの白黒ダイナマイト、プレミアム会員である。


「カルカリア様!?あの『255の命題クリティカル カウンター』の!?」


「おう、『#原初潜る光の怒濤コード ブルー』の使い手、『蒼き殲滅せんめつのカルカリア』様だぜ。やっぱ姉貴に聞いてたか、まあよろしくなぁ?」


「えっ、何今のカッコいい二つ名。ちょっとそこのサメっぽい方もう一回お願いします」


「サメっぽいも何もワタシはさめ族の末裔まつえいだしな。メンドいからパス、自分で調べろヒラメ娘」


「あ?????」


 カルカリアは両手で乱暴にネージュの身体を揉み始める。手についている水掻きの凹凸のおかげか、すぐにネージュの全身を泡が多いはじめる。


「きゃあっ!?やだっやめ」


「なあなあ、お前ー。

 お姉様の話を聞かせてくれよ。あいつ家だとどんな感じなんだ?家でもあんな、つれない感じなの?」


「っく、お姉様は高潔で麗しく、人にいそしみを持って接する尊敬するべきお方ですわ!

 というかわたくしはお前ではありません!ネージュという名前が、ひゃっ!?」


「うなじが弱いのか?お前」


「ひゃぅっ、ぅぅ……」


 爆乳爆イケ人外と美乳美麗王女の戯れを横目に貧乳別嬪べっぴん小娘は不服そうに身体を洗う。

 広告も空気を読んでいるのかこのタイミングに限って出てこない。


「ひゃぁぁ!?ちょ、ちょっと待ってください!そこは自分で洗いますから!」


「やだ。お前かわいいんだもん、洗いたい」


「んっ……やっ、だめ、そこ……」


「おうおういい声で鳴くじゃねーか」


「ひっ……ひどい、です。いやだって、んんぅ……いって、ぁん……」


 つややかな王女の嬌声きょうせいが浴場内に響き渡る。目を背け続けるのも流石に我慢の限界になってきたカワイはカルカリアに抗議する。


「あのー、聞いてるこっちがめちゃくちゃ気まずくなるんでそろそろ終わらせていただいてもよいですかね?」


「ははは、よーし面倒くせぇ!おいカレイ娘!お前も一緒に洗ってやる!」


「うん?????って、ちょ」


 腕を掴まれ引っ張られ、引きずりこまれる。

 ネージュとカルカリアの乳ゆりのはなぞのの間に。


「――!?いや、待ってくだ、そんなとこ絶対はいらなぶふぅ!?」


 圧倒的質量に埋もれる、前後におっぱいいっぱいぱい。逃れられぬ、たわわと百合の部屋。


「あ、貴女!カワイイヨになんて手荒なまねを!?……っ!カワイイヨは私が洗います!邪魔しないでくださいませ!」


「あー?じゃあこいつにどっちの洗い方が良かったか後で聞こうぜ――勝負だ」


「んん……んー!」


 おっぱいにぎゅうぎゅうに挟まれたカワイはカルカリアの乳で猿ぐつわ、つまり乳ぐつわ状態になっているため声が出せなくなっていた。どころか呼吸もままならず酸欠になりかけていた。


「……ん……ふ……」


「手だけじゃ時間かかるな……身体も使うか。んじゃ、こう……」


「いっ!?いいいいぃ!!!???」


 カワイは声にならない悲鳴を上げる。


一網打尽いちもうだじん!何が起こったの!?秘密はこれ!汚れを根こそぎ落とすザラザラ質感、サメタワシ〜サメタワシ〜お買い求めはお近くの薬局まで!』


 不意に流れ始めた広告を横目で確認したカルカリアは何かに気づいたように首を振る。


「……あー、そうだったわ。ワタシが身体使って洗ったらそうなるわな。悪い悪い」


 ふらっと、カルカリアがカワイから離れる。二つの胸の柱に支えられていた身体はぐらりと倒れこんだ。

 新しい空気が肺に入り込み、一気に頭から熱が引いて――カワイはその場で意識が落ちた。



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