第2話 勇者とザマァ1

「まず、事件発生時の状況から確認いたしますわ!」

「状況も何も見ての通り、あの人風呂で一人で泥酔でいすいしておぼれかけたんですよ。そこの勇者さんと一緒に救助しましたし、他に何があるっていうんです?」


 カワイイヨは男湯から引き揚げられたタオル一枚の巨漢をあごで指す!

 しかーし!男の胸はかすかに上下しているものの起き上がる気配はない!


「そう!状況としてはその通りですわ。しかし、彼はなぜ一人露天風呂でお酒を煽っていらしたのでしょうか?

 ――その謎を解く鍵は、第一発見者こと彼のパーティメンバーの勇者様が存じていますわね?」


 呼ばれた少年勇者はゴングを小脇に抱えたまま敬礼!そして自己紹介コール


「カーン!は」「推理劇というリングに上がるには名乗りが必須!あとはそうですわね、好きな入浴剤の香りでも宣告してくださいませ!」

「はい!勇者ツイホーケイです!好きな入浴剤の香りは王道を行くコーラです!」


 男湯に入れば毎回二度見三度見されてしまうため、全裸になったら未だ成長途中の聖剣をこれでもかと見せびらかすことにしている少年!ツイホーケイ、ツイホーケイの登壇とうだんである!


「ツイホーケイ様率いる勇者パーティの皆様のご活躍、わたくしももちろん存じ上げておりますわ。数多いる勇者パーティの中でもここ最近最も整っていると!

先日も四人でSクラスのクエストをクリアしたのですわよね?」

「いやぁ、かのむちむちプリンセスに俺たちが認知してもらえてるなんて……光栄です!

あ!ソーダも好きです!中からおもちゃが出てくるやつ!」

「なんだ『むちむちプリンセス』って、エロ同人のタイトルか」


 カワイイヨもツッコミを我慢できず参戦!

 (解説)この世界では『同人』という言葉は通じないですけど、『エロ』という言葉は通じるので、まだまだ下ネタを言いたい盛りのお年頃のツイホーケイ君は入れたばかりの固形入浴剤のように過剰かじょうに反応しちゃいますね〜


「エロ!?王女はエロじゃないし!『夢中に霧中な謎解きプリンセス』なんだから略して『むちむちプリンセス』なんだし!

全然、エロろーじん?のタイトルじゃないし!第一こんなのルミエーラ王国民の常識だしー!」

「ルミエーラ王国民じゃなくて申し訳ありませんがそんな常識がまかり通る国あってたまるかコノヤロウ」

「まあ落ち着きなさいお二人とも、まだ推理劇の途中ですわよ。このままだとまだわたくしただの温泉客ですわ!」

「なら全部脱いでから入れこの露出狂」

「僕たちの王女をエロ露出狂呼ばわりするな!このぺちぺち!」

「あ゙ん?まだ成長期途中の花も恥じらう14歳だわやんのか、あ゙ぁ???」


 おーっと言い争うカワイイヨとツイホーケイ!口論の波を割って、ネージュが動く!


「ギルドに登録されたツイホーケイ様のパーティメンバーは

勇者ツイホーケイ様、

魔法使いオソイ様、

僧侶ハズレカナ様、

そして、今回の被害者、重装兵ザマァ様……ですわね」

「はい!全員ウチの自慢のメンバーです、もう五年以上一緒にいる家族みたいなものでして」

「貴方様は本日、その家族のようなメンバーを、一人解雇しておりますわね?」

「うっ!?」


 サバっと図星を指され冷水を浴びたように震え上がるツイホーケイ!ネージュの猛攻は続く!


「ギルドにはわたくしのお姉様がおりまして、新鮮ピチピチな情報がすぐに入手できますの。そこでこの現場に来る前にチョイチョイと、ザマァ様の身辺調査をさせていただきましたわ」

「探偵ってよりなんか刑事みたいですね」

「刑事はあてになりません、この世界の司法は終わっておりますわ。硫黄いおうが濃すぎて入れない温泉のように!」

「えぇ……」

「こほん、まあまずわたくしの推理を最後まで聞いてくださいませ?とにかくザマァ様はツイホーケイ様により本日パーティメンバーから解雇されていました。それは何故か?鍵を握るのはザマァ様の手荷物にあったこの封筒にありましてよ!」


 ネージュはおもむろにハイレグから取り出した茶封筒をパンっと叩き、中から二つ何かを取り出したーっ!


「今」「こちらの封を切り中を拝見させていただきましたわ、中にはミネル村の土地の権利書とアノニムカードが入っていますね?」

「すみません、アノニムカードとは?あと今」「ギルド・アノニムに登録した方ならどなたでも作成できるカードで、これ一枚で銀行からお金を引き出せる代物ですわね」

「ふむ、それは勿論ザマァさんのですよね?今下着から」「当然、ザマァ様の手荷物から出てきたのですから普通はそう思うでしょう。しかし、実際には名義が違っておりますわ」


 茶封筒から取り出されたアノニムカードの名義は「ツイ・ホーケイ」になっている!これは一体……!?


「あぁなるほど、ツイホーケイさんはその封筒をザマァさんに奪われてその復讐でザマァさんを……とかいう推理で――」

「違いましてよ!発言をつつしわたくしの推理を最後までお聞きなさいませ!その胸のように!」


 パチン!とネージュが指を鳴らし宣言!あの技が来る!!!


「「#淡雪浚う毎々の白コード スノウ」!」

「ひゃあぁぁぁ!?」


 ネージュの声に呼応しカワイイヨの華奢な身体を花吹雪の如く粉雪が包む!

 そのまま身体がふわりと宙に浮き上がったかと思えば――いった!いった!勢いよく男湯に落ちていった!

 何!なんなの今の!とお湯の中でパクパク吠えるカワイイヨを無視しながらネージュはまだまだ推理をやめない!


「ツイホーケイ様、貴方はこの封筒、本当はまだザマァ様に渡すつもりはなかったのではないですか?」

「な……ぜ、それを」

「何故もハゼもありません、貴方は来月ギルド・アノニムの貸し部屋を一室借りているでしょう?――「ザマァ重装兵の新たな門出を祝う、お別れ会」という名目で」

「……!!!」


 ツイホーケイはみるみるうちに湯冷めしたように青くなる!

 ネージュトドメの一撃!


「これらの事実が何を意味するかはもう明白ですわね?……そう、貴方の考えた恐るべき殺人計画の全容、その全てが整ってしまうのですわ!」

「――――なん、だって」

「計画そのものは単純ですわ。貴方は来月、ザマァ重装兵様をパーティから解雇するおつもりでした。

 ――ミネル村、ザマァ重装兵様の故郷ですわね。その一等地の権利書と、Sランクパーティとして稼いだ老後も安泰あんたいなほどの資金が入金されている貴方の口座のアノニムカードを渡して」


 ネージュ、ツイホーケイに歩み寄る!

彼女の暴力的なまでの体躯たいくは凄まじい圧!

ツイホーケイの身長はネージュの胸より下なので完全に気圧されて、否、乳圧されているー!


「最上の土地!最高の老後!そんな最強欲張りセットを一度に与えられたら!――人は死にますわ!」

「!?」

「貴方の計画した殺人計画とは!ザマァ重装兵様に一度にキャパオーバーするほどの多幸感を与えることでショック死させることだったのですわ!!!!!」


 湯けむりくゆ静謐せいひつなる無人露天風呂にて、むちむちプリンセスの名推理が今、整ったぁー!


「まあ、予定が一か月早まったのは想定外の何かがあったのでしょう。ですが今回の件においてさほど重要ではありませんわね。水に、いえお湯に流しましょう、露天風呂だけに!」


 ガンッと、ゴングと共にツイホーケイはその場に崩れ落ちてぇ!


「う……うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


 湯面が波立つほどの大絶叫をあげたぁーっ!

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