19日目 放課後 日和

 ともちゃんがわたしのために借りてくれた本を返却するために図書室へ向かった。


 カウンターでは、古河さんがのんびりと文庫本を読んでいた。本を手にカウンターに立つと、古河さんがわたしに気付いてニコリとした。

「やあ、日和ちゃん。なんだか久しぶりだね」

「あ、その…先週、ちょっとカゼを引いちゃって…」

「あぁ、そうだったそうだった。旭ちゃんがそんなこと言ってたね。体調はもう良いの?」

「あ、はい。お気遣いありがとうございます」

「あはは、そんなにかしこまらなくてもいいって」

 本の返却を済ますと、新しい本を借りるために本棚へと向かう。この後ともちゃんたちと帰りにクレープ屋さんへ寄る予定があった。

 気になっていたシリーズものの本を借り、図書室を後にしようとドアに向かうと古河さんが声をかけてきた。

「日和ちゃん」

「あ、はい、何ですか?」

 振り返ると、古河さんがわたしの目の前まで来ると黙り込んだまま、わたしの顔を見下ろした。

「あ、あの……こ、古河、さん?」

 まじまじと見つめられ、視線に耐えられずついっと顔を背ける。

 うぅ、は、恥ずかしい。

 しばらくして、古河さんの「ふむ」と言う声が聞こえた。

「ふふ、日和ちゃん、いい顔してるじゃん♪」

「は、はあ…そ、そう、ですか?」

 古河さんの意図するところがわからず、ぽしょぽしょと言葉を紡ぐ。

「うん。旭ちゃんから聞いたよ。最近、ともちゃんたちと遊んでるんでしょう?」

顔を背けたまま、前髪をいじいじして応える。

「あ、はい。その…と、友だちに……な、なりました…」

 改めて言葉にしてみるとうなじの辺りがむずがゆくなってくり、同時に胸のあたりが不思議と暖かくなるようだった。

「そっか、良かったね、日和ちゃん」

古河さんがわたしの髪をぽんぽんと撫でる。

 やわらかい声で祝福され、わたしは目を細めると、うれしさと照れくささに俯いた。

「あ、ありがとう……ござい、ます…。その…図書準備室にお邪魔したりして、色々とご迷惑やご心配をおかけしました」

 頭を下げる。

「あはは、いいっていいって、私は日和ちゃんのこと、迷惑だなんて思ってなかったよ。むしろ一緒にランチ出来て楽しかったしね。それに心配なんてしてなかったさ」

「そ、そうですか?」

「前に言ったでしょ? 日和ちゃんは、日和ちゃんのままでいればいいんだよって」

 胸に染み入るやさしいことのは、だった。

「あ……」

 わたしがハッとする顔を見て、古河さんがいたずらが成功した子供みたいに、ニヒヒッと笑う。

 私はもう一度、頭を下げてから彼女に笑顔を向ける。



 きっとそれは、彼女の自然な笑顔に比べれば、ぎこちないものだったと思う。

 それでも彼女に今の気持ちをまっすぐに伝えたくて、わたしは笑いかけたのだった……。

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