昼休み その2 智香
昼休みのチャイムを聞きながら、頬杖をついた私はぼんやりと考え事をしていた。
前のイスを小さな手が掴み、由香が向かい合うように席を回転していた。
「ともっち、どうしたの?」
声をかけられているのはわかっていたが、今は考えごとに集中したかったため、聞こえないふりをする。
由花は小さく唸った後、私の真似をして頬杖をついていた。
「ともっち~、おーい」
目の前で手を振られみる。さすがに悪い気がして、仕方なく応じることにした。
「あー、ゆっこ? ごめん今気付いた」
私のうそに気付いても由花は気にすることなくにこりと微笑む。
「お昼ご飯用の飲み物、買って無かったね。行こっか?」
席を立つ。しかし由花は席を立つことなく俯いてしまう。長い前髪がさらり、彼女の顔を
「ねぇ、ともっち、何か悩み事でもあるの?」
どきりとする。うつむいた長い前髪が彼女の表情を隠す。
ただそれだけで、彼女の声音の何かが変わった気がした。ほわりと丸みを帯びた、いつもの口調の中に、何かが隠れているような気がする。唾を飲み込む。どろりとした、濃厚な唾だった。
「ともっち?」
黒髪が流れ、彼女が私を上目遣いで見る。
眉をハの字にして、頬を少し膨らませている。いつもの
ホッとして応える。
「あ、ああ、うん」
由花が頬を更に膨らませる。
「うん、じゃないよ。私の話、聞いてたの?」
もちろん、聞いてたよ。その言葉の奥底にある何かを、聞いた気がしたんだ。
でもそれを聞く気になれず、私は無かったことにした。
「ごめん、ちょっと考え事してた……」
「やっぱり。なーんかぼーっとしるなぁって思ってたんだよね。ともっち、あのさ……」
由花が口にを添え、耳を貸すように示す。
彼女はときどきこうやって話をするのを好
んだ。少し迷ったけど、私は結局彼女に耳を寄せることにした。
「瀬川さんのこと、だよね」
由花は小さく囁き、耳が湿るような錯覚を覚える。
瀬川……って、誰?
顔を離した由花は私の不思議そうな表情に気付いて、たずねる。
ともっち、もしかして転校生の名前忘れちゃったの?」
「え? あ、ああ。瀬川って転校生の……」
由花が少し呆れたようにため息をつく。
「ま、ともっちらしいけどね」
もしかして、バカにされてる?
「それで、どうなの? やっぱり瀬川さんの事なの?」
「うん、実は……」
私は数学の授業での彼女の様子をできるだけ事細かに説明した。 由花は黙って耳を傾け、私の話しが終わるとゆっくりと頷いた。
「まったく、何考えてるんだろうね、あの……せ、せ、せ……」
「瀬川さん」
「そうそれ」
「そんなのカンタンじゃん」
「カンタンって、何が?」
由花が今度こそ本当に呆れたというふうにため息をつく。
「はあ……ともっちって、人のこととか意外に冷静に分析するくせに、自分のこととなる
とまるっきりのニブチンさんだよね」
その言葉にはさすがにムッとしたが、表面だけは平静を装いたずねた。
「へ、へー、その…つまり、どういうこと?」
「要するに、ともっちと友達になりたいってことだよ」
「ま、マジで?」
「マジ……だと思うよ」
「へ、へー……」
あの転校生瀬川が? 私と? 友達になりたい? な、なにゆえに?
「な、何で……私、何だろう?」
「いや、私に聞かれても……」
「こ、困るし。というか、あの子と仲良くしてんの想像できないし」
「うん、私もちょっとねぇ」
妄想娘のあんたでも妄想できないこと、あるんだ。と、とにかく困る! ハッキリ断ろ
う……って、別にはっきりそう言われたわけじゃないし。あーでもあの子、すっごく臆病だからいつまで経っても言いそうにない。いや、待て待て、由花の勘違いという可能性だってあるかもしれないんだ。それなのにそんなこと言ったりしたら、最悪じゃん! うわー、どうすればいいんだ、私!
私のこころの
「まあでも、今のところどうしようもないし、様子見でいいんじゃないかな?」
「う、うん、そうだね」
「じゃ、飲み物買いに行こうよ」
「う、うん、そうだね」
由花が席を立ちクラスを後にする。私は瀬川の席を見つめ、深々と息を吐き出すと由花を追いかけた。
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