休み時間 その2 日和

 わたしが小学校の頃、転校生がクラスに来た事があった。

 だから転校生が注目の的になり、周囲からいろいろ質問されたりしてちやほやされるのはわかっていたし、わたしなりにこころの準備はしていた。

 それでも、クラスメイトの勢いはわたしの想像以上だった。

 血液型は?  誕生日はいつ? 兄弟はいるの?  好きな食べ物は?  好きな芸能人は? 

 休日は何してるの? 好きな音楽は……。

 質問はとどまることを知らず、好奇の瞳はガラス細工のようにキラキラとしていて――故に、その透明な存在はわたしの知らないうちにこころを傷つけていった。

 それは仕方のないことだった。

 人と話をすることがわたしにとって、どれほどの緊張をもたらすのか、彼らは知らなかったのだから。

 そしてわたし自身、その傷にぎりぎりまで気付かなかった。

 周りに集まったクラスメイトたちはわたしの一挙一動を逃すまいと見つめているように感じて、首筋から冷たい汗が一筋流れた。

 やがて、わたしはあることに気付く。

 クラスメイトは一様にニコニコしていて、 わたしが何を言っても、どんな応え方をしてもその笑みは変わらなかった。

 おそらくは転校生であるわたしに気を遣ってのことだろう。

 しかし彼らの気遣いは皮肉にも裏目に出てしまう。

 表情の変わらないクラスメイトを見てわたしは戦慄せんりつした。

 なんでみんな笑ってるの?

 変だよ。わたし、別に面白いことなんか言ってない。みんな、何を考えてるの?

 怖い……気持ち悪い……こんなの、おかしいよ……。

 のどが乾いていて、つばを飲むたびにえぐるような痛みが襲った。

 クラスメイトは仮面をかぶりそんなわたしをへらへらと笑っているように感じた。

 周囲の視界より色素が失われる。

 灰色の笑いがノイズと化し、断続的に鼓膜こまくを揺さぶった。

 頭に白いモヤがかかり、高熱にうなされるように視界がとろけて逝った。


 朦朧もうろうとした意識の中、わたしは唯一の打開策を講じる事にする。

 ただ一瞬、幼少時代に男の子がいった「弱虫」という言葉を想いながら、頬を暖かなものが伝った……。  



 もう、何もわからなかった……。

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