休み時間 その1 智香

 2時限目終了のチャイムは現代文の先生、石田の豪快なくしゃみとともに幕を閉じた。

 教壇真正面の女子が小さな悲鳴を上げて必死にハンカチで拭っている。

 隣の男子生徒は眠れる獅子(普段は居眠りをしているくせにテストではなぜか上位に名を連ねる強者) こと坂口平和さかぐちへいわなので無反応だ。

 石田はくしゃくしゃのハンカチで鼻をかみながら女子生徒に謝り、そのハンカチを無造作にワイシャツのポケットにねじ込んだ。最低。

 ふと、隣に視線をやると転校生の…ええと、なんだっけ……ま、いっか。

 転校生が目を見開いて固まっていた。

「驚いた?」

 顔だけそちらに向け、声をかける。彼女はびくんと体を震わせ、こちらを見ようとして、止めてすぐに俯いて、こくんと頷いた。

 なんだかなぁ……。

 内心嘆息しつつ席を立ち、さっさと由花の元へと向かった。

 背後からイスがこすれる音、リノリウムの床と上履きの摩擦音、女生徒たちによるかしましい声が聞こえてくる。

 由花の前の席に座り、くるり。

 自分のいた席の方を見た。そこには女生徒たちによる輪が何層にも重なりあって出来ていた。

 うん、やっぱりさっさと退散しておいて正解だった。

 輪の中心にいるのはもちろん転校生。

 予想していたものの、さすがにあそこまでとは思わなかった。何だかワゴンセールに群がるおばさんたちみたいだ。そんな光景を眺めつつ「本日のセールは、大盛況ですねぇ、店長」

なんておどけて由花に問う。

「ほんと、ほんと」

 由花は目をまんまるくしながらしきりに頷いている。その輪を呆れるのを通り越し、妙に冷めた気持ちで見つめると、由花の机に肘をつき窓外を眺めた。

 日中の窓際の席は陽光が優しく、私の意識を眠りへと誘う。うつらうつらとし始めたとき、クラスにどよめきが起こった。

 片目を擦りながら由花を見るとぽかんと口を開けたまま、ある1点を見つめていた。

 彼女の視線を追うと私の隣の席、転校生の周りに立つ女子たちが僅かに身を引き、お互い困惑気味に視線を交わしている。

 その隙間から押し殺した声と鼻をすする音がした。



 転校生が泣いていた。

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