2時限目 日和

 転校生が必ず通らなければならないもの。  

 それが転校初日の休み時間だ。

 転校してきたばかりの生徒はその多くが期待や不安、そして緊張の内にある。

 この学校でやっていけるだろうか? 

 友達はできるだろうか? 

 意地悪な子はいないだろうか?   

 いじめられたりしないだろうか?  

 ちゃんと勉強についていけるだろうか?

 先生は怖くないだろうか? 

 そして、わたしみたいな子でも理解してくれる子はちゃんといるだろうか……。

 友達がいるのといないのとでは、学園生活はがらりと変わる。

 人一倍ぼんやりな私は以前の学校でなかなか友達を見つけられなかった。

 だから友達がいない学校をよく知っている。

 それは、ただただ痛いものだった……。

 周りの子は数日とかからずに友達を増やし、徐々に仲良しグループを形成してゆく。

 朝、わたしの戸を引く音に反応し、友達が来るのを待っていたであろうクラスメイトが一瞬見せる期待と落胆の表情。

 そんな姿を見てしまうと、まるで自分が何か、ひどい間違いを犯してしまったような気がする。 そして、こう思うんだ。

 自分じゃなくて、あのクラスメイトの友達だったら良かったのに、と。

 休み時間に聞く楽しげな談笑。居心地が悪くて、ひとりぼんやりと校内を彷徨さまよっていた。

 みんなは殻を破って暖かな日差しを浴びているのに、自分だけがいつまでも殻を破れず、暗闇の中に取り残されている気がした。



 そんな日々からわたしを拾い上げてくれたのが、奈月ちゃんだった。



 友達ができると、学園生活はまったく別物になった。毎日が楽しい。嫌いな授業があっても、奈月ちゃんと今日はどんな話をしようかと思うだけで自然、学校へと向かう足取りは軽くなった。

 学園生活を楽しみたければ気の合う友達を持つこと。つまりはそういうことだ。


 そして転校初日である今日は、絶好のチャンスなんだ。そう言い聞かせ、家を出た。

 先生に気付かれないようにちらりと壁を見る。壁には黒く縁取られた丸い時計があった。


 

 授業終了のチャイムまで、あと5分を切っていた。

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