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 それから、鷹一は紅音の指示に従い、新たな異能力オルタビリティの使い方を練習した。


 異能力オルタビリティは、能力が付与された武器を生み出すか、それとも超能力エスパーのように体から発せられるかの二種類に分類される。


 今回、紅音が鷹一に提案した異能力、それは――。


「“反逆の激突リベル・インパクト”トンファー型の異能力オルタビリティです」


「トンファー、って。あの、T字の武器か?」


「ええ、フィクションなんかじゃ、よく見ますよね」


「まあ……。いや、でもあれ、難しそうじゃねえか? オレ、トンファーなんて使ったことねえんだけど」


「でも、覚えたらその対応力フレキシブルは“正義の十字クロス・ロンギヌス”にも迫ると思いますよ。付け焼き刃ですけど、ちょっとやってみますね」


 そう言って、紅音はバイクから降り、まず“血染めの刃ストロベリー・スウィッチブレイド”を発動させ、生み出した光剣ビームカタナを、鷹一に渡した。


 そして、自ら“反逆の激突リベル・インパクト”を取り出した。

 それは、見た目にはただの黒いトンファー。

 正確には、トンファーバトンと呼ばれる種類のもので、真ん中でくびれている。

 それは折りたたみ式で、両端から押し込めば縮む。


「私の“血染めの刃ストロベリー・スウィッチブレイド”で、打ち込んでみてください」


「……剣も使ったことねえんだけど。まあ、それくらいがちょうどいいってことか?」


「剣も、ですか?」


 鼻を鳴らし、一瞬なにかを考え込むようにするも、すぐに「そうですね」と頷く。


「まあ私は、そこまで強いわけじゃないので。扱えない武器くらいがちょうどいいです」


 言われて、鷹一は頭上から思い切り、光剣を振り下ろす。

 紅音は、腕から肘を覆うように構えた棒で、その光剣を防いだ。


「トンファー防御その一。オーソドックスな型ですね」


 その言葉のあとに、鷹一は横薙ぎで紅音の胴体を切りつけようとする。

 紅音は、空中で素早くトンファーを持ち替えた。

 短く突き出したほうを握り込むことで、握り部分が剣でいうガードの役割をし、鷹一の振るった光剣ビームカタナを止めた。

 

「トンファーの防御その二。警棒のように扱って……!」


 紅音は絡め取るように、鷹一の持っていた光剣ビームカタナを弾き飛ばし、腹にトンファーを突き刺した。


「ふぐっ……」


 軽く息が漏れる程度の攻撃だ。

 それは、ただトンファーの使い方を鷹一に教えるため、必要以上のダメージを与えないように手加減したから。

 ――ではなかった。


「よく覚えてください、鷹一さん。これが“反逆の激突リベル・インパクト”の能力です!」


「は? ――んぐッ⁉」


 次の瞬間、まるで後ろに勢いよく引っ張られたかのように、鷹一の体が吹っ飛び。そして、意識が消し飛んだ。



  ■



 マスクをしての走り込み、そして新たな異能力オルタビリティ、“反逆の激突リベル・インパクト”の使い方を学ぶ。

 主にこの二つの練習を一週間積み重ね、ついに。

 妃乃宮夜雲が、スパーリングを募集した日となった。


 第一格技場は、三条学園の中でも、一際大きな施設であり。

 特に大型の試合をする際には、ここが使われるのである。


 その第一格技場の、いくつもある控室の一つに、鷹一は居た。

 すでに、青いスカジャンに黒のズボンと、いつもの衣装ファイトスーツに着替えており。

 パイプ椅子に座って、転送ポッドを眺めながら、集中力を高めていた。


 AAAは、安全性に考慮されている。

 事故を絶対に無くすことができるわけではないものの、治療ポッドの設置や、異能力オルタビリティを発動すると体の周囲に張り巡らされる精神膜ドレスが体を守るので、他の格闘技に比べても大きな怪我が少ないのだ。


 しかし、かと言って、戦いであるということに変わりはない。

 現代を生きる人間において、よほどの達人でもない限り、思考を戦闘に向けることはなかなかできないのだ。


 だからこそ、しっかりと集中力を高める。

 目の前に立つ人間を、なんのためらいもなく殴れるように。


「鷹一さん」


 背後から、紅音の声がする。


「おぉ、どうだった?」


「今回はあくまでスパーリングなので、特別な条件はないそうです。舞台は市街地。参加人数は一〇人……だったんですけれど」


「一〇人、だった?」


「もっと多いようなら、生き残り戦バトルロイヤルで、というのが夜雲ちゃん側の意向だったみたいなんですけれど。それくらいなら、大した時間はかからないから、一人ずつやるって」


「何?」


「まあ、夜雲ちゃんなら、それくらいはできるでしょうね。それで、まずは鷹一さんから、ですって」


「俺からか」


「ええ、名前順だそうで」


 あさひな、だからか。

 と、鷹一は納得して、鼻を鳴らすように笑う。


「舐めくさりやがって。絶対後悔させて、他の九人の出番を削ってやるぜ。もう入っていいのか?」


 転送ポッドを指差すと、紅音は頷く。


「ええ。もう夜雲ちゃんの準備は整っているそうなので」


「そうか」


 と、鷹一は椅子から立ち上がり、二度三度、軽く拳を振るった。


「さすがに緊張してます? ちょっと、体が固くなってますね」


「集中の前に温めたんだが……。まあ。ぶつかるだけさ」


 そう言って、鷹一は転送ポッドの中に入り、目を閉じる。


「鷹一さん、今回は流石に、精神通話テレパスを使って、私が指示オーダーしますからね」


 紅音の言葉に、鷹一は「正式なトレーナーでもねえのに、いらねえよ」と言おうとしたが。

 しかし、それよりも先に、鷹一の転送が始まってしまった。

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